2-9 星に願いを
栄一の家にお泊りだ。
といっても、特別な何かをするわけではない。
録画のアニメを見たり、ゲームをしたり、ちょっとだけ夏休みの課題をしたり。
しかし司にとっては「何てことのない夏休み」は貴重だった。
「休みもあと二週間かー」
晩御飯に、と栄一の母に用意されたカレーを食べながら、栄一がしみじみと言う。
「もっと休みほしいよな」
「課題、あと二週間で終わるか?」
「まぁなんとか」
「おっ、氷室頑張ってるなぁ。俺はちょーっと難しくなってきたぞ」
「それって前に俺が来て一緒にやってからあんまりやってないってことじゃないか?」
「違うぞ氷室。あんまりじゃなくて、全然だ」
「威張って言うことじゃない」
司が笑うと栄一も快活な笑みだ。
しかしすぐに真顔になって問いかけてくる。
「おまえさー、進路とか考えてる?」
「うわ、いきなりまた重い話」
「塾でさ、そろそろ考えとけって先生に言われてさー。次の面談で方向性答えなきゃなんだよ」
あぁ、と司は納得の声を漏らす。
司も塾に通っていて、似たようなことを言われたのだ。
進路か、とつぶやく。
今は暁に協力しているが、果たして自分はいつまで暁の協力者でいるだろう。
大学に行くとして、大学生の間は手伝ってもいいかな、とは思っている。
だがその先は?
そもそもどういったところに就職したいんだ?
律のようにトラストスタッフに就職して本格的に暁のメンバーになるという意思は今のところない。
だがその他に具体的な何かがあるわけでもない。
適当な会社に就職して適当な給料をもらえればそれでいいかな、ぐらいしかない。
「とりあえず大学は行きたいかな」
「学部は?」
「うーん、文系よりは、理数? って感じ。南は?」
「俺はな、実は天文学をやってみたくてなー」
意外だった。
「そうだ。今日、流星群の極大なんだよ。見に行かないか?」
へぇ、と司は相槌を打った。
流星群は冬に見るものだと思っていた。お盆のこの時期にあるとは驚きだ。
「夏よりは冬の方が観測しやすいんだけどな」
そこからは栄一の流星群講座になった。
天文学を学びたいというのも納得のうんちくが聞けて司は驚いてばかりだ。
「どうしても大学が決まらないならおまえも天文やる?」
「それもいいかもな」
「おっ、やった!」
「まだ決めたわけじゃないからな」
「まーそうだけど。んじゃ、流星群みに行こかー」
栄一の家から十五分ほど歩いた小高い山の上が観測スポットだった。
他にも何組か来ていて、それぞれが夜空を見上げる。
「うーん、ちょっと雲があるなー」
空を見上げて栄一が少し残念そうな声をあげる。
「けれど、粘ってたら一つくらいなら見つけられるかもなー」
星好きの栄一がいうならそうなのだろうと司も空を見る。
薄雲の間の空は、思っていたより明るかった。
この近くは外灯もほぼなくて暗いが、街の明かりが空に反射しているのが判る。
本当は星がたくさん瞬いているはずの夜空には、ぽつんぽつんと頼りない光の星が数個あるだけだ。
これじゃ流星も見えないんじゃないか? と思いつつ、それでも楽しそうな栄一に「もう帰ろう」とは言い出せなかった。
ぼんやりと空を見上げながら、進路のこと、蒼の夜のこと、遥のことを考えていた司の目に、綺麗に尾を引く星が映り込んだ。
周りからも歓声があがる。
「見えたなー。あ、願い事忘れた」
栄一も嬉しそうだ。
「何を願うはずだったんだ?」
「そりゃー流れ星見えてる間に三回唱えられる願いなんて、
「確かに」
栄一の答えに司が笑うと、自分達のやりとりが聞こえていたらしい周りの人からも忍び笑いが聞こえてきた。
栄一といると心が軽くなる。
こんな楽しい時間がこれからもありますように。
もしも流れ星に願いをかけるなら、そんな感じだなと司は思った。
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