第14話 ラウラ、孤児院を訪問する
イザーク王子の専属侍女の仕事を始めて一週間ほど経ったある日のこと。
「おはようございます、イザーク王子」
「おはよう。……今日のドレスは少し上品な印象だな。いいと思う……」
「ありがとうございます」
私たちは毎朝恒例の挨拶を交わす。
イザーク王子は毎回私の装いを褒めてくれるので、朝から気分が上がる。
……まあ、「王子の専属侍女として合格だ」という意味に過ぎないのだろうけど。
「今日は孤児院の視察に行く予定になっているので、それっぽい格好にしてみました」
「ああ、そういうことか」
今日は一日、孤児院に視察に行く予定だった。
現在、国内ではあちこちで魔物による被害が発生しており、魔物に襲われて親が亡くなってしまったり、農地が穢れて手放さざるを得なくなり、食い扶持を減らすために子供が捨てられるなどして孤児が増えているらしい。
国としても憂慮すべき事態だということで、魔物の討伐と孤児院の支援の両面で対策を練っているのだとか。
さらに、最近では悪徳な経営をしている孤児院もあるとのことで、実態調査のために今回視察に行くことにしたようだ。
ちなみに、初めは普通にイザーク王子が公務として出かけて、私はそれについていくだけかと思っていたのだけれど、どうやら今回は違うらしい。
なんと私が将来、孤児院の経営を目指す商家のご令嬢、そしてイザーク王子がその秘書という
公務として赴くより、そのほうが孤児院の普段の様子や経営者の本音がよく見えるのだそうだ。
「……それにしても、うまくやれるか心配です。ちゃんと私、裕福なお嬢様っぽく見えますか?」
「ああ、心配いらない。可憐で心優しくて慈悲深い清廉な令嬢にしか見えない」
「そ、そうですか……」
またしてもイザーク王子の魅了の思い込みが発揮される。
普段は頑張って抑えているようだけど、こうやって突然発作のように溢れ出してくるので、こちらもつい恥ずかしくなってしまう。
「えっと、イザーク王子の格好も似合っていて素敵ですよ。伊達眼鏡とかもかけると、それっぽくていいかもしれませんね」
「…………デニス、伊達眼鏡を用意してくれ」
「ここにございます」
なんと、思いつきで言った伊達眼鏡をデニスさんはすでに用意していた。準備がよすぎる。
そしてその眼鏡をかけたイザーク王子は、想像以上によく似合っている。
思わず見惚れてしまっていると、そろそろ出発の時間だったようで、イザーク王子が私に手を差し伸べた。
「……では出かけるか」
「あ、分かりました……!」
お互いに普段と違う格好をしているせいか、なんとなく照れている私たちに、デニスさんが冷静に告げる。
「ところでお二人とも、孤児院では身分がバレないよう、お互いに『ラウラお嬢様』『イザーク』と呼ぶのをお忘れなく」
「「……!」」
そうして馬車に乗り込み、揺られること数十分。
私たちは王都郊外にあるチェルニー孤児院に到着した。
馬車を降りた私たちをオーナーのチェルニーさんが出迎える。
孤児院のオーナーというと、なんとなくお婆さんとか肥えた中年男性をイメージしていたのだけれど、まだ若い男性だったので意外だった。
「ようこそいらっしゃいました。当孤児院を見学場所に選んでもらえて嬉しいです。……ところで、お二人ともお顔が赤いようですが大丈夫ですか?」
「あっ、その、馬車の中が暑かったもので! ですよね、イ、イザ、イザーク……!」
「……はい、ラウラ、お嬢様……」
まさか、馬車の中で『ラウラお嬢様』『イザーク』と呼び合う練習をして照れてしまったとは言えない。
明らかにぎこちないやり取りの私たちを不思議そうに見つめつつも、チェルニーさんは特に疑わないでくれたらしい。
「まあ、今日は少し日差しがあるかもしれませんね。中でお水でもお出ししましょう」
「ありがとうございます、助かりますわ……!」
それから私たちは孤児院の中を見学させてもらい、運営に関する書類なども見させてもらった。
正直、私にはよく分からなかったけれど、常にぴったりと隣に控えていたイザーク王子がしっかり確認して、チェルニーさんにも色々質問していた。
たまに伊達眼鏡をくいっと押し上げる仕草が様になっている。
(こんなに難しそうな書類をあっという間に読んで理解してしまうなんて、イザーク王子は優秀なのね)
今まで勝手に武闘派のイメージを持っていたけれど、どうやら頭も相当いいらしい。
意外な一面に感心して見直してしまった。
そんなこんなで、設備や書類の確認を一通り終えた後、私はチェルニーさんに申し出た。
「せっかくなので、子供たちと一緒に遊ばせてもらってもよろしいですか?」
悪徳孤児院か見極めるには、子供たちの様子を見ることも大切だ。
表情や健康状態、怪我の有無などで分かることもある。
それらを近くで確かめたくてお願いしてみれば、チェルニーさんは快く了承してくれた。
「ええ、もちろんです。子供たちもラウラさんと一緒に遊ぶのを楽しみにしていたんですよ」
「それはよかったです。では、イザークも一緒に行きましょう」
「はい、ラウラお嬢様」
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