26 妙案

 やはり自分でかたをつけるべきだ。クロに頼られたのだから。

 ある夜、康介はそう思い立った。ベッドに横になったものの、暑くて寝苦しい夜だった。

 身体を起こし、考える。床に、月明かりでできた影が映る。

 大人には頼れない。言葉を話す猫のことなど、どう話せばいいかわからないし、信じてもらえるとも思えなかった。茜以外、頼れる相手はいない。

 北海道から来る猫たちをどうするか。これもこたえが出なかった。ミケ十七世とクロで帝国を分割し、港町と根鈴村でわかれて暮らすのが現実的だと思ったが、それは間に合わない。

 せめて、クロが回復し、戻ってくるまで時間を稼ぐことができれば……。

 はたと、思いついた。

 前提条件が間違っていることに気づいた。

 北海道から来るであろう、二百匹の野良猫たち。彼らと、女帝率いる百匹の猫たち。根鈴村の自然は、彼らを受け入れることはできない。

 ──「自然」は。

 だが、飼い猫化すればどうだろうか。二百匹のうち何十匹かでも飼い猫化できれば、根鈴村の「自然」でも、残った野良猫をぎりぎり受け入れられるのではないだろうか。

 康介は立ちあがると、すぐに茜の部屋へ向かった。当然眠っているので、ノックもせずにドアを開ける。茜は布団を蹴飛ばし、腹を出してだらしなく眠っていた。

「お姉ちゃん!」できるだけ小さい声で呼びかけ、茜の肩を揺する。「お姉ちゃん起きて!」

 ふが、とブルドッグのような声をあげて、茜は目をさました。「え、康介? もう朝ぁ?」

「お姉ちゃん、聞いて」康介は言った。「野良猫たちを受け入れる方法を思いついたんだ」

 茜が目をこすりながら身体を起こし、大きな欠伸をした。落ちそうなまぶたを必死で押しあげながら、ベッドに腰かけ、康介を見つめた。

 康介は必死で、思いついたことを話した。野良猫の飼い猫化というアイデア。茜の目が見る見るうちに見開かれていく。

「康介」茜は落ちついた声で言った。「あなた、本当に頭いいのね」茜は部屋の明かりをつけると、本棚にさしてあった村の地図を取りだした。床に地図を広げ「たしか、根鈴村には五十軒の家があったはず」

 康介はうなずいた。

「一軒につき二匹としても百匹。半分はまかなえる。残り半分は山や神域に行ってもらえば」

「十分、根鈴村でも飼える」

「女帝様は、人間に飼われることまで想定してなかったのよ」茜は言った。「プライドの高い人だし、代々帝国を率いてきたっていう責任もある。人間を頼るなんて、考えになかったのよきっと」

「根鈴村の人って、猫を大事にしてると思う」康介は言った。「それは御華屋神社の伝承があるからだと思う。だから、三毛猫帝国がやってきて猫が増えても、大人たちは騒がなかった。基本的に、猫に対して寛容なんだよ」

「かん……難しい言葉知ってるのね」茜はあきれた。「とにかく、一軒につき二、三匹、餌だけでもやってもらえれば、受け入れられるかもしれない」

「問題は、野良猫たちが人を警戒しないかどうか、だけど」康介は言った。「それにかんしては、トラさんやフタさんたち特異体質猫がしっかり説明すれば、大丈夫だと思う。この村で、野良猫を追いまわすほど、猫を嫌っている人はいないんだから、あとは野良猫側の問題さえ解決すれば──」

「康介!」茜は康介にだきついた。「あんた、ほんっとうに頭いい! 最高! さすがは私の弟!」

「お姉ちゃん、暑いよ……」

「明日、さっそく女帝様のところへ行きましょ」茜は言った。「善は急げ。私たちだって役に立てるってことを証明してやりましょう」

 握り拳を作り興奮する茜に、康介は力強くうなずいた。

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