第20話 魔女と騎士は結界を超える

 一緒に行く予定だったのは、少し先の小さな街なのだという。


 肝心な問題であるこの森を出ることにあたって、決められた馬に乗らない限りは出ることができないと聞いていた。


 また、わたしの住んでいる小屋を囲うように流れている湖を渡るには、厳重に張られた結界を騎士に解いてもらう必要があった。


「この生き物に乗って移動をします」


 今日の移動はこの子に頼ります、と紹介されたのは空中にふよふよ浮かぶまんまるい生き物だった。


 王宮からの荷物を運んできてくれるのだと何度か見せてもらったことはある。


 小さくてふよふよしているのは仮の姿で(どちらが仮なのかはわからないけど)荷物を運んだり、必要があるときは自由自在に大きくなって対応してくれる。


 『ククククク』『モフモフ』というのが笑い方の特徴で、あまりに『モフモフ』いうし見た目通りのため、わたしも『モフモフ』と呼ぶようになった。


「はは、やっぱり今日の魔女様は格別に素敵だ」


「は?」


 わたしもいちいち反応しなければいいのに、慣れないことばかりを言われてしまうと動揺してしまうため、またいつものように飛び上がる。


「でも、顔がみたいです」


 真っ黒なローブで全身を覆い、顔を隠すためにフードまですっぽりかぶっているわたしの前に顔を出し、あろうことかフードに手をかけられる。


「ふたりのときは、お顔を見せて下さい」


「………」


 思った以上に至近距離でぐっと目をつむる。


 胸の音が全身を揺らして、おかしなことになっているだろうなと客観的に思うも仕方がない。


「一応役割上、俺は常にあなたと行動しなくてはなりませんが、おひとりで買いたいものもあるでしょう。そのときはそう言っていただければあなたの時間を作ります」


 顔が見えた途端、嬉しそうに頬を綻ばさた彼は柔らかい瞳をこちらに向けて言った。


「……そ、そんなことして大丈夫なのですか」


 仮にも囚人魔女である。


 これを期に逃げるとか、そういった発想はないのだろうか。


「逃げようものなら全力で追います」


 いろいろ疑ってみたけど、前言撤回することになる。


「そして、あなたを閉じ込め、一生俺の元を離れないようにします。なんならペナルティで、毎日俺に……」


「にっ、逃げません! 逃げませんから!」


 長い髪に一房取り、口付けながら言うことではない。


 予測ができた言葉はわたしから正気を奪うだろう。


 そもそも長い髪に一房取り、口付けながら言うことではない。


「まだ言い終えていないのに」


「逃げません! あなたのそばにいます!」


「はは、それはそれで嬉しいですね」


「………」


 こうやっていつもこの人の手のひらで転がされているのだと思うと自分の余裕のなさに悔しくもなるけど、本当に言葉の通り嬉しそうにされてしまうと、またわたしは熱る頬を隠しながら何も言えなくなるのであった。



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