第20話「格闘戦の結末」

 高浜たかはまの不安を余所よそに、旗艦から出撃した3機は戦闘フェイズに突入する。


 Point blank艦隊へ先陣を切るのは、やはりあきら熱風ねっぷう


たかむらくん、真上が死角になりやすいのは機化猟兵も戦艦も同じ。だから真上から急降下しながら攻撃するのが基本だよ」


 そうはいうものの、晶は熱風を戦艦の真上までは上昇させない。


 艦橋よりも少し低い位置から降下を開始させるのだから、真上まで上昇しようとしていたじゅんは目をむかかされる。


「先輩?」


 疑問を抱くのは当然であるが、晶も考えなしで行動している訳ではない。


「まずダメージを与えておく! トドメは君が刺せ!」


 惇と時間差をつけるための機動だ。


 対空砲火をかわしながら晶が見つめるのは、機化猟兵きかりょうへいが射出されるカタパルト甲板。戦艦によってカタパルトも様々で、必要に応じて展開するものもあれば、複数の方向へ射出できるよう、複数の甲板を持つ艦艇もある。


 晶が目を付けた戦艦は、3方向へ飛び出せる備え付けの甲板だった。


 そこへ強行着陸しようとする。


「甲板の上は、対空砲火が届かないようになってるのさ」


 だからといって敵艦に着艦するのは無謀というものであるが。


「ランディング!」


 強襲兵を自称する晶の熱風は甲板に足を着けると、ホイールダッシュを逆回転させる事で減速する。


 そして跳躍一番、照準は艦橋へ。


 遠慮会釈のない連射を浴びせた後、艦橋を乗り越える形で離脱する。


「さぁ!」


 晶が離脱しながら声をかけた相手は、戦艦の真上から急降下を開始するタイミングだった。


「この……ッ」


 Gこそかからないが、急降下の演出でシートに押しつけられる感覚と、視界が狭まる中、惇は必死に目を見開き、銃口からパルスレーザーを艦橋の真上から浴びせていく。


 HUDに命中を示すメッセージが踊り、ややあって真っ赤な字が飛び込んでくる。


 ――Destroy.


 戦艦の撃沈を示すメッセージだ。


「よっし!」


 離脱の途中ながら、惇は軽くガッツポーズしてしまう。


 それが見えた訳ではないが、弥紀みのりは「おいおい」と声をかけ、


「敵陣のど真ん中を飛んでる事、忘れないでね!」


 片手といえど、操縦桿から離す事は無防備になる事を意味している。


「ま、あんたを狙ってる奴らは、こっちで対処するけど」


 弥紀がレジオンに構えさせるのは、悠が使っていた大型ビームライフルよりも巨大な、文字通りの大砲。


「バード・バニッシュだ!」


 B.R.Dバード“VANISH”バニッシュと消滅を意味する愛称を持つ対艦砲。ビームライフルデバイスの名の通りビームライフルの拡張デバイスで、取り回しが悪くはなるが、機化猟兵と接続する事で膨大な熱量を発生させる。


 照射を選択した対艦砲で狙うのは、艦隊のど真ん中に陣取っている一番の重装甲。


 トリガを引くと、砲口から目をくらまされる閃光が放たれる。戦艦を守ろうとしていたCPUの機化猟兵ごと艦橋を飲み込む。


 ――Destroy.


 2隻目が沈んだ。


 晶が走らせた視線に、戦闘フェイズの残り時間が入る。


 ――20秒! 最後の一隻は厳しいか!


 最後に残った旗艦へ向かうには、少しばかり時間が足りない。


 故に晶は計算できた。


「待て、何で一隻?」


 数が合わない。高浜が砲撃で大破させたのは2隻。6番艦と5番艦だった。今、晶と惇が協力して沈めたのが4番艦。弥紀の対艦砲に飲まれたのが3番艦だとすれば、残っているのは、1番艦と2番艦のはず。


「もう一隻、隠れてる……?」


 隙をうかがっていると考えた方がいいだろう。


 しかし隠れているという結論は、早々に否定される。



 晶の目の前を、一機の機化猟兵が投げ捨てられたかのように横切ったのだ。



「!?」


 晶すら息を呑まされる。


 今、投げ捨てられた機化猟兵は、サムのアルビオンだった。


 何が起きたか?


 晶と高浜が懸念した最後の一隻である。


 その一隻はあくつの艦で……、


「戦艦に手足をつけてはならないなんてルールは、ねェんだよ」


 募りすぎた苛立ちに笑みすら浮かんでしまっている圷の艦は、戦艦を機化猟兵のようにカスタマイズさせたもの。


「オーガ級一番艦プリムラ」


 圷の機体――最早、戦艦とも機化猟兵とも言い難い――は、暗礁域に潜んでいたサムを戦闘不能にして、前線へと投げ捨てたのだった。


「すみません、大尉!」


 サムの謝罪する。この場合の戦闘不能は、撃墜よりも厄介だからだ。戦闘不能はスコアには算出されず、Point blank艦隊の点数にはならない。しかし修理には帰還する必要があり、戦線復帰には撃墜されるよりも長い時間が必要となる。


 圷の狙いである。


「今の段階だと、下手に撃墜しない方がいいからな」


 撃墜せず、復帰しにくい状態にする事で得られるアドバンテージ――時間切れの判定ではなく、総指揮官を討つ事で決着させるつもりだ。


 だが姿を見せたのならば、弥紀が対艦砲を向ける。


「いいや、狙うね!」


 10秒もあれば発射できるのだから。


 しかし圷はギッと歯軋りすると、


「俺の役目はな――」


 その歯軋りは、ここまで溜めに溜めた苛立ちを砲弾に出来ない事に対するもの。


「お前等に痛手を与える事なんだよ!」


 次の瞬間、砲口を向けていた弥紀のみならず、晶も惇も目が眩んだ。


 ただ晶のみ、そんな状態になる攻撃を感覚的に悟り、機化猟兵を移動させる。


「篁くん!」


 惇を庇う位置へ。


 故にアラームが鳴り響くコックピットで惇がいう。


「……自爆かよ……」


 圷の機体は、周囲の機化猟兵を巻き込んで自爆した。A級の3機と、晶に庇われた惇は兎も角、CPUに任せているS級は消滅してしまう。


 生き残った4機も戦闘不能に追い込まれた事に、Point blank艦隊の旗艦で文野あやのが笑みをこぼす。


「ありがとう、圷さん」


 残っているのは旗艦だけだが、文野は高浜へ特攻を仕掛ける用意ができていた。

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