The Red Sketch 切りとられた闇と異界の記憶の欠片
毬壱まり
第1話 異界
赤黒く焼けた空。辺りは一面、荒廃し黒くひび割れた爆心地。ぽつりぽつりと赤煉瓦の街の残骸。
燃え盛る紫の炎の滝がビルの出入口に吸い込まれていく。その上空、巨大な斧を担いだ詰襟黒着衣の少年が、ぬるい風に
暗い虹色のフレームレスゴーグル越しに、少年は建物を見下ろしながら深い緑色のピアス型通信機に触れた。
「目的の座標に到着。目標は建物内に潜伏中。ヤツの本質は――」
少年はゴーグルからの視界に映るヴァーチャルディスプレイのデータを指でなぞった。
左耳から雑音が混じった男の声。
『ツクモ、今回はお前の判断でやってみろ』
ツクモと呼ばれた少年は、腕をだらりと垂らした。
「師匠、本当に俺に任せていいんですか? トロイダルディスクを全部食うかも知れませんよ」
ツクモが少しふざけた調子で返事をすると、通信相手は鼻で笑った。
『しばらくしたら儂は他の界層へ基地局を設置しに行く。それで、この界層でお前の求めている宝が見つかるようになるかもしれん。
お前も長い。そろそろ一人で大丈夫だろう』
ツクモはニヤリと笑いスキップするように空中を飛んだ。目標が潜む炎のビルから天に向けて一瞬火柱が上がり、ツクモの足元に火の粉が跳ねた。
『気を引き締めてな』
「承知!」
ゴーグルの奥の目が赤く光る。背中に背負った斧が空中に浮かび、回転して柄が手の中へ収まる。ツクモは斧を振りかぶり炎の上がるビルに向けて投げた。
ビルが真っ二つに割れる。瓦礫は光の粒子となり炎に吸い込まれる。炎の中から、薄紫色をした座椅子のような形の本体――魔物が現れた。
ビルの瓦礫に埋もれている斧へツクモは手のひらをかざす。空中を移動し引き寄せられた斧を素早く手に握りしめ振りかぶり、薄紫色の魔物めがけて投げつける。
魔物は光の粒の霧になり、ゆらゆらと徐々に集結し、真ん中に穴のあいた外径三センチメートルほどの塊になって薄紫色に光り輝いた。
ツクモは地上に降り、それを拾い上げ右目で穴を覗き込み、しばらく観察していた。
「……これじゃねえ」
ため息をつき、腰ベルトの小さな鞄に突っ込んだ。
巨大な木々が聳える森林の上空。
ツクモは空中を移動し、木々に囲まれた灰色の立方体の倉庫の横へ降り立つ。扉を開き中へ。
入ってすぐの右側の壁の一角に、剣、刀、斧、銃などの武器が引っかけられ、壁の上方全面に張り巡らされた棚板には様々な色のトロイダル型のディスクが飾られている。一つ一つ色形を異にする鉱石が並べられたコレクションルームのようだ。
ハーネス型のボディベルトで背中に固定された大斧を抜き取り、出入口付近の武器の並んだ壁のフックにかける。
先ほどの薄紫色のトロイダルディスクをベルトバッグから取り出し、壁の棚板にコトリと置いた。
ゆっくりと壁一面を見渡し、倒れるようにふわりと床の真ん中へ寝転び、目を閉じホッとため息をついた。
「やっぱりここが一番落ち着く」
ベルトバッグの中から、四ミリメートルほどの小石のようなトロイダルディスクの破片を取り出し口の中に放り込み舌の上に転がす。
「うっ……辛っ」
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