第36話:決戦前夜
「はー」
学生寮の一室。俺の部屋。まぁ飾り気のない部屋の中で、俺はため息をついた。
「ダンジョンへの侵入禁止だってにゃー」
リインがスマホを見ながら、そんなことを言っている。肥大王の一件だ。リインも含めて丙級以下のハンターは問題が解決するまでダンジョン攻略は禁止。そのように決まった。
で、何故か俺はダンジョンに潜らなければいけないのだが。
「ちなみにだ。リイン」
「にゃに?」
「腹が減ったら学食を頼れ」
「お金にゃいよ?」
「先に払ってる。二百万ほど前払いで払ってるから、俺がいなくても食い放題だ」
「にゃんで?」
「金渡しても魔法のカードに使うだろ」
次善策だ。
「だからにゃんでマジナ先輩が私の食費を気にするんだにゃ?」
「金ないだろ。お前」
「それはそうだけど」
つまり餓死はするかもしれない。
「先輩は奢ってくれにゃいの?」
「ちょっと野暮用があってな」
俺としても出勤しなくていいのならしたくないのだが。
色々とやることがある。それをあえてリインに言うこともなく。
スマホをカシカシしているリインには悪いが、俺はアルテミストであることを誰かに言うつもりはない。ヤな目で見られても怖いし、そもそも自慢するほどのことでもない。
「しかしダンジョンね」
別にそれを言ってしまえば、俺が思っていることよりも多く。
「じゃあ飯でも食いに行くか」
「お寿司」
「金ないんだったよな?」
「全部魔法のカードに消えたにゃん」
まぁ一言で言って「ふざけるな」だが。たしかに廃課金魔術師であるリインに何か言っても無駄だろう。あえていうのなら、せめて食費くらいにまで収めて欲しい。それですら経済観念から言えばかなりヤバいのだが。
「で、だ」
まぁ寿司屋に連れていかれるのはこの際いいとして。
「おっちゃん! ウニ! ウニ頂戴!」
「俺は適当にお願いする」
握ってもらえるなら、それ以上はない。
「それで? マジナ先輩は何処に行くのにゃー?」
ウニの軍艦巻きを食べつつリインが聞いてくる。俺は何も言えない。明日から閉鎖されるダンジョン。その中に行くなどと。
「ま、だいたいわかるにゃーけどね」
と、おっしゃいますと?
「マジナ先輩。丁級ハンターじゃないでしょ?」
「俺のハンターライセンス見るか?」
しっかりと丁級ハンターだ。
「うーん。にゃんていうか。言い方が難しいんだけどにゃー。あ、大トロ」
テメェ……。
「うまうま。マジナ先輩ってダンジョンでの立ち回りが既に丙級ハンター以上にゃんだよ。にゃんで丁級ハンターやってんのって感じだにゃー」
「なんでといわれてもな」
「別に詮索はしにゃいけど。タイミング的にはダンジョン封鎖だにゃ? 何も関係にゃいって言える方が不合理というか」
「まぁたしかに」
ハンターがこのタイミングで消えれば、そりゃダンジョンだよなー。
「でも大丈夫? 問題が発生してるって事しか聞いてないけど。乙級ハンターに混じって攻略するんだよね?」
「そう相成るか」
「死んじゃやだにゃん」
「じゃあ生きて帰ってこよう」
「マジナ先輩が死んだら、私はそれからどうやって生きていけば」
「そこは自立してくれ」
俺としてもそこまで責任を課されると、思うところもあり。
「ヒラメ! アワビ! ネギトロ! イカとタコと生エビ!」
好き勝手頼みやがって。
「こんなわけでマジナ先輩の命はマジナ先輩だけのものじゃないからね?」
廃課金を旨とするお前に言われるとあまりに説得力がある過ぎる。というかそこまでして俺に依存しようとするその悪癖が恐ろしい。
「死ぬことは無いと思うがな」
イモータルだし。
「とにかく飯は食ってくれ。その上で俺から言えることは家賃はせめて払ってくれという悲しい願いだ」
「悲しいの?」
アグリ、と寿司を食いつつ聞くリインだが、相手の家賃を俺が払っているという現実に、なんで俺が悲しまないと思った?
「ていうか、実際のマジナ先輩って何級にゃ?」
「甲級」
「………………………………………………………………マジ?」
引くよなー。そりゃそうか。
「昔はアルテミストって呼ばれてた」
「アルテミスト……ってあの?」
「あれ? そうすっと……」
ひ、ふ、み、と指折り数えるリイン。アルテミストが引退したのは最近。で、それより前はアルテミストとして活動していたので、もちろんそこには齟齬が発生する。
「マジナ先輩って……何歳?」
「永遠の十七歳だ」
「ちょ。ま。ガチで? その若さで三十代だったりするにゃーよ?」
「永遠の十七歳だ」
たしかにイモータルだけども。不老不死だけども。年齢についてはマジで聞くな。これでもコンプレックス持ってるんだよ。
「にゃんで平然と学校通ってるの?」
「事情がございまして」
「事情?」
「それについては黙秘」
「教えてにゃーよ」
言えるか。好きな人と一緒に学校なんて。
「ちなみに課金とかしてる?」
「ああ、問題ない」
色んな意味で。
「マヨイバシにチャージするのだってお金いるじゃんにゃー」
「今回はマヨイバシを使わないぞ」
「へ?」
「本来の俺の戦闘スタイルじゃないからな」
マヨイバシは『迷い箸』だ。俺が悩んでちょっと迷走している攻撃方法を端的に表しているネーミングである。ぶっちゃけ俺にとってレールガンでの射撃はマヨイバシと名付ける程度には迷いの象徴で。
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