第4話 探求者のこだわり

 満足げに、順調にツナチヂミ、白ごはん、チヂミ、チヂミ、ごはん、お味噌汁、と食べていたツナさんだったが。


「……あの、少しわがまま言うてええですか?」


 ツナさんが遠慮がちながらも、はっきりとした調子で言う。


「はい、何でしょう」


「このツナチヂミ、めっちゃ美味しいんですけど、私がツナ好きやからか、もっとツナが多くてもええんや無いかって思ってしもて」


「ああ、なるほどです」


 実はお昼営業のとき、このツナチヂミを、お客さまとして来た赤塚あかつかさんと沙雪さゆきさんにも食べてもらっていた。


「うん、ツナとニラがええバランスやな。ニラは香りが強いから、あんま入れすぎたらツナの味壊すしな」


「せやな。これやったらツナにうるさいやつにも納得してもらえそうやな」


 そうなのだ。良く食べられているチヂミは、ニラがたっぷり入っているものが多いイメージである。だがこのチヂミの主役はツナだ。なのでツナを多めにしていて、ニラは控えめにしてある。


 実はニラを短めに切ってある理由はここにもあって、多く無い量でも全体に行き渡らせるためなのだ。


 だったのだが、ツナ好きツナさんにとっては、もっとツナを多くしても良いと。やはりいちばん大事なのはお客さまのご意見である。


「ほな、2枚目からちょっと考えてみますね」


「でももう焼いてくれてはるんでしょ? これ、充分おいしいですよ」


「ちょっと工夫してみます。マヨネーズは大丈夫ですか?」


「……もしかして」


 ツナさんが目を丸くする。きっとお察しの通りだ。みのりは「ふふ」と微笑む。


 小さなボウルにツナを入れ、マヨネーズと旭ポンズを少量入れて混ぜ、焼き上がって丸皿に移したツナチヂミの上に塗った。パセリの素揚げももちろん添える。


「はい、2枚目のツナチヂミです。ツナマヨをトッピングしました。たれには付けずにお召し上がりくださいね」


「やったぁ!」


 やはり思った通り、ツナ好きならツナマヨもお好きだった。特にツナ好きで無くともツナマヨは好きな人が多いのだ。みのりもツナマヨは良くサンドイッチなどで食べている。


 ツナは日本語でまぐろである。なのでその名の通りまぐろが使われる。だがかつおを使っているものも多い。どちらが使われているかは、パッケージの原材料名のところを見たら分かる様になっている。


 まぐろ使用のものはかつお使用のものより少しばかりお値段が高く、そして臭みがほとんど無い。かつおはやはり独特のくせがあるのだ。とはいえツナフレークになるとそれほど気にはならないが。オイル漬けの方ならなおさらだ。


 まぐろもかつおもヘム鉄を多く含むので、お母さんも良くツナマヨにして、おやつなどで食べさせてくれていた。ロールパンなどに挟めば立派な一品、朝ごはんなどにもなる。食パンに塗ってトースターで焼いても美味しい。もちろんおむすびにしても美味だ。


 「すこやか食堂」ではまぐろのツナフレークを使うことにしている。ツナさんなら大丈夫だと思うのだが、他のお客さまがくせを気になってしまってはいけないからだ。


 ツナさんはツナマヨトッピングのツナチヂミをもりもりと食べている。さて、3枚目を焼かなくては。


 どうしようか。ツナがもっと多くても良いと思われた理由は、きっとバランスだ。今のツナとニラのバランスは、ツナの好物度合いが普通の人ならきっと満足してもらえるものだ。だがお好きな人には物足りない。


 だからと言って、単純に比重を変えれば良いのかと言われれば、それも違う気がする。ニラを使うならその良さも活かしたいのだ。みのりはどうしようかと冷蔵庫を開け、食材庫を開け、そして。


 これやったら。そう思って取り出したのはとあるお野菜だった。それを粗みじん切りにする。ボウルで絹ごし豆腐を滑らかにして片栗粉と卵を混ぜ込み、少し多めに増やしたツナととあるお野菜を入れた。味付けは変わらず鶏がらスープの素と少量のお塩。


 そうしてできた生地を、ごま油を引いたフライパンに流し込む。じゅわじゅわと焼けていくチヂミを見ながら、みのりは「今度こそは」と願う。


 2枚目のツナチヂミを早々に食べ終え、3枚目を今か今かとそわそわ待っているツナさん。空いた丸皿はすでにゆうちゃんが引き上げてくれていて、スタンバイも万全だ。みのりはさっくりと焼き上がった新たなツナチヂミを新しい丸皿に移し、パセリの素揚げを添えた。


「お待たせしました。お野菜を変えてみました。お口に合うとええんですけど。たれ付けてみてくださいね」


「楽しみです! ありがとうございます! ほんまや、ニラがあれへん」


 満面の笑みで応えるツナさん。期待に満ちている様に見える。


「何が入ってるんやろ。あらためて、いただきます」


 そうしてさくっとお箸を入れ、ひと口大をたれに付けて、熱々のそれをはふはふと口に入れた。そして「ん! なるほどなぁ!」と目を輝かせた。


「玉ねぎですね!」


「その通りです」


 ツナの味を邪魔しない、だが旨味になるものとして、みのりが選んだのは玉ねぎなのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る