あと二日と少し

 たぶん、理知的な人が、全てを理解したうえで「お前の人生は地獄ばかりではない」と言ってくれたことが嬉しかったのだろう。


 …………いや違うな。その表現は適切でない、考えて、見当違いであるように感じる。


 ――理知をして、「お前の魔法は地獄ばかりではない」と言ってくれたことが、嬉しかったんだ。


 どうしてなのかは分からない。

 ただ振り返って、確かにそう感じていたのだと腑におちる。


 なんだか、救われたような気分になったのだと……。自分の魔法をそのように言ってくれた人と、親しくなりたいと、そう思っていたんだ。


 自分に一番近しい、隣人、か。


「…………」


 ところで。

 俺は、合間合間に何度も時計と睨み合って、遅々として進まない時間にやきもきしていた。そしてそんな自分に呆れている。遠足前か。


「やるべきことをやれ、やるべきことを」


 とはいえ、追っ手の姿は今日も、影も形もナシ。予兆すら観測できず、いつもの平和な田舎であった。


 学び足りないことを常に知り学べとは言うが、学びが煮詰まる時節はとっくに来ていた。本来ならここからが学習の本番ではあるものの、片手間でやるには、やれることも少なくなった状態である。


 また、つい時計に目が行ってしまう。遅々ちちとして進まないような、たまにどっぷりと時間が進んでいるような。ライブ前か。


 空想に耽ることもあった。彼女と丘に腰掛け話し合う空想だ。

 まるで乙女のようだが、その思いを窘めようとは、どうにも、思えなかった。


 シィ・リティエルリ・ロウエグ、彼女とまた会えるのが、もう、あと二日と少ししかないのだと考えると。どうしても。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る