第二十八話 魔王剣魔王殺し

 俺、愛洲玲寿。そして、俺が召喚した魔物、生ける鎧。俺達二人の合体。それは、存外簡単にできた。

 尤も、それは「合体」というより「装着」という方が相応しいものだった。


 最初、俺は鎧に向かって「合体しよう」と念じた。すると、鎧は勝手に空中分解した。


 もしかして、鎧の方から俺に合体してくれるのか?


 俺は「自動的」を期待した。ところが、その想像は大外れだった。

 各部位に分かれた鎧は、そのまま空中にフワフワ浮き続けていた。


「…………」


 俺は無言で各部位を手に取り、それらを順番に身に着けていった。尤も、一人で鎧を着込むことは難しく、ユラにも手伝って貰った。

 ユラに兜を被って貰って、腰に打刀を差したところで、俺と鎧の合体が完了した。


 俺が思っていた合体と、ちょっと違ったけど、まあ、良し?


 今の俺の姿は「武者鎧を着込んだ中学二年生」だった。生ける鎧の方からすれば、「中に人間(俺)が入っている」というだけのことだ。


 これで、魔王様に勝てるのかな?


 明日の試合の展開を想像すると、敗北の結果しか閃かなかった。しかし、いや、だからこそ実力を試す必要が有った。


「ユラ」

「うん」


 俺は対面に立つ体操服姿の悪魔に声を掛けた。すると、ユラは即応でコクリと頷いた。その反応を見て、俺は――


「対戦、宜しくお願いします」


 ユラに召喚魔法勝負を挑んだ。


「それじゃ――」


 ユラは、俺の要求に応じて様々な魔物を召喚した。その中には最強の魔物、ドラゴンも含まれていた。その威容を見た瞬間、「ユラは俺を殺す気か」と思った。

 しかし、俺は死ななかった。それどころかアッサリ返り討ちにしていた。


「これ、ちょっと凄いのでは?」


 先の不安は何処へやら。「これなら魔王様にも勝てる」と、絶大な自信を持つに至った。その根拠や理由について、改めて脳内でまとめようと思った。

 主因は大きく「三つ」有った。俺は、それら一つひとつを想起しようとした。ところが、


「玲君」


 唐突にユラから呼び掛けられた。俺は直ぐ様反応して、彼女の顔を見た。

 そこには、悔しげな、しかし、どこか満足げな表情が浮かんでいた。それが目に入った瞬間、俺は彼女の心情を想像した。


 俺に負けて悔しいのかな? それとも、俺が強くなって嬉しいのかな?


 ユラの機嫌を損ねたまま放置することに、俺は危機感を覚えていた。しかし、即応で気の利いた言葉が出せるほど、俺は器用ではなかった。

 俺が何も言えずにいると、ユラが先に声を上げていた。


「そろそろ――寝ない?」


 就寝。いや、同衾。その可能性を想像した瞬間、俺の体から鎧がはがれた。


「あっ」


 自分の状態を見て、それで漸く「脳内の魔力」が枯渇している事実を直感した。


 今日は、ここまでか。もう一寸、戦いたかったかも?


 俺の心底には「もっと自分の力を誇示したい」という承認欲求が燻っていた。しかし、それを満たすことが「鎧との合体」の目的ではなかった。


「分かった」


 俺は伸びた鼻を無理矢理押し込めて、苦笑いを浮かべながらユラの提案を受け入れた。


 さあ、明日は魔王様との対決、最終戦だ。


 俺達は明日に備えるべく、ユラと手を繋いで色欲地獄城の寝室へと向かった。


 西暦二千六十九年七月二十六日、午前十時。

 快晴の空の下、俺はユラと手を繋いで円形闘技場に立っていた。俺達の前には、既に白金の騎士の姿が有った。


(((改めて言っておく。今日で『最後』だ)))

「「!」」


 魔王の言葉が脳内に響いた瞬間、俺とユラは同時に息を飲んでいた。

 俺も、ユラも、この一戦に賭ける想いは強かった。俺に至っては命を懸ける覚悟を決めていた。だからと言って、「死にたい」という訳でもなかった。

 正直に言えば、「命は惜しい」。未練を覚える理由は複数有った。その内の一つが、俺の脳内に閃いていた。


 これに負けたら――また、ユラを泣かすことになるのかな?


 ユラの父、魔王「氷片の剣聖」こと愛洲P寿は、俺達の前に立つ魔王「光の支配者」に殺された。ここで俺まで殺されてしまうと、ユラは何をしでかすか。それがどんなものかと想像すると、最悪の可能性ばかりが閃いた。


 絶対に勝つ。


 俺はユラと繋いだ右手をグッと強く握った。すると、ユラも俺と繋いだ左手を強く握り返してきた。ユラの反応は、俺の闘志を一層激しく燃え滾らせた。


「鎧を――召喚します」


 俺は心中の闘志に急かされながら、自分の分身、生ける鎧を召喚した。


 程無くして、俺の前に鎧武者が現れた。その直後、魔王の声が脳内に響き渡った。


(((それでは始めようか)))


 魔王は、俺に声を掛ける否や、クルリと踵を返した。


 魔王としては、そのまま所定の位置に移動するつもりだったのだろう。「今から試合を始める」という事実を鑑みれば、至極当然の行為だ。むしろ、「気を遣ってくれて有り難い」とすら思う。

 しかし、俺は敢えて魔王の行為を阻んだ。


「ちょっと、待ってください」


 魔王は、立ち止まって振り向いた。その反応を確認して、俺は鎧に向かって念じた。すると、鎧が反応した。


「!」


 鎧はビクリと体を震わせた。その反応を直感して、俺は鎧に向かって用件と伝えた。


 合体する。


 鎧は右手を掲げ、「d」と親指を立ててサムズアップした。

 その直後、鎧は空中分解した。


 俺の肉眼に、バラバラになった鎧の各部位が映った。その一つひとつを確認した後、俺は内装の衣服(小袖)を手にとった。


「失礼します」


 俺は魔王に断りを入れて、鎧の各部位を身に着けた。その際、ユラにも手伝って貰った。その様子は、魔王の視界にシッカリ映っていたはずだ。しかし、


(((…………)))


 魔王は何も言わなかった。ユラも、俺も黙っていた。

 円形闘技場内に「衣擦れの音」や、カチャカチャと「鉄板が重なる音」が自棄に煩く響いた。それが収まった頃、楕円の地面の上には「鎧を身に着けた中学二年生」が立っていた。


「お待たせしました」


 合体完了。俺としては手早く済ませたつもりだった。しかし、「対戦相手を待たせてしまった」という事実を鑑みると、「このまま試合開始」というのは虫が良過ぎるように思えた。


 謝った方が良いのかな?


 俺は魔王の機嫌を損ねている可能性を想像した。すると、「如何にも怒っています」と思しき硬い声が、俺の脳内に響き渡った。


(((どういうつもりだ?)))

「!」


 怒られた。


 俺の行為は、世界の支配者の逆鱗に触れたようだ。その可能性を想像すると、俺の心臓がバックンバックン破裂しそうなくらい跳ねた。それに伴って、俺の心中に巣くう弱気の虫も、「謝れ、謝れ」と喧しく騒いでいた。その声を意識するほどに、謝意を表したい気持ちも沸く。

 しかし、俺の口は真逆の言葉を紡いでいた。


「こ、こういう、つ、つもりです」


 俺は震える声で魔王に喧嘩を売った。すると、魔王は即応で声を上げた。


(((そのまま戦うつもりか?)))

「はい」


 魔王の質問に対して、俺は「魔王の逆鱗に触れる回答」をした。すると、俺の脳内に「昨日、ユラから聞いた苦言」と似たような内容の言葉が響き渡った。


(((其方の敗北は、即ち『其方の死』になるぞ?)))


 鎧と一体化している以上、運命を共にすることは必定だった。その可能性を想像すると、心中の弱気の虫が「止めろ、止めろ」と騒ぎ出した。その言葉を意識するほどに、今直ぐ鎧を脱ぎたくなってくる。

 しかし、この期に及んで武士に、いや、勇者に二言は無かった。


「構いません」


 鎧と一体化している。その事実が、俺の心を強力に支えていた。だからこそ、恐怖で涙目になりながらも、魔王の姿を真正面から見詰めることができた。


「…………」

(((…………)))


 魔王を無言で睨み付けていると、脳内に魔王の声が響き渡った。


(((よかろう)))


 魔王は、俺の我が儘(鎧との合体)を認めた。彼は返事をするや否や、踵を返して所定の位置へと移動開始した。その行為に対して、俺は――


「…………」


 引き止めなかった。無言で見送った。


 魔王様が立ち止まって、もう一度こっちを向いたら――戦闘開始。


 俺の体は臨戦態勢をとっていた。俺の心は戦闘状態に入っていた。

 魔王が所定の位置に付くのを待っている間、俺は魔王の体に意識を集中して、そこに溜まった魔力の様子を感知した。


 魔王の魔力は、昨日と同じく「人型の塊」だった。その事実を直感した瞬間、


「あっ(しまった)」


 俺の額に冷汗が垂れた。


 俺は、有ろうことか昨日の試合中に気付いた大事、「魔王の魔力」に付いて、ユラに尋ねるのを忘れてた。


 魔王の魔力は魔物と同じく「全くの塊」だった。悪魔のように内側から溢れていなかった。その理由が何なのか、俺には分からなかった。だからこそ、俺は「ユラに尋ねよう」と思っていた。

 しかし、色々なことが有って、ユラへの確認を忘れていた。その事実は、とても残念に思う。自分の迂闊さを詰りたくなる。

 しかし、時すでに遅し。他所事にかまけている精神的余裕は無く、それが許される場合でもなかった。


 目の前の戦いに集中しないと。


 俺は邪念を振り払って、魔王に意識を集中した。ところが、ここで思わぬ邪魔が入った。


「玲君」

「!?」


 俺の至近から、風鈴のような美声が上がった。俺は意表を突かれて驚いた。思わず反応しそうになった。

 しかし、俺は敢えて無視した。


「「…………」」


 俺は何も言わなかった。ユラも、直ぐには何も言ってこなかった。

 俺達の間に静寂が訪れた。それを打ち破ったのは、ユラだった。


「信じてる」

「!」


 ユラの声は、少し震えていた。その変調に気付いた瞬間、俺の胸が熱くなった。その感覚を意識した瞬間、口が勝手に開いていた。


「任せろ」

「!」


 俺は「我ながら百点満点」と思える返事をして、ユラの想いに応えた。すると、背後から息を飲む気配が伝わってきた。


 俺の返事に、ユラは何を思ったのだろう?


 俺はユラの心境が気になった。それを確認したい気持ちも沸いた。しかし、今は無視せざるを得なかった。


 俺は再び魔王に意識を集中した。すると、ユラの気配が離れていった。その感覚を意識しながら、俺は脳内に「魔王の魔力のイメージ」を閃かせた。

 その直後、視界に映った白金の騎士の歩みが立ち止まった。


「!」


 鎧の視界越しに、魔王が振り返る様子を確認した。その瞬間、魔王の美声が脳内に響き渡った。


(((それでは――始めようか)))


 魔王との対決、最終戦。その火蓋が切って落とされた。その事実を直感した瞬間、俺は敢えて無謀な策を採用した。


 こちらから間合いを詰めよう。


 俺は敢えて攻勢に打って出た。その決断の裏には、鎧と合体したことで得た「三つの恩恵」が有った。その内の一つが、早速発動した。


 俺が「突撃」を閃いた瞬間、 俺は魔王に向かって走っていた。


 これまでの戦闘では、「鎧に向かって念じる」という手順を踏む必要が有った。

 しかし、鎧と合体した今は、行動を閃いた瞬間、それを実行に移すことができた。その現象に付いては「自分の体なのだから、当然だろう」と言えなくもない。

 それでも、手順が省けたことで戦闘速度が僅かばかり向上た。その「僅かばかり」の刹那の間が、実戦に於いては勝敗を分ける。その事実に関しては、これまで何度も思い知らされていた。

 尤も、この「鎧と合体した恩恵、その壱」だけでは勝利に届かない。残り弐つが、俺の心を強力に支えていた。

 その内の一つ、「鎧と合体した恩恵、その弐」が、その壱と同時に発動した。


 今の俺は――きっと、弾玉より速い。


 俺は人外の走力を発揮していた。それだけでなく、俺の全ての運動能力が人の領域を超えていた。その力を与えていたのは、俺の体を覆う「鎧」だった。


 そもそも、俺が召喚した魔物は「魔力の塊」なのだ。それに覆われている個所には、魔力の加護や恩恵が付与されている。

 今の俺の運動能力は、人間どころか魔物をも凌駕した。それが事実であることは、昨夜行ったユラとの戦闘で「天狗の鼻になる」ほど確認した。


 今の俺ならば、魔王様に勝てる。


 魔力の恩恵を得た脅威の速力が、彼我の距離を一気に縮めた。「あっ」という間も無く、打刀の間合いに入った。その事実を直感するや否や、俺は右手を腰に伸ばしてムラマサを引き抜いた。


 このまま斬り付けられたならば、俺の勝ちは必定だった。しかし、それを許すほど魔王は甘くなかった。


 魔王の右手には、いつの間にか直剣(エクスカリバー)が握られていた。その事実を直感した瞬間、俺は相手の攻撃を直感した。


 迎撃っ!!


 俺は急制動を掛けた。それと同時に、右手でムラマサを逆袈裟に振り抜いた。

 その刹那、眩い閃光が俺の視界を焼いた。


「!?」


 俺の視界が真っ白に染まった。その光景は、俺の敗北を具現化していた。しかし、そうはならなかった。

 白い閃光は、ムラマサの太刀筋を起点にして斜めに割けて消えた。


 愛洲妖刀流奥義、魔王剣閃光斬り。


 一先ず敵の初撃は防いだ。しかし、既に二発目、三発目が放たれていた。


 来たっ!


 至近からの参連続光魔法。その発動は、俺にも予見できた。しかし、軌道までは分からなかった。「万事休す」と言いたいところだ。


 しかし、今の俺には「鎧と合体した恩恵」という奥の手が有った。俺が「来た」と直感した刹那、「鎧と合体した恩恵、その参」が発動していた。


((右っ、左っ、後ろっ!))

「!」


 俺の脳内に「誰かの声」が響き渡った。それは魔王のものではなかった。しかし、全く未知のものではなかった。


 その声は、「俺」のものに似ていた。


 俺に似た、俺ではない声。その正体に付いて考えると、俺の脳内に見慣れた「鎧武者」が閃いた。


 これは――「鎧の声」だ。


 鎧の声。昨夜のユラとの特訓中、俺は「それ」を何度も耳にしていた。

 鎧は、俺が「回避不可能」と諦めた攻撃に反応して、俺に的確な指示を与えた。俺は彼の指示に反応するだけで良かった。その現象を体験する度、俺は複雑な感情を覚えた。


 これって、下剋上? どっちが主従なのか分からないな。


 鎧に操られている感は否めない。しかし、今は「それ」が大正解だった。


 俺は「光を斬る」と念じながらムラマサを右、左、背後に向けて振るった。すると、俺を囲み込もうとした光の奔流群が、全て俺に届く直前で弾けた。


 やったっぞ。「屈折する光」、破れたり。


 俺達は魔王の攻撃を防ぎ切った。後は魔王の本体を斬るだけだ。


 愛洲妖刀流奥義、斬鉄剣唐竹割りっ!!


 俺は必殺技の名前を念じながらムラマサを振り上げた。それを振り下ろしていたならば、その時点で決着が付いた。しかし、そうは問屋が卸さなかった。


 俺の視界に映った白金のアーメット兜が、突然消えた。その下には、俺の見知った顔が有った。


 ユラっ!?


 何と、魔王の顔はユラと瓜二つだった。しかも、髪型まで全く同じだった。長い前髪を「ユラが使用しているものと全く同じヘアピン」で留めていた。

 しかし、「ユラに似た顔」は、何故かあらぬ方向を向いて、目を開いて驚きの表情を浮かべていた。それが目に入った瞬間、俺は動揺した。


 これって、どういうこと?


 俺の脳内は「?」だらけになった。それに押し出されて、直前まで感知していた「魔王の魔力」が消えてしまった。しかし、それを気にする余裕はなった。


 どうしよう? どうしたら?


 俺はムラマサを振り上げたまま固まっていた。その最中、俺の脳内に鎧の声が響き渡った。


((これは『反射』だっ))

「!」


 鎧の方が、俺よりも賢かった。彼は現況の原因を特定していた。

 

 人間の視覚は光の刺激で色や形を認識する。魔王は「ユラの顔に当たった光」を反射させて、俺の視覚を惑わしていた。


 幻覚なのかっ!?


 俺は直ぐ様目を閉じた。続け様にムラマサを振り下ろした。それで、終わった――はずだった。

 ところが、ムラマサを握る俺の両手には、何の感覚も伝わっていなかった。

 

 え? 斬ったのかっ? それとも――


 俺は咄嗟に魔王の魔力を探った。すると、俺の脳内に人型の魔力の塊が閃いた。

 しかし、「それ」は俺の前には無かった。何故か俺の「真後ろ」に有った。


「!?」


 いつの間に後ろに回ったのか? その理由を考える機会は与えられなかった。

 俺が「敵は後ろだ」と直感した刹那、腹部に鋭い痛みが奔った。


「痛っ!?」


 俺は直ぐ様腹を見た。すると、鳩尾の下から「直剣の切っ先」が突き出ていた。その光景を目にした瞬間、俺の頭から血の気が超音速で引いた。


 今、光魔法を発動されたら――拙いっ!!


 俺の敗北は決定的だった。しかし、俺は往生際が悪かった。

 この瞬間、俺の脳内には「泣いているユラの顔」が閃いていた。その結末だけは、命に代えても阻止したかった。


 金剛剣鎧戸落としっ!!


 俺はムラマサの刀身を振り下ろし、腹から突き出たエクスカリバーの刀身に叩き付けた。その際、「魔王殺しを斬れ」と念じていた。だからこそ、「斬れる」と思っていた。

 しかし、斬れなかった。


 エクスカリバーの刀身から眩い光が溢れ出していた。それが、ムラマサの刃先を押し戻した。


 力負け!? やっぱり駄目? いや、未だだっ!!!


 俺は己の魔力を全開にして、再びムラマサを押し込んだ。


 魔王剣閃光斬りっ!!


 ムラマサはエクスカリバーから溢れる光を斬った。しかし、この大事な時に、俺は「残念なお知らせ」を直感してしまった。


 魔力が――ヤバいっ!?


 俺の脳内を占拠していた魔力が底を尽き掛けていた。その事実を直感した刹那、俺は最後の賭けに打って出た。


 エクスカリバーの光を斬った刹那、俺は超速でムラマサを逆手に持ち替えた。そのまま自分の鳩尾に向かって思い切り――突き立てた。


 俺の行為を見た者は、その多くが「切腹」を想像したと思う。俺の脳内にも「愛洲玲寿終了のお知らせ」がアナウンスされていた。


 しかし、俺は死ぬ為に自刃した訳ではなかった。そもそも、俺の攻撃対象は自分ではなかった。


 俺の子孫の仇――「魔王剣魔王殺し」っ!!


 俺は「魔王を殺せ」と念じながらムラマサを押し込んだ。すると、ムラマサの鈍色掛かった白刃は、俺の体を突き抜けた。そのまま突き進み、背後に立つ白金の騎士、魔王に突き刺さった。


 やったかっ!?


 俺の右手に金属を貫く感触が伝わった。しかし、その結果を確認することは、残念ながら俺にはできなかった。


 俺が「魔王を刺した」と直感した瞬間、俺の視界は「真っ白」になっていた。


 第二十九話に続く。

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