炎上が止まないゲームの最前線で
@peko34
第1話
「ゲームを買ってきたんだ。早速始めよう」
突然僕の部屋に入ってきて、脈絡のない話を入れてきたのは、僕たち幼馴染4人のまとめ役を担う事が多いエレだ。
彼女は4人の中で唯一学年が上の高校3年生。そろそろ受験勉強をしなくてはと、最近は幼馴染の溜まり場になっている僕の部屋に来ていなかったので会うのは1週間ぶりだ。
エレ達と初めて出会ったのは10年以上前になる。エレは当時自分の名前も分からなかった僕を、お前と呼ぶのも感じ悪いからと、英語で「ユウ」というあだ名を付けてくれた。
適当に付けた割には、他のみんなと違って外見にこれといった特徴のない僕にはピッタリなあだ名だと思う。
英語のあだ名は子供心に刺さったようで、自分たちもあだ名を作って呼び合おうという事になり、それは高校生となった今でも続いている。
当時から、身長が高くてスタイルも良く、美形だった彼女はエレガントと呼んでほしいみたいだったが、すぐ調子に乗る彼女をそう呼ぶのは癪だったので縮めてエレと呼ぶようになった。
幼馴染4人で、何か難しい事に挑戦するのが大好きなようで、いつも嬉しそうな顔で僕たちを厄介事に巻き込んでくる。
そんなエレだから、今回のように突拍子もない事を言い出すのは珍しい事じゃないけど……ゲーム?
「なんだァ、、急に、、ゲームなんて珍しいな」
そうスクワットをしながら返したのはピースケ。190センチの身長に加えて、趣味が筋トレという熱苦しい男。
「てかエレ、お金無いんじゃなかったっけ? 食費も節約してたのに、ゲームなんてよく買えたな」
ゲームに興味が無いのか、本題に関係無い事を聞くのは
エレの弟で、身長は160センチと男子高校生の中では小柄な部類であるにも関わらず、足の速さは全国でもトップレベル。今も鏡の前で入念に走行フォームのチェックしている。
子供の頃から、女性でありながらどんなスポーツでも少しこなしただけで突き抜けてしまう天才エレに、あらゆる事で負け続けた僕たち3人は、1つの武器を磨いて対抗しようとした。ピースケはパワー、MOはスピード、僕は特技と言った具合にだ。
その結果、いつも4人が集まる僕の部屋はとても熱苦しい空間になってしまっていた。
「それがな、このゲームは500円で買えたんだ。受験勉強の息抜きにはちょうどいいだろう?」
「……あ、ふーん」
ああ。なるほど、なるほどね。はぁ、ゲームと聞いて少し期待したのに……
今のゲーム業界はVRゲーム一色で、世界中で大盛り上がりをみせている。僕もずっとやってみたいとは思っているんだけど、どのゲームも高くて手を出せないのだ。
そんな中で500円で買えたという事は、コントローラーやテレビを使うようなレトロゲームでも買ってきたのだろう。
「あー、今は、、ようやく、、身体が悲鳴を、、あげ始めたところでな、、悪ィな!」
「まぁ……僕も今回はパスで」
「500円とはいえ節約をしろ、節約を」
みんな久しぶりにエレと会うというのに、彼女に見向きもしない。休日にわざわざ1つの部屋に集まってトレーニングしている健康オタク達が、ゲームで誘って食い付くわけがないんだよね。僕もあまり興味は無いし。
レトロゲームにも名作は沢山あるとは思うんだけど……僕の特技とコントローラーの相性が良すぎるんだよな……苦労するところがないからいまいちハマれない。
「お前ら……まだゲームについて何も話してないのに興味を無くすんじゃない。というかユウはVRゲームがやりたいと以前から言っていただろう」
「……え、VRなのに500円で買えたの…?」
いや更に興味が無くなったよ……今のVRゲームといえば、人工的に作られた仮想世界で、プレイヤーが現実と同じように体を動かせるアバターを使って楽しめる、擬似体験型ゲームの事を指している。
その仮想世界では時間の流れが現実より早いとの事で、空いた時間に冒険したり、離れた所に住んでいる友達や恋人と、その世界で会って遊べるというようなゲームが人気を集めている。
当然そんな超技術の塊であるVRゲームがそんなに安い訳がないし、多分――エレが買ってきたのはVRという言葉が出始めたころの、実際の体を動かすような初期のゲームだろうな。
この狭い僕の部屋で4人プレイなんて絶対にしたくないぞ。
「待て待て、更に盛り下がるんじゃない。そりゃ値段に不安を感じるのはわかるが、今はちょっとした理由があって安くなっているだけだ。
これはちゃんと超有名なゲームクリエイターが手掛けたゲームで、発売されたのもなんと1年前という準最新のゲームだぞ?」
「1年でワンコインまで値段が下がるのはちょっとし過ぎだからね……絶対良い意味で有名じゃないでしょその人」
「――あー、はいはい。それ聞いて俺は何のゲームか分かったわ。アレでしょ?――『ユートピア』」
ユートピア? ゲーム名かな。僕とピースケが聞いたことが無いと伝えると、MOは1つため息をつき、白けた目をこっちに向けてくる。
「……お前らは俺ら以外にも友達を作れよ。めちゃくちゃ話題になったタイトルだろ……」
やめなよ……ピースケはちゃんと友達を作ろうとはしてるんだから……筋肉ムキムキの大男で声が大きい事が災いして全く成果は出ていないようだけど。
僕は信頼出来る友達が3人もいて幸せだから、今以上なんて望んでいない。
「……話しを進めるぞ? そう、MOの言う通り『
「VRゲームで理想郷って――また随分大きく出たね……」
「いや……それ相当なクソゲーって話を聞いたぞ?」
「ほう?」
「クラスの奴らが、ゲーム史上でもぶっち切りトップのクソさだとか。絶対やりたくないんだが?」
僕らの中で唯一友達が多くて、最近の流行りや噂話なんかに詳しいMOが言う。
「なるほど。――では聞くがその話しをしてくれた友人は実際にプレイしてみてそんな感想を抱いたのか? 発売当時は学生が手を出せる値段ではなかったと思うが」
「え? まぁ……ネットとか、動画かなんかの評価で話してただけだと、思うけど……」
「今や動画や配信で、何かを酷評するのがお金に出来る時代だ。悪口が好きな人間は多いからな。
悪意だけをまとめるサイトなんかもザラにある。そしてそんな稼ぎ方をしてる人間は、自分でも悪評を流すだろうしな。こんな状況でネットの評価だけを当てにして手を出さないのは勿体無いと思わないか?」
いや長い長い長い……男子高校生に、反論するとちょっと格好悪くなる系の言葉で詰め寄るのやめてあげて! エレのこのムキになり方は、絶対何か不都合な事隠してるもん……
「い、いや確かにネットの評価を丸きり信じたのはちょっとダサかったかもだけど……
そうだ! うちのクラスにゲーム好きの女の子がいるんだけどな? 明るくて、悪口なんかも絶対言わないようないい子なんだけど」
「あー、MOのクラスにゲーム好きで有名な子いるよね。大会でも何度か結果出してるとか」
「そうそうその子。毎日バイト入れてVRゲーム買うんだって楽しそうにしてたのに、ある日を境に急に口数が減って魂抜けたみたいになっちゃってな……確かその時買おうとしてたゲームがユートピアだったような……?」
「…………」
「…………」
「……ほーん、なるほどな! ……っし! 今日もいい汗かけたんで、ちょっくらシャワーでも浴びてくるわ!」
「はーい、いってらっしゃい」
「まてまてまてーい! いや、分かった、認めよう。確かにこのゲームは特殊だ。序盤から難易度が恐ろしく高くてな、結構な実戦経験でも無いとゲームを進める事すら難しいだろう」
「……いやなんだよ実戦経験って……普通ないだろ。……初めて口に出したわこの単語」
「ゲームなのにそんなもんが関係してくんのか?」
「最近のVRは、現実の身体で出来ることはなんでも出来るって聞くね。逆に運動が苦手な人はゲーム内でも苦労するみたい」
だから今のVRのロールプレイングゲームやアクションゲームは、誰でもクリア出来るようにと難易度がどんどん低くなっていると聞いたな。難しいゲームこそ面白いと感じる僕としては少し残念な流れだ。
「そう、そこで運動神経だけは馬鹿みたいに高いお前らだ。特にユウは1対1の戦いでは誰が相手でも負ける気はしないだろう?」
「えぇ……? まぁ、常識の範囲内で、準備する時間が貰えるならまず負けないと思うけど……」
なんか全然話しが読めないな。運動神経が求められるゲームなら僕ら3人がクリア出来ない訳ないし、エレは一体何を求めてるんだろ?
「てか1対1ってなんだよ。4人でやるんじゃねーの?」
「4人でやるさ。──1人用のゲームだから、1人ずつ、順番にな」
「ええ……? それ楽しいかなぁ」
「他の奴がプレイしてる間は俺たち何してりャいいんだよ。ゲーム画面は見れんのか?」
「ゲーム中での出来事は録画が出来るな。私らが見たいならその映像を見ることになる。まあだからといって待っている間、暇になる事はないさ。さ、とにかくやってみようか」
みんなあんまり乗り気じゃないのに勢いだけで押し切ろうとするエレ。……ダメだな、これ今断っても明日明後日と永遠に誘われ続けるやつだ……あれ、でも待てよ?
「あのさ、さっきからエレ、このゲームの事詳し過ぎない? さっき買ってきたんじゃないの?」
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