第8話:肥大王


「こんばんにゃー。今日も今日とてダンジョン攻略。やっていくにゃーよ」


 俺が丸眼鏡のサングラスをかけて、変装しているなか。オートドローンにニコッと笑んでダンジョン攻略配信をしているリイン。コイツのエンタメ根性に関して言えば、かなりの上位だと言わざるを得ない。俺なんかは配信とかする気もない。


『今日のダンジョンはちょっと違うように見える』

『気をつけてリインちゃん』

『これは少し危惧するレベル』

『ていうかどっちに行ったら正解なんだ?』


 そんなコメントを投げてくる視聴者の意見にも頷ける。広い空間が広がっていた。枯れ木のような植物が生えている。ソレが何処までも続いている感じ。葉も生えていない枯れ木が無数に林立して、その空間が何処までも広がっている。これではどこに向かえばいいのかも分からない。だがそれでもモンスターはポップする。


「いぃ……いいぃぃぃ!」


 鳴き声が響く。


 俺とリインが侵入したのは都会に存在する普遍的なダンジョンだ。端的に言ってさほど難しいダンジョンではない。そのポップするモンスターはアーマーサウルスと呼ばれる装甲を持ったトカゲである。


「いいいぃぃぃ!」


 そのアーマーサウルス目掛けて、リインが魔術を放つ。


「――水流刺突トライデント――」


 水が圧縮され、槍となってアーマーサウルスを貫く。その装甲を貫通するほどの威力。もはやアーマーサウルスなど雑魚だと設定しているような。


『さすが天寺リイン』『これくらいなら心配も出来んのだよな』『階層主でも出れば話は違うんだが』


 そうそう階層主に出会ってたまるか。


「いいぃぃ!」「いいぃぃ!」「いいぃぃ!」


 さらに突撃してくるアーマーサウルス。その眉間に俺がレールガンを撃ちこむ。


「――感電ショック――」


 電磁レールを敷いて、加速される銃弾。それによって死滅していくアーマーサウルス。


「さて、じゃあ拾いますかね」


 そうして死んだアーマーサウルスのドロップアイテムを拾っていく俺。エーテルプリズムもそうだし、メタメタルもそうだ。後は肉とか。


『パイセンのレールガン強すぎね?』

『わかるわー。便利だよな』

『ハンターだったら自分も使っているのに』

『言うな。俺らはハンターを諦めた人間だ』


 こういうダンジョン攻略配信を見ているのは、ハンターになれなかった後悔もあるのだろう。実際に国家試験はかなり難しいしな。


「――水流刺突トライデント――」


 さらにリインが水属性魔術を放つ。それによって貫かれるアーマーサウルス。俺はドロップアイテムを拾っていく。そんなおり。ゾクリと悪寒が奔る。腰に差しているレールガンを抜き放って、俺は警戒する。


「なんだ?」


 恐ろしいまでの危機感。ソレが俺を警戒に走らせる。


「ひ……ははは」


 その人物は俺とリインを見て、蠱惑に笑む。ソレが誰かを俺は知らない。だが迸るような危機感だけは俺から離れてくれない。とはいえ、撃っていいのか。


 人物と評したように、彼(彼だよな?)は人間だ。ただそうと分かっても、どこか違和感を覚える。ソイツは一体何なんだ。


「おい。お前」


 とりあえず呼びかける。ダンジョン内は異空間となっており、ここは何処にでも繋がっており、何処へも繋がっている。入り口はマテリアルに幾つもあるが、全て繋がっているのだ。である以上ハンターが他にいるのは普通だが。コイツはハンターなのか?


「いいぃぃぃ!」


 奇妙独特な鳴き声を発し、襲い掛かるアーマーサウルス。だがアーマーサウルス。が襲うのは俺とリイン。ソイツを一切襲わない。とするとモンスターに認知された何者か。ついでに言えば彼そのものがモンスターの可能性も。


 ドウン! ドウン! ドウン!


 俺は引き金を引く。鈍く深い音がして、弾丸がアーマーサウルスを貫く。その威力はまぁ電磁銃相応で。装甲を纏っているアーマーサウルスでも無事では済まない。


「ひはは……ははは……」


 さらにダメ押し。


「――土槍グラウンドバルジ!――」


 リインの呪文が響く。地面が鋭く隆起すると、モズの早贄のようにアーマーサウルスが刺殺される。あんまり魔術は使ってほしくないが、初級魔術なら丙級の給料でも挽回できる範囲か。


「ひひひ……ひひは……」


 ある程度アーマーサウルスを殲滅するが、やはりトカゲは彼を襲わず。


 モンスターが同族認定している……というのはあり得るのか?


「大丈夫だにゃん? そこの人」


 リインはあっさりと、その彼を心配する。俺の持つ違和感を覚えていないのか。それとも俺の錯覚か。


「大丈夫だよ。そこの人。ぼ、ぼ、ぼくは……大丈夫だ」


 意思疎通は出来る。つまりモンスターではない。いやモンスターにも意思疎通できる奴はいるが。


「ああ、じゃあ早くマテリアルに戻るにゃん。ここで一人は危険だからにゃ」


『???』

『唐突に何を?』

『カメラが仕事して無いんじゃ』

『誰かいるのか……?』

『南無三』


 彼を残してパーティが全滅か。その可能性も無いではないな。


「――鎌鼬ウィンドブレイド――」


「ッ!」


 で、そのリイン目掛けて風の斬撃を放つ男。その斬撃は縦に展開され、リインを突き飛ばした俺の左腕を通過した。


『うん?』

『何か奔った』

『見えなかったが……風系か?』

『ていうか課金魔術をリインちゃんに放つって許されんのか?』


 既に配信動画を見ている視聴者もいる。協会だって動くだろう。だがそれより早く、男は後ろに跳んだ。撃つべきか悩んだが、俺は一応撃たなかった。


「さあ。踊ろう。マテリアルの皆々様」


 さらにポップしたアーマーサウルス。その一体に触れる。ドクンと、何かが跳ねる音がした。


「いいぃぃぃいぃ!」


 同時に苦しむようにアーマーサウルスが呻く声がして、その肉体が膨張。見る間に巨大化していった。おそらくだが、その巨大化を男がやったのだろう。そうじゃなきゃ説明できない様々な事象。とはいえだ。普通モンスターに干渉できるか?


「ちょ。アーマーサウルス?」


 元の体積が人間の二倍から三倍。だが目の前の一体は十倍を楽に超える。


「何をした?」


 電磁銃マヨイバシの銃口を向けて、俺は男に問う。


「肥大化させたのさ。ボクは肥大王。共和王政が一角。肥大王さ」


 共和王政……なんだその矛盾した存在は。


「あのー。マジナ。これはどうすべき?」


「どうって言われてもな」


 どうすべきだろう?


「マジないわ」


 男に向かって撃つべきか。


「うーん」


 とにかく何とかはすべきだろう


「で、その方法は?」


 と言われても。

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