第2話 夢の牛肉
ナイフとフォークをお
「ここ、おしながきに栄養素っちゅうん? このメニューはこれが入っててあれにええとか書いてあるやん。何でなん?」
初めてのお客さまからは、たまに聞かれることである。みのりはいつもの文言を口にした。もう慣れたものなのだ。
「食べるもんは身体を作るもんですから。自分にはこれが足りんとか、感じることって無いですか? 何やちょっとめまいがするなぁとか、胃の調子がよう無いなぁとか。そういうときに選んでもらえたら、少しは身体を労ってあげられるんとちゃうかなぁって思ってるんです」
「へぇ、なるほどなぁ」
みのりがこっそりと「ビフテキさん」と名付けたお客さまは、感心した様な表情で目を見開いた。
「俺なんかはステーキ、あ、牛肉のステーキとか焼肉が大好きやねんけど、もしかしたら何か足りひんとかあるんやろか。健康そのものやと思うんやけど」
「確かにお元気やからこそ、がつっとしたステーキが食べられるっちゅうんもありますよね。その方の
「はー!」
ビフテキさんは
「今までそんなん考えたこともあらへんかったわ。単に旨いから食うてたけど、食い物ひとつ取ってもいろいろあるんやなぁ。ほな、脂身とかあんま食わん方がええってことか? 俺、脂身も結構好きやねんけど」
「もちろん食べ過ぎはよう無いと思いますけど、ほどほどに食べはるんは全然ええと思いますよ。脂質とか油分は少なすぎてもあかんのですよ。潤い不足になって、お肌とか髪とかぱっさぱさになりますから。それに、脂身美味しいですよね」
「せやんなぁ。焼肉屋とかで上ロースとか頼むと、ええさしの入った肉来るやん。あれ旨いやん。A5ランクとか夢やわぁ」
ビフテキさんがうっとりと顔を緩める。みのりは思わずくすりと笑みをこぼした。
「A5ランクの肉がええ肉って聞くんやけど、ちゅうことは他にもランクってあるんやんね?」
「そうですね、A5ランクがいちばんええお肉とされてますね。BランクとCランクもありますよ。1頭の牛さんから食べられる部分がどれだけ取れるかで決まります。Aが多くてCが少ないんですね。で、数字の1から5は、さしの入り方とかその色や質、お肉そのものの締まり方とかきめの細やかさ、色の綺麗さなんかで決まるんです。ですんで、実は美味しさで決められてるんや無いんですね」
「そうなん? A5ランクが旨い肉やと思ってた」
「もちろん美味しいお肉ですよね。贅沢品でなかなか手が届きませんけど。でも私みたいに赤身好きな人には、A3ランクぐらいが美味しいなって思うんですよ。赤身で有名かなって思うんが熊本のあか牛とかなんですけど、こちらがA3ランクほどなんですって」
あか牛は和牛の1種、
「へぇ、ってことは、えーと、3掛け5で、牛肉のランクって15に分けられてるってことか。面白いなぁ」
「そうですね。そうやって分けた方が、買うときとか提示するときに分かりやすいからなんでしょうね。ステーキハウスとか焼肉屋さんとかで書かれとったら、どんなお肉か想像しやすいですもんね」
「そやな。なんやA5がいちばん旨くてええ肉やて思い込んどったけど、そうとは限らんのやな。勉強になったわ、ありがとう」
ビフテキさんが
「いえ、こちらこそ聞いてくださってありがとうございます。食べ物のお話はついテンションが上がってしもうて」
「分かる。俺も牛肉やったらめっちゃ上がるもんな」
ビフテキさんは言って、にっと口角を上げた。
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