その暗闇にこの刃が届くまで

えんぺら

第1話 二人の出会い

この世界は平和だった。神々に統治され、人類はその恩恵と庇護を受け繁栄していた。そう奴が現れるまでは…

突如として現れたその男もといその悪魔は圧倒的な力でこの世界から神々を追放した後、自身を邪神と名乗り、独裁という名の支配を始めた。

自分以外の信仰を認めず、反抗した人々はその悪魔の眷族に殺されていった。

神々が統治した平和で美しい世界はもうない、倒壊した高層ビル、荒れ果てた田畑、おぞましい化け物の唸り声が響く大地。

人々は監視され、そして悪魔に怯える日々、ここは人々が自由という言葉の意味を見失った暗闇の世界。

これはそんな世界でそれでも抗うことを諦めなかった者たちの物語。


「はあ…はあ…ここまで来れば…もう…」

白髪の少女が息を切らせながら、半壊した橋の下に隠れるように滑り込み、自分自身を安心させるように口に出す。

「ふーっ」

「ハハッミツケタゾ、ソコカ。」

白髪の少女が安心したように息を吐いた瞬間、黒い影が白髪の少女目掛けて空中を滑るように飛んでくる。

「いや…来ないで…」

少女は恐怖で動けない、涙を流しながら少女は死を覚悟した。こんな世界でも楽しいこともあったなとかいろいろなことが頭をよぎる。

「行くぞ『メラ』!」

「あいよ!」

少女の耳はそんな声が聞いた、だがそんなことは些細なことだ何せ今の自分には目の前の絶望を止める力はないのだから、少女は目を閉じその絶望を受け入れる。

誰かの走る音、何かが風を切る音、そして影があげたであろう声がする。

「クソ、オマエラ、セイレイドモノ…」

影の声が聞こえなくなり、シューと空気が抜けるような音がする。

数秒後、白髪の少女は恐る恐る目を開けるとそこには自分と同じくらいの歳の女の子が風に長い黒髪をなびかせ、左手に炎の灯った剣を持ち振り抜いた状態で立っていた。

「あなた、怪我はない?」

黒髪の少女が剣を腰の鞘に戻しながら振り返らずに聞いてくる。

「はっはい、怪我してないです…あっあの助けていただいてありがとうございます!」

白髪の少女はまだいまいち状況を飲み込めていない頭で混乱しながらそう返した。

「そう?なら良かったわ!」

黒髪の少女は白髪の少女が無事なことが嬉しいのか、今度は振り返って笑顔でそう返した。

「あなた、ちゃんと自分のシェルターに帰れる?」

「あっはい帰れ…いやごめんなさいちょっと無理かもしれないです。」

「わかった送っていく。護衛は任せて。でもその代わり道案内はよろしくね。」

「はい!わかりました!」

そんなやり取りをした後、二人の少女は崩壊した街を歩いていく。

ここはある神が治めていた国、経済が発展したこの国は高層ビルや高速道路がいくつも連なり、都会の美しい夜景を見られる国だった。

それも今はない、高層ビルは半ばから崩れ落ち、高速道路は道の途中でなくなっており、下道の地面は当然のようにいたるところがめくれ上がっている。

「えっと…そのお名前を聞いてもいいでしょうか?」

白髪の少女が自分の隣を歩いている黒髪の少女に少し遠慮がちに名前を聞く。

「いいわよ。私はカレン、こっちは相棒のメラ」

黒髪の少女もといカレンは白髪の少女のほうを向いて頷くと自分の名前を言った後、自身の持つ剣の柄に手を置きもう一人分の名前を口にした。

するとどこからかはわからないがカレン以外の声が聞こえてくる。

「おう、オイラはメラ!お嬢ちゃんはなんて名前なんだ?」

「あわわっ誰!?どこから声が!?」

その声に白髪の少女はキョロキョロと周りをみて慌てふためく。

「ああっそうかお嬢ちゃんは精霊を知らないのか。ならちゃんと自己紹介しなきゃな。オイラはカレンの持つ剣に宿ってる炎の精霊メラ!ちなみに名付け親はこいつだ!」

メラと名乗ったその声は白髪の少女の反応を気にすることなくわかるように丁寧に再度自己紹介をしてくれる。

白髪の少女は驚きと興味が入り混ざったような声でカレンの腰にある剣を見てメラに質問する。

「精霊ってあの精霊ですか!十数年前の神と悪魔の戦争で神と共に戦ったっていう!」

「おうよ!その精霊だ!」

白髪の少女の興味津々な様子が嬉しいのかメラは得意気に答える。

「ああ~すごいんですね!あっごめんなさい私の名前ですね。私はソラって言います。」

白髪の少女は目をキラキラさせながらメラのことを見ていたが、まだ名乗っていないことを思い出したのか慌てて自己紹介をする。

「ソラ、いい名前ね。ソラって呼んで良い?私のこともカレンで良いから」

「あっずるいぞカレン。なあオイラもソラって呼んで良いか?」

ソラの名前を聞いたカレンが笑顔を向けて聞き、それにメラも続く。

「はいっどうぞ。」

ソラは嬉しそうに笑顔を浮かべながら二人の言葉を快く承諾する。

「ありがとうソラ。」

「どっどういたしまして。」

それから二人と一人?は途中で休憩を挟みつつ、あまり人が歩くのに適さない道を他愛もない話をしながら歩き続ける。

そんな中、ソラの暮らすシェルターまで後半分くらいといったところで着信音が鳴る。

カレンはどこからか通信端末を取り出すと話し始めた。

「こちらカレン。ああクレイスどうしたの?……えっ私たちちょうどその辺りにいるんだけど…はあっごめん一旦切るわね。」

カレンはなにかに気がついたのか突然通話を切り、それと同時にメラは焦ったように騒ぎ始める。

「おいおい、カレン!近くにヤベーのがいるぞ。しかも進行方向の先だ!ソラには悪いが大きく遠回りしたほうが良さそうだぞ!ちょっちょと待てよ…そいつこっちくるぞ早く逃げよう!」

二人の雰囲気はさっきまでと変わり緊張しているのがソラでさえわかった。

「私は逃げない。ソラは走れ!」

カレンは剣に手を持っていくとソラに逃げるように言い渡す。

「はっはい!」

ソラは即答し来た道を全速力で駆け出した。

「おいおいまさかカレン!?アレの相手すんのか?止めとけオイラは反対だ!お前がいくら強くてもアレは無理だ!」

「私は逃げない。ここで逃げたらソラに危険が及ぶ。私は約束したのよソラを守るって。」

メラが逃げるよう必死に説得するがカレンは首を横にふり、その場を動こうとしない。

そして先ほど白髪の少女とした約束を口にする。

「それはそうだけどよ…」

「だから力を貸しなさい『メラ』」

カレンが剣を引き抜きながら自分の名を呼ぶ声を聞いたメラは止めるのを諦めた、この子は止まらないと、長い付き合いだ残念だがそれくらいわかってしまう。

「はあ~もうお前っていつもそうだよな。わかったオイラも力を貸してやる。けど帰ったら覚えてろよ!」

メラは諦める代わりに大きなため息と小言を少し、それから相棒の覚悟に応えるように刃に激しく炎を灯す。

「ありがとう。」

カレンは静かにお礼を言った。

それにメラはいつもの調子で応じる。

「おうよ、なら前見てみろ奴が来たぜ。どうする?先に仕掛けるか?」

「そうするわ。」

「了解!」

短い作戦会議を終えた少女と精霊は白髪の少女と交わした約束を守るため走り出した。

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