第4話 特殊能力
「──ふぅ、落ち着いてきた……私はね、ママが焼いてくれた出来立てのクッキーが好きっ!」
「くっきー! ……それもできたてのやつか! いいなぁ、みゃーはあついものがにがてだから、うらやましいぞっ! あつあつのうちにたべるのがおいしいって、ぱぱもよくいってるからなっ!」
……子供の体というのはすごいもので、しばらく時間が経てばこのクソボケみたいな揺れの中でも問題なく話せるようになった。
もしかしたらこの身体の適応能力が高いだけかもしれないが。
「もしかして、ケアフちゃんのパパは猫の耳も尻尾も無い人?」
「おぉ、そうだぞっ、よくわかったなっ!」
猫舌じゃない獣人もいるらしいが、聞くだけ聞いてみようと思いそうしてみたら、その通りだったらしい。
ということは、ケアフは人間と獣人のハーフか。
「えへへ……あっ、ケアフちゃん、ケアフちゃんはお魚が好きだって言ってたよね? 特に好きな魚とかはあるの?」
「みゃーはとくに『かつお』がすきだぞっ!」
「鰹……いいよね! ニンニクとミョウガと一緒に食べるともう最高っ!」
「にゃははっ、にんにくかぁ……あれ、おいしいけど、たべるとおなかぴーぴーになるんだぁ」
「あっ、そうなんだ……」
ケアフの耳がペタンとなる。
書物で読んで感じていたが、獣人って人間社会で生きていくには制約が多くて大変なんだよな……
「けどきにするひつようはないぞっ! エンドリィ! おみゃーはおみゃーのおいしいとおもうものをたべればいいっ! みゃーもえっと……『なまにく』とかたべてもへーきだからなっ!」
あからさまに気を遣ってくれている。良い子だ……。
「えっへへ、そっか。ケアフちゃんと一緒に鰹を食べられる日が待ち遠しいなぁ……!」
「にゃははっ、がっこうのごはんはごうかだときくっ! きっとそのひはちかいぞっ!」
鰹、ニンニク、ミョウガが通じること。
いや、そもそもオレは日本語を喋ってるはずなのに、言語が通じることに以前から疑問を抱いていた。
思えばこれは転生する事で与えられた恩恵なのではないか。
言語はもちろん、鰹やニンニク等に近しいものはそう翻訳される、という類の……。
近しいものが無い場合は不思議そうな顔をされる。例えば、『エアコン』とか……この辺は気をつけないとな。
「お二人さん、次の村に着くぞッ!」
「にゃははっ、どんな奴なんだろうなっ! 楽しみだっ」
「……えへへっ、そうだねっ!」
……実は少しだけ、嫌な予感がしている。
ここは王都に近い村だ。そうなると、CだとかDだとか、そこそこランクの高い人間が住んでいる可能性が高い。
実際、村の外観を見てもオレの村よりも発展していて立派なように見える。
……さて、どんな奴がやってくるんだろう?
「──…………」
乗ってきたのは幼女であるオレ達よりも更に小さい男の子で。
……きっと、小人属の血が混ざっているのだろう。
「おぉっ、ちっこいなぁ!」
「…………む」
……あ、ヤバい。ケアフが地雷を踏んだかもしれない。
「おみゃーも『しんにゅーせー』だろ!? みゃーは『ケアフ・E・アール』! よろしくなー!」
「……はっ、Eランクのケモノとなれあうつもりはありません」
「にゃんだとぉー……!?」
「ジッサイ、ケモノなんだからしかたないじゃないですか。ボクがちいさいのとおなじように」
やっぱり怒ってるな。まあ、ケアフもデリケートなところに触れたのは悪いが……。
「にゃ……! それはそうだな。ごめん」
この子はちゃんと謝れる子だ。大丈夫だろう……。
「わかればいいんです。ボクはアナタのリョウシンとおなじくらいえらいんですから、わきまえてくださいね」
「にゃ!? にゃんだとぉぉぉ……!!」
……全然大丈夫じゃなかった!! コイツ、曲者だッ!!
ケアフの両親と同じくらい、ということは……Dランクか!
「……アナタは?」
「私!? 私は『エンドリィ・F・リガール』……です。よろしくお願いします」
「…………はぁ〜〜。まあ、ケイゴをつかえてるから、キュウダイテンとしましょう。もちろん、なれあうつもりはありませんけど」
思いっきりため息吐かれた! 感じの悪い奴〜〜!
けれどまあ、ケアフの親しさから勘違いしそうになっていたが、オレへの当たりの強さはこんなものだろう。なんせ、最低ランクなのだから。
「もういいっ、エンドリィ! こんなやつほーっておこうっ!!」
「そうしてください。ボクはホンでもよんでおきますから」
「……あっ、ソレ! 『勇者エイバーの冒険譚』ッ!」
彼が取り出した本に思わず反応する。
50年前に魔王を倒して世界に平和をもたらした勇者のお話だ。このバージョンは筆者の筆力もあってマジで面白いんだッ!
「……! まあ、ユーメイなおはなしですからね。ヒンミンのアナタでもエホンでよんだことはあるでしょう。ただ、オトナがよむこんなホンははじめてみるでしょうが」
「いいえ、いいえ! 私もこのバージョンの本が好きなんですっ! 面白くも格好良く書かれていて凄いですよねっ!」
「……そ、そうですか。へぇ」
表情を見るに、いかにも語りたそうだ。だが、馴れ合うつもりはないと言った手前、そうもいかないようで。
「おぉ! ゆーしゃのはなしならみゃーもえほんでよんだことがあるぞ!」
「アナタはだまっていてください。そんなテイレベルなハナシをしてないんです」
「にゃんだと!?」
グルルルと威嚇するケアフの背中を撫でる。
よしよーし、ムカつくだろうけれど一旦我慢しようなー。
「……エイドリィ、アナタはFランクなのにオウトのガッコウにショウタイされたんですよね? いったい、どんなトクシュノウリョクをもっているんですか?」
「特殊能力は……持っていません。ただ、赤ちゃんの頃から人が喋る言葉の意味がわかって、簡単な計算ができただけで」
特殊能力。
この世界の人々がそれぞれ一つ持ちうるとされているもので、その種類は多岐に渡る。
例えば、オレの母親の能力は『温度が寸分違わずわかる』、父親の能力は『木を見ただけでその品質がわかる』といったもの。
基本的に物心ついたときから、自分がどんな特殊能力を持っているかわかるらしい。
オレは物心ついてもわからないので……無い可能性が高い。
まあ、前世の知識というのはある意味特殊能力に近いのかもしれないが……。
「ふむ、ソレはトクシュノウリョクではない、と……けど、ショウタイされるリユウはよくわかりました。いわゆるシンドウってやつですね」
「そう言われることもありますけど……みんな持ち上げすぎなんですよぉ」
「そうですね。ジュンニンゲンでトクシュノウリョクをもっていないのはチメイテキです……」
彼はため息を吐きながらそう言うと、本を開いて読み始めた。
……もうオレと話すことはないということだろう。
「……あっ、みゃーはもってるぞ! 『とくしゅのうりょく』! それはなー!」
「タニンにたやすくジブンのトクシュノウリョクをはなさないでください。あたまわるいんですね?」
本から目も離さずピシャリとそう言う男の子。
まあ、Eランクで王都の学校に招かれる特殊能力ということはかなりのもので、それを易々と明かすべきではないというのはわかる。
……てか、オレが特殊能力持ちでも同じこと言われてたのか? とんでもねぇトラップじゃねーか。
「にゃあああああああぁぁっ!!!! ……けっ、かんじのわるいヤツ! みゃーたちはなかよくおはなししようなー、エンドリィー」
「あはは、そうしよっか」
「そろそろ……飛ばしていくぜえぇぇぇぇぇぇ!!」
あ、ヤバい。御者のおじさんの謎のクソバカスイッチがオンになった。
「あばばばばばばばばばっ!? ななななななんですかコレ!? もももっとデリケートにぃぃぃぃぃ!!」
「ところで、エンドリィがきてるそのふくのいろ、かわいいな! にあってるぞ!」
「えへへっ、ありがとっ、ワンピースとワンピースでお揃いだねっ! ケアフちゃんのその白い色も似合ってるよっ!」
「おぉー! ありがとありがとっ!!」
叫び喚く男の子を尻目にオレ達は会話を始める。
……頑張れ、少年。
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