【前世でお前と伴侶(つがい)だった。今生こそ添い遂げよう。】と、貴族男子が次々やってきますが、そんな前世に心当たりがありません!

ぷり

【短編】【前世でお前と伴侶(つがい)だった。今生こそ添い遂げよう。】と、貴族男子が次々やってきますが、そんな前世に心当たりがありません!


「君は前世で、私の伴侶(つがい)だった。結婚してくれ」


「は? 前世!?」


 私は今、通っている学園の校庭で、珍妙な告白をされている。

 呼び出したのは、これまで関わりがあったどころか会ったこともない、ハリスン伯爵令息だ。


 そして前世? ふむ。

 

 実は、私も前世は覚えている。

 

 だがしかし。はてはて? 


 伴侶(つがい)を得るとかそんな物語のようなドラマチックな人生ではなかった。

 普通。まったくもって普通の人生を生きた女でしたが?


 まあ普通っていっても、夫の単身赴任中に事故にあって死んだので、悲しい終わりではあった。

 当時、夫の単身赴任が終わるのはもうすぐで楽しみにしていたので、それが心残りだった。


 そしてこの度の生。

 剣と魔法がある中世ヨーロッパファンタジーな世界に生まれて、ちょっと楽しかった。


 名前はエイミと申します。


 なんと前世も詠美(えいみ)って名前でした。

 ちょっとそこはつまらない。


 そしてもう一つ残念なことに平凡な平民に生まれてしまった。

 もっと上流階級に生まれてみたかったなぁ、と思う。


 けれど、前世で学んだ記憶があるために、それは先取り学習となり、優等生となることができた。


 そして15歳から特待生として、平民だけが通う学校から、貴族と優秀な平民が通う学園に編入した。


 だから平民クラスであったとしても、この学園に入れている子たちは、クラス全員が優等生です。


 つまり。


 平民としてそれなりに、条件の良い伴侶を見つけられる可能性が高い。

 それが無理でも良い人間関係を構築できるはず。


 また、何を生業(なりわい)にするかは決めてないけれど、この学園には貴族様たちがいるから、ちょこっとお近づきになったら侍女の仕事とかも、もらえるかもしれない。


 そう思うと平民であっても人生勝ち組、平民においてのカーストは高い場所で生きていけそう、と思ってウキウキしていた。


 ――それなのに!


 冒頭の理由(わけ)のわからない状態に陥(おちい)ったのである!

 これは私の今回の人生計画の危機ではないだろうか!?


 今朝、靴箱にラブレターが入っていて、クラスのだれだれ君がくれたのかしら? 

 まさか、からかいの手紙じゃないわよね? とか。1日中ドキドキして過ごしていたのである。


 なのに、指定されたこの場所へ来たら、立っていたのはお貴族様だし、いきなりお前は伴侶(つがい)だったと言い出したのである!? 何を言ってらっしゃる!? こいつは!!


 私の乙女チックなドキドキは、今やミステリー的ドキドキに変わり、内心青ざめている。

 かえせ! 私のときめき!!


 だいたい前世で伴侶(つがい)?


 私の前世の結婚相手は、普通に、平凡にサラリーマンな夫でしたよ!?

 前述でも言いましたが、ちょっと単身赴任続きで、あまり会えなかったけど!!


 ひと違いじゃないですかね!?


 てか、貴族に告られるなんて怖いわ!!


「結婚はちょっと難しいかと……。申し訳ありません。どなたかと、お間違えではないでしょうか? それでは私はこれで……」


 私はサクッと帰ろうとした。サクッと。


 しかし。


 がしっ、と右肩を掴まれた。


「待つんだ。エイミ」


 ……発音が日本語!?


 前世ほんとに日本人なの!?


 すこし眉唾に思っていた私は、驚愕して振り返った。


「逃げるなど、許さない。お前は私の伴侶(つがい)だ。前世で添い遂げられなかった思いを遂げさせてもらう。そしてこれは婚約指輪だ」


 懐から、指輪ケースを取り出す。


「告白と同時に婚約指輪まで用意済み!?」


 驚愕第二弾である。


 こわいこわいこわいこわいこわい。


「ちょっと待ったぁ!!!」


 そこへ違う貴族令息が現れ……!?


「エイミはオレの前世の伴侶(つがい)だ!! オレの名前はブルータス。エイミ、怖かっただろう」


 ブルータス、おまえもか!!

 しかし誰だお前は!! 初見だぞ!! ブルータス!! がっしりイケメンだな!!


 そして私はハリスンから引き剥がされ、ブルータスにぎゅっと抱きしめられる。


 うぇえ!?


「エイミ……お前を一目みたとたん、全てを思い出した。オレの伴侶(つがい)……ああ、こんな風に抱きしめることができるなど、夢のようだ」


 一見、ロマンチックではあるが、私は??????状態である。


 しかし、こいつらの私の名前の発音は、きっちりと日本語だ。

 私の忘れている前世でもあるのか!?


「待て!!!!」


 そこへまた違う声が響いた。


「こら、君たち。エイミが困っているだろう。さっきから様子を伺っていたら、君たちは前世で彼女を伴侶(つがい)だと言うが、僕こそが、彼女の前世の伴侶(つがい)だ。」


 ……第三の男が現れた!!!


 きらびやかな金髪碧眼、学園の頂点である――エマニュエル王子……。え? 王子?


 プリンスキターーーーーーーー!!!


 なんだこれは、突発的にハーレムが出来上がっているぞ!

 いえ、私はハーレムなんぞ望んでないんですけど!?

 身分的に振り払えないよ!!

 だれか助けて!!


 プリンスは私をブルータスから引き剥がすと、その腕の中にそっと抱いて囁(ささや)いた。


 お前ら抱きしめるの好きだな!! やめて!!


「エイミ、会いたかった……。君をひと目見た瞬間、すべてを思い出した。君は覚えていないかもしれないが……僕の前世の名前は、モンジロウ」


 モンジロウ!?


 ……。


 あっ!!!


 前世で一匹飼いしていたオカメインコの名前だ!!!


 たしかに私は彼を愛していた。ペットとして。


 そうか、お前、モンジロウだったのか!


 私の肩に止まろうと飛んできて止まれず、そのまま壁にぶつかった衝撃で死んでしまったモンジロウ!!


 とっても悲しかったよ!! ……ってそうか!


 

 ペット1頭飼い……それは、ペットによっては、飼い主を伴侶とみなしてしまうことが……あああああああ!!!

 伴侶(つがい)ってそういう流れですか!?


 なんか私が知ってる運命の伴侶(つがい)とは違う気がする!!


 ちなみにオカメインコは上手に飼えばかなり長寿である。


 私は何年も飼ったモンジロウを失ったあと、悲しみにくれた。

 でももう、長年つれそうペットはなんだか辛くて……。

 それでもなにか飼いたくて、あらかじめ寿命の短い子を飼うことにしたのだ。


 ハムスターを連続で2匹。

 1匹が寿命で死んだら、そのあともう1匹……みたいな流れで。


 それがきっとハリスンとブルータス!



「も……」


 懐かしさのあまり、私はモンジロウの名前を呼びそうになったが、堪(こら)えた。


 覚えていることに気づいたら、きっと、もっとグイグイくるに違いない!


 

 こいつらのことは、愛していた、めちゃめちゃ愛してた。

 しかしそれは、こういう愛とは違うんだああああ!!


 それに、普通に考えても平民の私が、この人たちの伴侶になることは難しい。


 とても過酷な人生になるのは目に見えているし、この人たちも自分の身分に見合う、それこそ伴侶を見つけるべきなのである。


 お断りをしなければ。


「あの、すみませんが、御三方様とも。私はそのプロポーズを受けることはできません……。本当にごめんなさい!!」


「どうしてだ……あんなに前世で愛し合ったではないか。君が教えてくれた、君のために前世で何度も唄い愛を伝えたあの日々を忘れたのか?」


「な、何を言ってらっしゃるのかわかりません」


 ごめんなさい、殿下。前世のお笑い番組、笑笑点(しょうしょうてん)のテーマを口笛でずっと教えてしまってごめんなさい!!

 

 とぼけろ! 私!!


「オレも……前世はひまわりの種しかなかったが、一番良い種をお前にいつも贈っていた……思い出せないのか。せつない……」


 ブルータス!! 前世ではほんと、ひまわりの種いっぱいくれてありがとう!!


 チョコに、キューピーだったね!! 名前!! どっちがどっちのハムスターか、わからないけれど!!


「大丈夫だ、覚えて無くても私が覚えている。他の方々がどういう関わりかはわからないが、君は魅力的だからこういうことになってもおかしくはない……。だが、君をここに呼び出したのは私だ。私と婚約してくれ」


 ぱかっと開けてあるその婚約指輪についている宝石は、良く見ればひまわりの種の形にカットされている……!!


 はりすーん!!


「あれだけ思い合い、歌った唄だ。そうだ……ここで奏でよう。思い出すかもしれない……」


 モンジロウ殿下は、いきなりどっからかバイオリンを取り出した。


 そのバイオリンどっから出した!? 倉庫魔法ですか!?


 ――そして、ファンタジー世界の学園の美しい校庭に流れる、笑笑点のバイオリンメロディー。


  きゅっきゅきゅ、きゅきゅきゅ、きゅっ、きゅっ♪ (※あのメロディ)


  やめろおおおお!! ファンタジーが壊れる!!


「さあ、とりあえず誰を選ぶのだ、エイミ」

「エイミが選ばないのであれば……決闘になるな」

「オレは騎士の資格をすでに得た。勝つ自信はある……」


 うあああああ、血みどろ展開はこまるよおおおお!!


「みなさま、やめてください。私のような平民のためにそのようなことは……」


「エイミ、なんて健気なんだ……」

「ますます、今生では添い遂げたくなった……」

「君を忘れるなんて、できない」


 いや、これまでの話しだと、最近まで前世知らなかった感じですよね!?



 ――そこへ。


「あの、ちょっとお待ちください」


 そこへ、1人の青年が割って入ってきた。


 また増えた!?


 この3人……もとい3匹以外飼った覚えはないけど!?

 まだ飼ってたっけ!?


 見ると、同じクラスのレイ君だった。


「レイ君……?」


 同じ平民の人がきた、と思ったら少しホッとした。 


 レイ君は、私の肩に手を置いて抱き寄せると、


「申し訳有りませんが、彼女は売約済、つまり既にオレと婚約しています」


 と、言い放った。


 そして耳元で、


「(助けてやるから話を合わせろ)」

 と囁かれた。


 それを聞いた私は、コクコクと頷いた。


「「「なんだと」」」


「……なので、どうかお引き取りください。話はすこし聞かせていただきました。前世ということですが……貴方がたは確か婚約済みではないですか? 目を覚ましてください。今生の大事な人を忘れないでください」


レイ君がそれを言うと、彼らはハッとした。


「……ああ、君の言う通りだ。エイミを見た瞬間、心が急に捕らわれたように、そのことしか考えないようになり、前世にとらわれていた。……オレは間違いを起こそうとしていた」


 ブルータスは、額に手をあてて、正気を取り戻したようだった。


「僕もだ。僕は一国の王子だというのに、何を血迷っていたのか……。すまない、迷惑をかけたエイミ君」

 

 王子も、バイオリンを下ろして、時が止まったかのように空中を見つめた。


「私もだ……こんな指輪まで作って……。婚約者に申し訳がたたない。どうやらペット脳になっていたようだ」


 ペット脳ってなんだ!?


「大丈夫です、今なら私達以外この事は知らないでしょう。バイオリンが響いてしまいましたので、ここから早く立ち去ってください」



 すまない、そうさせてもらう、と正気を取り戻した私の前世のペット達は去っていった……。


 ちょっとビックリしたが、前世のあの子たちに会えたこと自体は、嬉しかったな、と思った。

 本当に愛してた子たち。


 その後、謝罪の手紙と、前世でとても大切にしてくれてありがとう、といった手紙が3人ともから届いた。


 人間(わたし)の都合で飼ってしまってるな……と思ったこともあったので、その手紙をもらえたことで救われた気がした。


 そして、彼らは彼らでその後幸せな人生を送っていったようである。




********



 高貴な3人が去っていったあと。


 

 「えっと、レイ君、ありがとう……よく私が困ってるってわかったね?」


 そういうと、レイ君に少し額をコツっとされた。


「……まったく、前世と同じ表情して困ってるんだから……」


 はい?


「……アイツらが前世前世って喚いてたろ。オレも同じ穴のムジナだ。お前の前世の関係者だ……つってもお前がオレを覚えてるかわからないけどな」


 ん? ……この、喋り方。そういえば、以前からクラスで会話するとき、彼にはどこか、懐かしさを感じていた。


 まさか。


 私は、胸がツンとして、涙が目に滲んできた。


「……お前、覚えてるな? その態度」


 レイ君が私の涙を拭う。


「レイ君……玲斗(れいと)……」


「正解だ。……オレはずっと前からお前に気がついてたけどな。名前もエイミだし、前世のお前にそっくりでおっちょこちょいドジだし。お前が前世を覚えているかどうかわからないから、黙ってたんだが……」


 私は彼に抱きついた。


「ずっと会いたかったよ!! でも、ちんちくりんはひどい!!」


「はは、ごめん。けれど、お前が事故にあって死んでしまって……オレもずっと会いたかった」


 レイは私の頭をなでた。


「それは、ごめん……」


「事故はお前のせいじゃない。あっちが酔っ払い運転だったんだから」


 そっか、酔っぱらい運転だったんだ。


「……なあ、もう一度夫婦するか?」

「え?」


「あ、いや。もう一度、結婚してください、エイミ。お前が思い出さなくても、そのうち告白するつもりだった。前世から変わらずに、好きだ」


「……うぇっ」


「あ、こら。泣くな」


「うん、ごめん。うれしくて――ありがとう、こちらこそ、もう一度、よろしくね。レイ。 ……ふふ、前世よりイケメンだね!」


「おまえもな。前世よりとっても美人だ」



 私はひどい! といいつつ彼に抱きついた。


 そして。


 ――今生は、できるだけ長く一緒にいようね。


 そんな風に彼の腕の中でつぶやいた、春の午後だった。


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