第6話:寄生生物、その名は


「六千万……か」


 ダンジョンから戻って。換金所でエーテルプリズムとメタメタル。後は他のドロップアイテムを売った。結果得られた金額は六千万円。総額で三億程度だが、取り分は八二だ。もちろん俺が二。無茶苦茶言っているかもしれないが、そもそもリインは丙級ハンターなので丁級ハンターの俺より取り分が優先されるのは必然。というわけで三億から六千万を引いて、二億四千万は稼いだことになる。そこから一億くらい魔法のカードを買って暗号資産を補填しても、一億四千万は手取りとして残る。


 ハンターが儲かると言われるゆえんだ。


 俺はエーテルプリズムによって供給されている電力が生み出す夜のハンター学院の都市部を見ながら家に帰っていた。ついでに途中で魔法のカードを買う。とは言っても専門の店だ。数万円程度ならコンビニでも買えるが、それだと普通に暗号資産としての価値しかない。そういう資産の分割は運用においてメリットになる。だがハンターはより切実に魔法のカードを欲している。課金魔術を使うために。


「二千万円になります」


 信頼できる業者で魔法のカードを買う。それをマヨイバシにチャージ。俺の最強のレールガンを使ってしまったのだ。補充は必要だろう。二千万くらいは経費。


「さて。家に帰ったら御馳走だー」


 そんなわけで俺は家に帰って、部屋の扉を開く。


「あ、お帰りだにゃん」


 何がどうしてどうなった。パンツ一丁のリインが部屋にいた。ついでにタオルでガシガシと髪を拭いており、つまり風呂上がりだった。胸は小っちゃかったが、それはまぁどうでもよく。


 それで普通に俺の部屋の一室に座って、当然のごとくドライヤーを使う。ゴォーとドライヤーの音が聞こえてきた。


「で」


 そのプラチナピンクの髪を乾かしているリインの顔面をアイアンクロー。俺は尋ねた。


「なんでテメェがここにいる?」


「あれ? 一緒に住むって言わにゃかったっけ?」


「聞いてねーよ」


「じゃあ今言うにゃ。お世話ににゃります」


「金は稼いだだろうが! 一億もあれば温泉宿にだって数年泊れるレベルだぞ?」


「もうにゃいにゃ」


「?」


「お金にゃいにゃ」


「は?」


「全つっぱして魔法のカード買ったからにゃー」


 一銭も残っていない。そのようにリインは言っているのだろうか?


「にゃわけで行くところがにゃいにゃ。マジナ先輩。泊めてたもう」


「いや。男女が同棲って……それはどうなんだ?」


「襲おうとしたら魔術使うから問題にゃい」


 しかもここまで厚かましくしておきながら触れることすら許さないとか。


 だとするとリインを部屋に泊める俺のメリットって無くないか?


「お願いにゃん」


 ていうか、だ。


「なんで家賃まで魔法のカードに?」


「リインちゃんネルは廃課金を旨としているからにゃー」


 やめてしまえ。ライブ配信とか。


「にゃ、わけで住めるところがにゃいの。パイセンよろしくー」


 もう完全に天寺リインが事故物件なんだが。金が無いから男の部屋に泊まろうとかどういう理屈。しかも課金で家賃が払えないとか、もはや現代人失格だろ。


「いやん。責められると興奮しちゃうにゃん」


「そこまで廃課金してお前は何がしたいの?」


「魔術を使いたいにゃ」


 たしかにリインは魔術師だが。とは言ってもトリセツさえ持てば、誰だろうと魔術になれる世の中ではあれども。そうして魔法のカードを買って。トリセツにチャージすれば。あら不思議。魔術を行使可能。


「ミステリアル様様だにゃー」


 さいですな。


「マジナ先輩だってハンターなんだから丙級ハンターはお求めだにゃ?」


 それは……まぁそうだが。


 最下位の丁級ハンターは何人揃ってもダンジョンに入れない。最低一人丙級ハンターを連れなければならない。とはいえだ。こんな廃課金魔術師に連れられても色々と問題なのだが。


「マジナ先輩。お腹空いたにゃー」


「そうか。それは大変だな」


 まさにだから何だの心地。


「ご飯~」


「自分で買え」


「ふ。私がお金を持っているとでも?」


「さて、じゃあ一人で牛丼でも食いに行くか」


「私にも奢ってにゃー!」


 ギュッと抱き着かれた。本気で金が無いらしい。ていうか廃課金さえしなければ、コイツはもっと裕福に暮らせるはずなんだが。


「とにかく。マジナ先輩は私を養う義務があるにゃ」


「ほう。何故だ」


「私がそう決めたからにゃ」


「はい。お疲れ様でした」


 俺はリインの首根っこを掴んで、外に放り投げようと意気揚々。


「ちなみに追い出したら玄関前で半裸になってガチ泣きするにゃーよ?」


 く。その手があったか。


「だ・か・ら。やしにゃって?」


「代わりにダンジョン攻略には都合付けてもらうぞ」


「任せるにゃん。こう見えても丙級ハンターだからにゃー」


 確かになろうと思ってもなれんのだよな。この若い身空で丙級ハンターか。何某かの信念が無ければ、普通は到達不可能だろう。つまり高位ハンターになる信念がコイツにはあることになり。


「にゃふふ。では牛丼を食いに行きましょうかね」


 そんな感じで、俺と同居することになった学院の後輩。彼女は俺の性欲など問題にしていないようだ。


「ていうか。学生寮に同居者って認められるのか?」


 普通にルール違反な気もする。


「大丈夫にゃ。その時はマジナ先輩が私の分まで支払うにゃーよ」


 俺が払うんか。


「だって私金持ってにゃいもん」


 まさに自業自得なんだが。


「ほら。動画配信のスーチャとかでなんとかならん?」


「食費程度は稼げるけど。ダンジョンに潜ってないとどういう動画取ればいいの?」


「魔術披露……は金が減るし。飯テロとか?」


「先輩が動画に詳しくにゃいのは分かった」


 そもそもダンジョン攻略をライブ配信しようという発想が俺には無かった。稼げるんならやってもいいが、魔術使うだけで十万や百万はあっさり飛んでいくからなぁ。


「にゃんにゃらリインちゃんネルにゲスト出演するにゃ?」


「男が混じっていいのか?」


 まぁそれを言ってしまえば先のダンジョン攻略配信も既に俺が映っていたのだが。

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