第43話 ドラゴン退治に連れてって
「今日は午後から三キロほど離れた地点まで行こうと思ってるんです。外出の許可をいただいてもいいですか?」
彼がさりげなく外出許可を求めてきたのは朝ごはんを食べ始めて少ししてからだった。
すでに王宮から届いた手紙で出動要請が依頼されていたわたしとしてはやっと切り出してきたと姿勢を正した。
この森の近くの土地でドラゴンの目撃情報があったらしい。手紙にはそうあった。
ドラゴンとは想像上の生き物でしかなかったけど、けが人が出る恐れもあるため、万が一のことを考えてありったけの薬草を持っていく必要がある。でも、
「あなたは自由の身です。わたしの許可はいりませんから自由にしてください」
言わなくたって自由にしてくれていいのに、彼はわざわざわたしにお伺いを立ててきた。
「あなたが留守の間、逃げもしませんから」
この人を縛りたくない。
それがわたしの一番の願いだ。
わたしの監視の騎士である事実は変えてあげられないけど、彼の好きなように生きてもらう方がわたしとしては嬉しいし、もっと自らの欲望をぶつけて欲しいくらいだ。
「大丈夫です。逃げたら逃げた先で俺と幸せになりましょう」
「なっ!!」
欲望をぶつけてほしいと思うとこれだ。
どこまでも前向きで驚かされる。でも、
「ジャドール」
「はい」
「わたしのことは、誘ってくれないんですか?」
「えっ?」
やはりわたしに言う気はないらしい。
白々しく尋ねてみると驚いた表情を見せた。
「い、いえ、そんな大したところへは行かないので、あなたにわざわざご足労願う必要もないなぁって……」
「わたしには会わせたくない人がいるんですか?」
「はい?」
普段にない慌てっぷりはわたしのためを思ってのことだろうけど、いつも暗黙の了解で蚊帳の外扱いをされるのはいささかむっとしてしまい、心にも無い意地悪な言葉を投げかけてしまった。
「そうですよね」
言ってみて勝手に想像してしまった。
「あなたは人気者だし、会いたいと願う人も少なくはないですよね」
「ええ?」
リタからもらった大人の物語にはいつもキラキラとした男の人が出てきて、ついついジャドールを思い出してドキドキしてしまった記憶がある。
わたしの妄想であって、彼自身は全く関係ないのに大変申し訳ないけど、どんな美女を横に侍らせることになっても彼は堂々たる姿でその場にいて違和感のない容姿を持っていることは間違いない。
ただ……本当に勝手な想像なのに申し訳ないけど、何となくわたしが面白くないだけだ。
「わたしができないことも満たしてくれる方もいるでしょうし、それなら……」
「だぁぁぁあっ! 違います! 違いますよ!」
彼も何かを想像したのだろうか。
ものすごい勢いで机を叩き、乗り出すようにして立ち上がった。
「ご安心ください! どんな想像をしたかは知りませんが、俺はあなた以外にときめかないし、反応しませんから」
「なっ、何がですか!」
「とにかく、あなた以外に会いたいなんて人はいません! 同僚が近くにいるから会いに行くだけです」
(この秘密主義者め……)
得意の笑顔を作ったから間違いなく言う気はないのだろう。これは彼の鎧だ。
「知っています」
悔しいけど、これ以上聞き出すことは不可能だと悟る。
「えっ」
「今朝の仕返しです。本当はすべて知っています」
伝えると彼の瞳がみるみるうちに大きくなった。
「あなたは、大切なことほど何も言わない」
「ええっ……」
どうやら本当に知らなかったようだ。
「わたしにも出動命令は来ています。一緒に戦いますから、連れて行ってください」
「なっ!」
「ごちそうさまでした」
「ま、魔女様!」
食べ終わった食器を重ねて持ち、自室に戻ろうとする。もちろん、彼も止めに入る。
だけどわたしだって引く気はない。
「今から準備に入ります。絶対に置いていかないでくださいね」
わたしなりに睨みを効かせてみるとひるんだ様子の彼ががっくり肩を落としたのが見えた。
「……お着替え、お手伝いします」
「けっ、結構です!」
半ば怒鳴るようにして、自室のドアを思いっきり閉めたのだった。
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