連載中の少年漫画の世界にTS転生したら多分死ぬ味方最強キャラの弟子になった
木蛾
第1話 ささやき-えいしょう-いのり-ねんじろ!
「ファンタズムローグ」という少年漫画があった。既刊12巻。連載中。通称"ファンログ"。
あらすじとしてはよくあるファンタジー世界で冒険者の主人公の"レヴィ"が、同じ魔法学校出身の竜人のヒロインと共に、オムニバス形式で章ごとに一つのダンジョンを攻略していくという話である。それぞれのダンジョンにおける不穏な繋がりが匂わされたりして、大きな謎に繋がっていくという大筋も存在している。
自分の漫画に対する姿勢は売れてたり表紙が気になったりした作品を単行本で買うくらいだったが、オタクの友人に強く勧められたので借りて読んだことがある。ちなみに最新巻は今月発売したてでまだ借りていないので未読。友人は本誌派であるらしくかなり先まで読んでいて、しばしばこの作品の話題の時ちょっとネタバレを匂わせてくることもあった。衝撃展開があると単行本派なのに自分に対して興奮気味で話してきたことも思い出深い(学校で作品について知ってて共有できる相手が自分しかいないため)。
ストーリーはよく言えば王道、悪く言えば陳腐だが、主人公とヒロインの使う魔法や収集した魔道具の多彩さによる戦闘描写や二人のキャラ、お互いに一途な恋愛描写などが面白く、今一番来てる作品だと友人が力説するのも納得できる出来だった。
まあ、実際のところそこまで売れてはいなかったらしいが、それでもこのままいけばアニメ化は確実だとか、それでちゃんと多くの人の目に触れれば売れるだとか言ってたなぁ…。
ここまでダラダラと説明してきたが、そんなことを今、目の前の人物を見て強烈な頭痛とともに鮮明に思い出したのだ。もしかしたらこれは今際の際の自分のただの妄想なのかもしれない。
私はファンログ第4巻の表紙で見たことのある燃えるような赤毛に金色の目をした190cmほどある長身の男に抱き抱えられていた。
「生存者はあんただけか」
それも、故郷の村が滅んだ状態で。
◆
前世の死の記憶はかなり曖昧である。死に至るような病気などでは無かったはずだが、ショッキングだから脳がセーブしてるのかもしれない。まだ学生という若い身空で死んでしまい親には申し訳ないな、と思った。
転生をしてまず思ったことは、輪廻転生って時代とか地域とか全部ごちゃごちゃなんだな、ということだった。少なくとも現代の文明レベルのそれであるとは思えなかったが、しかし異世界、ましてや読んだことのある漫画の世界だということには思い至らなかった。
自分が生まれた村は、特産品も名物も取り立てて無い大したことのない小さな農村だった。そこで私は大したことのない村娘として生まれ育ち、今日に至るまで19年間暮らしてきた。例外があるとするなら、目がやたらいいことと、既に行き遅れと言われる年齢であるのに独り身であることくらいだった。
医学の発達していない時代の農村では乳幼児の死亡率が非常に高いこともあり、子どもを積極的に作らなければ労働力不足に陥るため、普通この年では結婚しているものであるが、自分の前世は男の異性愛者であったため男とそのような関係になりそのような行為をするということに対する忌避感があったのである。
そして、人生が何も楽しくなかった。娯楽はほぼ無く、気を紛らわせるためにひたすら労働に打ち込んだが、それも欠片も楽しくなかった。知っている農業知識を活かそうとも思ったが、別に農家でも専門学生でもなかった自分には現状を改善することはできなかった。出稼ぎに行くと言って外に出ようとしても女である身ではそれも叶わない。
作物の量がよその家より多少いいことを誇りに思いながらここで一生を終えるのかと思うと身震いがした。
しかし、今冷静になって思い返すとそんな生活の中でも違和感はいくつかあった。
まず、宗教が元あった知識で有名なそれと酷似しているが絶妙に違うことだ。それでも土着で既存宗教が変化することは往々にしてあるしそういうものかと納得していた。
星空もなんか違う気がしたが、日本とは緯度経度が違えば異なって見えるし星座表も無いのだから勘違いだろうと思った。
村人たちがみな魔法の実在を信じていて、数回旅の魔法使いを名乗る人物が訪れて摩訶不思議な奇術を見せられたこともあった。そうはいっても時代背景的にオカルトは真面目に信じられてるし、どうせ魔法を名乗るそれはトリックがあるんだろうと思った。というか実際見破ったことも一度ある。僅かに本物の魔法なんじゃないかと期待していたため、その時は死ぬほどガッカリした。
どこかであらかじめ気づいていれば、何かが変えられたのだろうか。
まあ、どれだけ考えてももう詮無きことである。
全部燃えたし。
◆
今日の朝は何一つ変わり映えしない日だった。日の出とともに起床し、母とともに家族の朝食を用意し、一日の農作業に向けて準備をした。
昼前、畑で父と雑草取りをしていると、村に"焔の魔女"が襲来してきた。
そしてそれまでの全てが終わった。
"魔女"と呼ばれる存在は、作中で主人公たちの前に立ちはだかる敵として語られていた。現代日本における一般的なイメージとは異なり、異界に存在する悪魔や神々と契約したり交信を試みたりして、それによって得た外法を用いて人に害をなす犯罪者のことを指す言葉である。公的に管理された秩序側の場合の呼び名は"聖女"。何と契約しているかは関係ない。
ちなみに定義に性差が存在しないのに"魔女"と呼ばれる理由は、女の方が悪魔などとの適合率が高い傾向にあり、歴史上男の"魔女"や"聖女"は存在しないからだ。と言っても女でも9割以上は悪魔との接触時点で死ぬか廃人になるらしいのだが。
焔の魔女はその魔女の中でも極めて凶悪で残忍なことで比較的有名であった存在として、作中でも触れられていた。その力は小さな国なら落とすことすらできるとまで言われている。
その女は村の中空に突如として現れ、哄笑とともに村全体を囲うように炎の壁を作り、逃げ場を無くした後、全ての民家を燃やした。そこから飛び出してきた村人たちを、無数に生み出した緩慢な動作で動く炎の巨人によってゆっくりと追い詰め、空から煽り続けてた。
奴は非常に嗜虐的な性格をしていて、人が生きながらにして燃えることに至上の快楽を見出しているようだった。
近くにいた私の父が目の前で焼かれていく。いつか死んでも自然の一部となると話していた父は殺すために殺され、炭になった。
巨人が父に気を取られている最中に、夢中になって駆け出していた。気温が高すぎて頭が回らない。肌が熱い。
私はそれぞれの巨人の視線や行動パターンから死角となる場所を直感で把握し、急いでそこに逃げ込むことを続け、生き延びることができたのは幸運と言わざるを得ないだろう。
しかし、結局のところ一介の村人の身体能力では遊びで村や町を焼き尽くす怪人から長いこと逃げられるはずもない。
「キャハッ!あっとひっとりー♡」
あっさりと見つけた魔女が私に近づいてくる。しかし自らの手で殺すわけでは無いようだった。あちらからすればこんな寂れた村を滅ぼすのなんてちょっとした気まぐれの遊びなのだろう。
「今回はぁ、イグニスちゃんたちのショーだからぁ、生き延びたサービスとしてちゃあんと抱きしめさせてあげるぅ!」
ここで死ぬのか、クソみたいな人生だった。また死んだら転生して新たな人間として生まれ変わるのかな。今度も記憶を引き継ぐんだろうか。
そんな風に現実逃避をしながらこれから来る激痛に備えようとしたところで、短剣が私にほど近い巨人の頭部を凄まじい速度で貫き、その首から上が爆散した。
「えっ」
倒れ込む巨人を呆然と見ていると、何かが凄まじい速度で飛び上がり、空中の焔の魔女の付近を通過していく。
銀色の閃光が走ったことを目視した瞬間、四肢と首が胴体と別れ、魔女が墜落する。彼女も一体何が起きたのかまるでわかっていないようだった。
地面に落ちた直後その体が再生を始めようとした時、着地した人物が鳩尾の胴あたりを剣で一突きにした。魔女の弱点である体内の核を的確に捉えていたためか、動きを止め、崩れ去った。美しいほどに無駄がなく、鋭い剣閃だった。
炎の壁が消え、巨人たちも消え去っていく。全てが悪い白昼夢だったかのようだ。
地上最強の剣士、"音断おとたち"ジーク。
史上唯一の竜殺しにして生ける英雄譚。
異名はそのままの意味である。その剣は音速を超え、それどころかその身自体の瞬間速度が弾丸よりも速い。
剣の技量も異常な領域に到達しておりその強さには他にも理由があるらしいが、11巻時点ではあまり判明していない。
漫画での初登場シーンでは、主人公が"七天"と呼ばれる敵幹部的な存在である魔神と初めて戦った際に、腕すら落とされ敗北を確信していた中、嵐のように現れて全ての攻撃を切り伏せ無傷で勝利した。
今回も同じだった。彼が来てから本当にあっという間に終わった。私たちをゴミであるかのように蹂躙した理不尽は、それを遥かに上回る理不尽によって一瞬で滅ぼされた。
そういえば焔の魔女の登場シーンは、ジークの数多の伝説を語る場面の数コマだったな、ということを、無情な光景を見ながら思い出していた。
◆
彼は私の火傷などの応急処置をした後、村全体とその周辺を改めて調べてみていたが、やはり生きた人間は他にはいないらしかった。
さて、これからどうしようか。復讐をしようにもその相手はもう討伐されてしまっている。19年も過ごしてきた村に思い入れは無くも無いが、この焼け野原から一人で復興をすることは現実的ではないだろう。
「とりあえず近場の大きめの街…ヨトリまでは俺が連れて行こう。それ以降は着いてからで」
「ありがとうございます…」
「敬語は使わなくていい、苦手だし、お互い対等な立場でありたいからな。えぇと…俺はジーク、あんたの名前は?」
「…セツナ。短い間だけどよろしく」
「こちらこそよろしく」
正直、ありがたい。元々自分は転生してから口語でここの言語を習得したが、この田舎では一般的な敬語があまり使われておらず礼節に欠いてしまうことへの心配があった。それに彼は作中では親しみやすくギャグもこなせるキャラで、敬語を使うことに少し違和感があったのもある。
「今日は休んで明日から動こう。俺は不眠不休で三ヶ月くらい動けるけど、あんたは多分自覚以上に疲れがある。肉体的にも、精神的にもな」
村が滅んだことにもここが漫画の世界であることにもどこか現実感が無くぼーっとしている私の近くで、どこからか取り出したのか適当に調達してきたのか毛布を用意し、こちらに放ってくる。それを敷いて簡易的な寝床を作って横になった。そして彼も少し距離を置いて座り込んだ。それで休むようだ。
「どうすっかな…教会に行くか、適当にツテである程度信頼できる仕事場でも斡旋するか…」
ジークが小さく呟くのを聞く。ふとその時これからについて頭の中である妙案が浮かんだ気がした。彼に着いてけば王都に行けるんじゃないか?王都なら地方のちょっと大きい程度の町であるヨトリよりも刺激もたくさんあるだろう。前世の知識を生かせば商業などで成功することも夢じゃないかもしれない。
「…あなたに着いていってもいい?」
「えぇ?俺にメリット無いだろ」
「うっ…。そうだね…」
妙案、消滅。
◆
次の日、日が上り始めるくらいに彼に起こされた。
渡された干し果を齧って朝食代わりにすると、早々に移動が始まった。
獣道を越え、街道を歩いてゆく。ここらへんは辺境のド田舎なので街道といっても整備が十分でなくガタガタで歩きづらかった。ジークは山道だろうと何の苦もなく進んでいたため歩く速さはだいぶ飛ばされることを覚悟していたが存外ゆっくりとしたペースだった。
確か作中の説明では全速の馬よりも速くより長い距離を休みなく平然と旅することができる、とあったはずだ。彼は本来ならもっと速いだろうにこちらに歩く速度を合わせているようだ。
「まっ、この時代親無し天涯孤独なんてありふれてんだ。そう悲観するなよ。この俺もそうだぜ。母親なんて顔も知らねぇ」
この男は励まそうとしているのだろうか。流石に昨日今日に家族を殺された人間に対してのそれはノンデリとかいう次元を通り越し過ぎている。私が転生者じゃなくただの一般村娘で泣き崩れてたらどうしてたんだ。
「…ところで、あなたは何でこんな辺鄙な場所に来てるの?活動拠点は王都の方でしょ?魔女を殺しにきたにしては来るのが速すぎるし…」
「んー……言っていいか。上からの依頼の都合でここから更に北の方に行っててな。今はもう終わって報告のためにも王都に帰る道中だったんだ。遠目に奴が暴れているのが見えたから駆けつけたってわけ。…ところで、名前しか名乗ってないけど、俺のことについて知ってるのか。ここら辺だと赤毛に金眼のジークっつってもあんま通じないんだが…」
「あっ!あ、あぁ〜ね、いやーかの生ける伝説"音断ち"ジークのことを知らないなんて田舎者どもはほんと不心得者ばかりですなぁ〜!"轟獄竜"メネトリカを単独で討伐して国を救った逸話はかねがね!この国はあなたがいないと既に一回滅んでるのにねぇ〜!ハハッアハハ!」
「お、おう…。俺の逸話の中でそれはそんな有名だった覚えないけど……」
ここは王都からすれば北西に位置し、更に北の方というと山脈が広がっている。そこを越えたら国境にほど近い位置になるが、まさか彼は隣国への使者をしてきたということなのだろうか…?
…いや、無いだろう。国交のためのそれなら"依頼の都合"や"もう終わっている"という言い方は、しないとは言わないが違和感がある。更に加えるなら彼は叩き上げで貴族出身でも無いし、そんな立場を単独で務めるとは考えづらい。
ふと気づいたが、昨日から"ファンログ"に関する記憶がやけにはっきりしている。前世の記憶で今に至るまで覚えているのはもう印象的なものだけで、この漫画はそれに該当していないはずなのだが…。こう言ってはなんだが、自分で買ったファンログよりも遥かに思い入れもあるし面白いと思っていたはずの一番好きな漫画のことすらうっすらとしか覚えてないのに。
それに、転生してからこれまでは元々ファンログのことを記憶から引っ張り出したことなんて無かった。おそらく何度か作中で出てきた固有名詞をここで聞いたこともあったはずだが、それでも思い出すことはできなかった。どうして今さらなのだろう。
街道を二日間に渡りしばらく歩いていると、3人組の野盗が現れた。
彼は剣を抜くことすら無く適当に対処していた。一人目の顎に手刀、二人目と三人目には回し蹴りで同時にダウンさせた。1秒にも満たないかもしれない早業である。
それをじっと見ていたら野営のタイミングで彼に話しかけられた。
「あんた、いい目してんな」
「…そんなに?戦場を渡り歩いてるあなたから見ても?」
「ああ。全力じゃないとはいえ俺の剣筋や動きを目で追ってただろ?そして何がどう相手に作用したのか理解してる。思い返せば焔の魔女と戦ってる時だってそうだった。」
「えっ…あなたが戦ってる間に私の視線がどこに向かってたのか分かるの?」
「まあ俺は半径数十mくらいなら意識しなくても常に把握してるからな」
ちょっと気持ち悪いくらい凄い。超人は常人とは違う世界を見て生きてるのか…。
「…もっと言えばあんたは俺の剣だけを見てた。」
「それが?」
「普通、戦闘能力をほとんど持たない人間は脅威が近寄ることを恐れてそっちに注目する。…あんた、剣に惹かれてるな?」
「それは…その…確かに、ちょっと綺麗だと思ったけど」
「俺の剣が綺麗だって?初めて言われたよ」
ジークはニヤニヤと笑っていた。思いがけない幸運に出会ったかのような、どこか悪戯じみた笑みだ。
「なあ、セツナ。剣を握ってみる気はないか?」
「…少しだけなら」
基本的な持ち方を教わって、彼が腰に付けていた剣を持ってみる。重い。
振り方を隣で実演された通りに振ってみようとするが、振り回されて取り落としそうになる。
ジークはその時点で少し落胆したような態度を露骨に出していた。
「そんな目しないでよ…剣持つのなんて初めてなんだから…」
「うーん、俺は初めて長剣を握った10歳の時には傭兵に勝ったからなあ。見込み違いか…」
何度か振るが、やはりうまくいかない。ちょっとこれでまさかの才能みたいな展開を期待していた身であったのでこっちも落胆してしまう。ジークがなんか前振りをして期待値を上げてきたのも悪いだろ。
彼が斬ってみろと言って適当に木の枝を投げる。放物線を描く細長い物体の芯を捉えることなどもちろんできずに空振りをするか当たっても切ることには至らない。
慣れない鉄の塊を振り回し続けたことで、肩で息をするハメになった。こんなに疲れるくらいには動いたのに全然できない。短い幻想だった。
そんな中、羽虫が近寄って来た。うざったく思い、移動するであろう場所に剣を置いて軽く振り、断ち切る。
こんなことができたところで…。
ジークはそれを見て少し驚いた顔をしていた。えっ…これは、どっちだ…?
「セツナ、今、虫の動きを予測したよな?目視で見切るだけじゃ不可能だ。どうやった?」
「えっ…羽虫の習性と…空気の循環、後は光や気温とかから何となく…」
「メリット、できたな」
彼が私の手を握り、目を合わせてきた。見上げるほどの身長差があるが、その顔はどこか少年らしい。特異な金色の目に吸い込まれるような感覚に襲われる。
「セツナ、俺の弟子にならないか?もしかしたら、お前は俺と同じ感覚を持ってるかもしれない」
体温が上がるのを感じた。
◆
一も二もなくそれを了承すると、スッと剣を取り上げられた。
そして、まずは体作りからだと言われてここからの移動をダッシュで行うことになった。
翌日、ジークにいつも通り起こされ、軽く干し肉に口にすると、彼が立ち上がり、私の背中を叩く。
「お前がどれだけ鍛えようが俺と同じ身体能力になるとは思ってねえ。それでもある程度の戦闘に耐えうるものにする必要がある。オラ走れ走れ!今日中にヨトリに着くぞ!」
ジークの態度が私に対して何となく雑になっている気がしないでもない。配慮すべき庇護する存在という枠では無くなったということだろうか?
その日の昼頃、息を切らせながら当初の目的地だったヨトリに着いた。今世でここまで長い間全力で走ったことなんてない。汗を滝のように流しながら倒れ込みそうになるが、ジークに抱き止められた。
「よく頑張ったな。えらいぞ」
厳しくした後に優しくするなんてDVかよ、と内心苦笑いをしつつも嬉しくなってしまっている自分に気づく。…褒められたのなんて何年振りかな。
「エハァッ、オッアッがとうっ。ゥウッアァ…吐きそう…」
「何て?……マジで大丈夫か?体力無さすぎだろ」
「農作業してたから、オヘッ、そこらの人間よりかはあると思ってたんだけど…6時間くらい走らされるのは流石にきついよ。…エホッエッ」
「想定なら半分の時間で行けたんだけどな…」
水を飲んで落ち着きつつ、よろよろとジークの後ろを着いて行き門をくぐる。ジークも私と並走してたのに息を切らしてすらいない。
出稼ぎに行った村人から話を聞くことはたまにあったが、村から出たことのない私は今世で初めて見るそれなりに大きい建物に驚いた。川沿いであるからか公衆衛生もある程度は整っており想像より都市の文化レベルは高いらしい。
彼は最初特に大きい建物に行き、私の村が焔の魔女の襲撃によって一人を残して壊滅したこと、下手人の焔の魔女は自らの手で殺したということを伝え、その後書面に何かを書いてサインをし役員に渡していた。
「うし、面倒な用は済んだ。セツナは俺と王都に行くってことでいいんだよな?やっぱやめるならここが最後だぜ。言っとくが死ぬ可能性はこっちの方が絶対高くなる」
私は頷く。離れる訳が無い、ようやくこの世界で楽しいと思えることが見つかったのだ。……スパルタはやめてほしいかもしれない。
◆
流石にここまでずっと農民の服を着ていたがそれでは色々まずいということで、ジークに連れられて長剣とナイフ、その他装備を色々揃えられた。彼はあまり良いものは無かったが何も無いよりマシ、王都に着いたら買い替えると言っていた。改めて着けてみるとかなり重い。ジークのごちゃごちゃしてる装備はこれより多いし、隠し持っている武装もあるためずっと重量があるはずだが、修行を積んだら私も彼のように飛んだり跳ねたりできるようになるのだろうか。
明日には出立すると言われ、取った宿の個室でこれからの行動について頭の中で考える。
私はジークに助けられてこの世界が"ファンログ"であると気づいても、原作に関わろうとする気は無かった。だってそもそもそんなにファンだったわけでもないし、当然設定だって完璧に把握してるわけじゃない。もっと言うと原作が完結してないんだからどんな物語になるか、どんな敵や謎がこのストーリーに待ち構えているのか分かるわけがない。死の危険だって怖い。
けど、ジークの弟子になるなら話は別だ。彼はかなりの主要キャラで、既に何回かの章に渡って登場している。絶対にこの先の本筋にも関わっていくことになるだろう。そうしたら自分も巻き込まれるのは必然。自分の持つ知識を生かしていくことになる。なぜなら…
友人が言っていたことを思い出す。
『ジークってやつ国家最強で味方陣営最強ポジだし、国にヤバい危機が迫ってるのは確実なんだから即座に現場に駆けつける性質からして危機感煽るためにもレヴィを活躍させるためにも絶対死ぬよな。この作者ちょっとダークな作風でもあるし、人気出たからと言って生き残らせるタイプじゃないしな〜』
本当に味方最強キャラが死にがちなのかよく分からないが、自分より遥かに多くの漫画に詳しく、読み込んでいた彼が言っているのだからおおむね間違ってはいないだろう。これだけは絶対に阻止しないといけない。彼に対して命を救われた恩義を感じているのもあるし、ここまでの交流でも彼が悪い人間じゃないということを感じていて死んでほしくはない。何よりも一番近い位置にいるのだ、彼が死ぬような事態になったら99%自分も死ぬ。
昔は奴のネタバレ癖や我流の考察を展開してくることにちょっと辟易していたこともあったが、今となっては非常に感謝している。僅かでも情報量が増えているからだ。
これから始めなくてはならない…私の、最強の師匠を生き残らせるための戦いを!
連載中の少年漫画の世界にTS転生したら多分死ぬ味方最強キャラの弟子になった 木蛾 @cloudear
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