ヤバい動画

@ii_tenki_

ヤバい動画

「この動画なんですけど…」

Aさんのスマートフォンの画面には、真っ暗なアパートの一室が映し出されていた。


真っ暗ではあるがぼんやりと周囲の様子は観察できた。

綺麗なワンルーム。廃墟というわけでも、かといって竣工したばかりというわけでもなく、生活感のある普通の部屋という印象だ。


動画は部屋の真ん中のローテーブルとソファを交互に映し、20秒ほど経ったところで、突如大きく画面が揺れたて終わった。


ふむ、と一呼吸おいて、尋ねた。

「ヤバいものが撮れたっていうのは、この動画のことですか?」

「はい、えっと、」

「すみません、僕あまり霊感とかには自信がなくて、もう一度、」

見せてもらえませんか———、


その言葉を待たずに、Aさんが言った。




「見せます、今度は、音ありで」




動画はミュートになっていた。

ミュートを解除するAさんの手は、小刻みに震えていた。


先ほどと全く変わらないアパートの一室。

真っ暗のままの生活感のある部屋。


音だけが、


「ハッピーバースデートゥーユ~~♪」

「ハッピーバースデートゥーユ~~♪」

「ハッピーバースデー、ディア~~~~?」

ケーキが置いてあるであろう場所と、誕生日を迎えた人物がいるであろう場所が交互に映される。


「A~~~~!!!!」


「ハッピーバースデートゥーユ~~♪」

「おめでとー!!」

数人の拍手の音とともに、画面が大きく揺れて動画は終わった。


Aさんは続けた。

「これ、心霊スポットとかじゃないんです。私の部屋で、肝試しとか怖いものがいたから撮ったとかじゃなくて、私の誕生日で、友達が私のこと撮ってくれてて、音だけ普通なのに、映像は、」

「動画撮ってくれた友だちとか、周りで祝ってくれた友達とか、いなくなっちゃったんです、ただ、その子の親とか、彼氏とか、声が聞こえるって、」

「私も聞こえるんです、たまに、その子たちの声、姿は見えないのに、」

「いるの?いるの?って…」

「私、どうなっちゃうんですか、もしかして、私も…」


顔を上げると、テーブルの向こうには先ほどまでAさんが飲んでいたアイスコーヒー、問題の映像を映したAさんのスマートフォンだけが取り残されていた。


「○○さん?あれ?どこですか?あれ?〇〇さん?」


Aさんの声だけが、変わらずそこから聞こえていた。

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