幼い日の契約
「時間がないって……なんだよ? どういう事だよ! お前ら、何処かに引っ越すのか? そんな話一度も聞いた事……」
「そうじゃないんだぬ! 引っ越すとかそう言う次元の話じゃない」
「じゃあ……なんだよ! どうして時間がないんだよ!」
夏休みの宿題が終わらないとか……そう言う話か?
そんな話であったら、どれだけ良かった事か……。
「……静香は、もうそろそろ”死んでしまう”んだぬ」
「は……? 何言ってんだ! んなわけねぇだろ! お医者さんだって、大した事はないって言ってたし……単に具合悪くなっただけで……大袈裟な……」
「……良いや。本当だぬ。……モフの言っている事は、事実だぬ。静香は今、現代の人間の力ではどうしようもない危険な状態にあるんだぬ……!」
「は……? おい! お前、いい加減な事ばかり抜かしてると流石に……」
「いい加減? 違うぬ! 静香は、本当にもうそろそろ死……」
「それ以上、デタラメを抜かすな! このクソ犬! まさか、ここまでクソだとは、思わなかった!」
呆れた俺が、犬を持ち上げて、ポイッと捨てる。しかし、かき氷は平然と着地し、尚も俺に言ってきた。
「……どうやら、まだ完全には思い出せていないみたいだぬ」
「え?」
振り返るとかき氷は、俺の事をジーっと見ながら言ってきた。
「……若造、お主にはまだ……封印されたままの記憶がある。それを今から解放するんだぬ!」
「解放って……お前、何を言って……ていうか、今日のお前は一体何なんだ!?」
と、その瞬間にかき氷の真下が輝き出し、物凄いオーラを纏い始める。
「はっ――!」
次の瞬間、かき氷が物凄い力のこもった声でそう発すると、一瞬のうちに俺の脳裏に……物凄い記憶の波が押し寄せて来て……俺の頭が処理不可能な位にチカチカと次々に映像を映し出した――!
「……これは!?」
「そうじゃ。思い出せ……。お前さん達の本当の記憶じゃ……しっかりと思い出すのじゃ……」
*
――あれは、今から何年前になるのだろうか? 俺と静香がまだ小学生の頃の話だ。幼稚園の頃から仲が良く、静香が俺の家のすぐ傍に引っ越して来た影響から俺達は、よく一緒に小学校に通っていた……。
しかし、当時の静香は物凄く体が弱くて……学校を休む事もそれなりに多かった。それもあって、よく学校中の奴らからいじめの標的のようにされてしまい、俺はそれをいつも撃退していた。
だが、ある時――静香は、また風邪を引いてしまった。あまりにもよくある事だったので、最初の頃の俺は、特に気にもしていなかったし、いつも通り連絡帳を届けに行っていた。
だが、今回の風邪はただの風邪などではなかった。静香は、学校を1ヶ月ほど休んだのだ。それだけ休んでも彼女の風邪は、治らないどころか……むしろ、悪化し続けていた。お医者さんもとうとう心配になって静香の家に上がって、訪問診察をするようになっていた。
そんな中、俺もアイツの事が心配になってきて、日に日に……大丈夫かなと心配する心は、強まり……俺はお見舞いの数を増やした。すぐに体調が良くなるように……と、アイツの手を握って祈ったりもした。
だが……それでも静香の風邪は、悪化していく一方だった。お医者さんも……このままではまずいと、薬の数を増やしたりしたが、それでも治らなかった。医者からしても静香の風邪は、解析不能で……手の施しようがなかったみたいで……薬を増やす以外に手段がなかったみたいなのだ。
それでも、日に日に元気じゃなくなっていく静香を見ていて、俺は……家にある貯金箱を叩き割り、溜めていたお小遣いを全て握りしめて、神社に行った。
そして、そこで神様にお願いしたのだ……。
「神様、お願いします。……どうか、アイツを元気にしてやってください! 俺、何でもします! どんな罰も受けます! ただ、俺はアイツに元気になって欲しいんです! お願いします!」
その時だった。俺の耳に聞き覚えのない奴の声がしたのだ……。
「……なるほど。病気の友人を助けたいとは……なんと哀れな子だぬぅ~」
「え……? 貴方は……」
声の下を振り返って見るも……そこには、誰もいない。俺は、辺りをキョロキョロ見渡し見ると、声の主は北風と共に告げた。
「……お主の願い、叶えてやっても良いが……しかし、それには1つだけ代償が必要じゃな」
「だいしょー?」
「お主の持つ大事な何かを差し出すのじゃ。そうすれば、願いを叶えてやらんでもないぬ」
その言葉に俺は、嬉しくなった! すぐに走って家に帰り、部屋の中からゲームソフトと、おもちゃが入ったおもちゃ箱を取って来て、それを神社の前に広げた。
「……これ全部! これ全部大事なものだ! だから、これ貰って良いから……静香の事を……」
だが――。
「そんなガラクタじゃ、ダメだぬ。もっと、違うものでないと……」
「違うのって、例えば何さ……? 頭の中で?を浮かべていると、その声の主は、言ってきた」
「例えば、そうじゃなぁ……。お主のその者に対する気持ちとかどうじゃ?」
「気持ち……? そうだぬ。お主、その女子の事が好きじゃろ?」
「えっ!? えぇ! そっ、それは……」
「とぼけんでも良い。お主は、分かりやすいからのぉ。……そんなお主の気持ちを代価にしてくれれば……その娘を助けてやれるかもしれぬ」
「……本当に、そうなのか?」
「あぁ……。お安い御用だぬ」
「……分かった。じゃあ、何でも良いから。それでお願い!」
「ほう……。良いのか? お主は、それで……?」
「うん! 俺、静香とこれから先もずっと一緒に居られればいいから! アイツとこれから先も変わらない日々を過ごしたいから……だから、そのためなら俺、大丈夫! それに、アイツがあんなに頑張ってるのに……友達である俺も頑張らないと……ダメじゃん?」
「……ふっ、良かろう。ただし、後で後悔するなよ。自分の幼い心と、無知な気持ちにぬ……」
そう言うと、声の主は……俺から静かに対する恋心を奪い去った……。俺の心は、どうしてだかその時から無気力気味になり、ボーっとする事も増えた。
静香は、すぐに体調を良くした。あの謎の声のおかげなのだ。良かった。……それだけで、その時は、十分だった。
けど……。
全てを思い出した時、俺は……膝をついた。
「……そう、だった……。俺は、あの時……」
そんな俺にかき氷は、告げた。
「……思い出したか? お主が、モフに言った事……。あの時の契約を……」
「……何なんだ? お前……? ただの喋れる犬じゃないだろう? どうして、お前は……いや、お前があの時、俺の願いを叶えたのか?」
すると、次の瞬間にかき氷は、衝撃的な一言を俺に言ってきた――。
「……そう。お主の幼い時の願い事を叶え、その代償にお主の静香に対する恋心を奪ったのは、この……モフだぬ。いいや、もうモフと名乗るのもやめよう……。拙者の正体は……鞍馬山に住む妖怪。……そうだなぁ。某にも分かりやすく言うのなら……”鞍馬天狗”とでも言うべきかのぉ?」
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