s-KILL-er ~殲滅スキル「シリアルキラー」で無双できるけど、一日一つは命を奪わないと気が狂いそうになる!善良な人うっかり殺すのはダメだって!~

ひゐ(宵々屋)

プロローグ 殺すために冒険者になっちゃダメですか?

プロローグ(01) 殺しに来たはずなのに殺されそうなのですが?

 あっ、これ、ダメかも。癖になりそう、というか、なんというか。


 ……楽しい?


 ――そう初めて思ったのは、八歳の頃、お父さんと川に釣りに行ったときのことでした。


「シャールカ、お魚はこうやって捌くんだよ、できるかな? 怖かったらお父さんが代わりにやるよ」


 釣った魚を捌く。そのためにナイフを握ったとき、何か、、と来てしまって。

 魚のお腹に切っ先を刺しこんで滑らせたら、その感覚が楽しくて。

 でも、何か、物足りない感じがありました。


 その日以来、私は、食糧庫にあるお肉に、時々隠れてナイフを刺してみたり、斬ってみたりしていました。さくさく刺さる感覚が気持ちよかったです。

 お肉料理をすすんで作ることも増えました。お料理のためなら、お肉をぐさぐさ切り分けても、誰も不自然に思いませんから。


 けれど、やっぱり……そう、満たされなかったんです。


 料理についても、お肉料理より、私はお菓子を作っている方が楽しく思えました。

 誰かに相談することはありませんでした。


 わかってたんです、「私、普通じゃない」って。

 だから誰にも言えなかったし……私自身、まだ認めていなかったというか。


 このままじゃ本当にダメだと思ったのは、十二歳の時です。


 その日、私はケーキを作って、お母さんやお父さんと一緒に食べようと思っていました。家の外にテーブルと椅子を出して、よく晴れた空の下でお茶会をしようと思っていたんです。


 そこに、魔物がやって来ちゃいまして。


 このあたりに魔物は少ないのに。大型の、人に近い形の魔物でした。あとから知ったのですが、これはオークという魔物だったそうです。

 そのオークが、私達一家に襲い掛かったのです。


 でも、誰も怪我はしませんでしたし、オークもすぐに死にました。

 私が殺しました。ちょうどケーキを切ろうとしていて、ケーキナイフを持っていたので、それで、えいっ、と。

 それで、そのケーキナイフがオークに刺さった瞬間だったのですが……。


 これこれこれこれこれ!!

 これ!!!!!

 斬れる!

 殺せる!

 私が欲しかったのは、これ!!!!!


 ……多分私、殺したかったんですよね。

 森から飛び出してきたオークは一体。簡単に殺せちゃいました。でも私は森の方を見てずっと待っていました。お母さんとお父さんが「まだ仲間がいるかもしれない」と言うのを無視して――。


 いいえ、聞いてなかったわけじゃないんですよ。

 まだ仲間がいるかもしれない、それはつまり――また殺せるってこと!


 残念ながら、オークの仲間はやって来ませんでした。

 お母さんとお父さんは私をほめてくれました。とっても勇敢な子だと。


 でも私は、我に返って思ったのです。

 私、いったい何を考えているんだろうって。

 とにかく何か殺したくて仕方がないのです。

 「また魔物が襲ってこないかな」なんて考えていました。魔物でなくとも、野犬なら殺してもいいかなと思いましたし、家畜だって、どうせ最後は死んじゃうんだから、いま殺してもいいんじゃないかと思い始めました。

 果てに。


 ――悪い人間は、いるよりいない方がいいよね?


 とか、思ってしまって。


 ――いくらなんでも殺人はだめでしょう!


 ……ただ、ずーっと、そんな考えが頭の中でぐるぐる回り続けていたのです。


 ――だから私は、冒険者になることにしました。

 考えてみてください、冒険者になれば、魔物と戦えるのです!


 私が生まれ育った村周辺に、魔物は少ないです。でも冒険者になったのなら、危ない魔物がいる場所に行くこともできます。

 冒険者になれば、私は殺せるし、悪い魔物もいなくなってみんな幸せ最高です!


「お母さん、お父さん、私、冒険者になります!」

「かわいいシャールカ、お菓子屋さんになるのが夢じゃなかったの?」


 ……それはそうですけど、もう抑えられないのです。

 とにかく斬りたくて、殺したくて仕方がないのです。


 お菓子屋さんになることをずっと夢見ていました。だからお菓子作りの勉強をしたり、ケーキやクッキーを焼いたりしてきたのです。


 でもこのままじゃ、気が狂っちゃいそう!

 気が狂って手あたり次第に殺しちゃいそう!


 ……と、本当のことは言えないので。


「――お菓子作りも人のためになると思うけど、私、冒険者としての才能があると思ったの。ほら昔……オークをやっつけたでしょ?」


 本当は。

 本当はお菓子屋さんになりたかった。

 かわいいクッキー、綺麗なキャンディ、食べるだけで幸せになれるケーキ……。

 そういうものを作りたかったけど、お菓子屋さんになったとして、この「斬りたい」とか「殺したい」とか、どうしたらいいのか……。


 人殺しにはなりたくない! それはだめ! 絶対だめ!

 冒険者は危険な職業だってわかってる! それ以上に! このままだと私が周りに対して危ない!



 * * *



 ――私、十七歳。そうやって、夢を諦めて、お母さんとお父さんに別れを告げて、冒険者協会に行ったのに。


「――スキル『人型特殊特効』、別名『連続殺人シリアルキラー』は危険すぎる! よってこの者を処刑するべきだ! もう二度と、あの悲劇を繰り返さないように!」


 なんで?

 なんでなんでなんで?


 なんで私、冒険者になりに来たのに、ぐるぐるに拘束されて偉い人達の前で転がされてるの?

 しかも「処刑」って言った?


「なんでですか!? 私悪いこと一つもしてないし、まだ誰も殺してないのにぃぃぃぃいいい!!!」

「『まだ』って言ったぞコイツ!!!!」

「あっ、えっ、ちがぁぁぁあああう!!!」


 今のは勢いによる間違いですぅぅぅ!

 殺す予定はないです! うっかり殺しちゃうかもしれないだけで……。



【プロローグ 殺すために冒険者になっちゃダメですか? 終】

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