恨みの可視化

 木下さんが小学生だった頃、彼には不思議な力があったと言う。それは人に恨みを買っている人間にはその恨みの量が影となって見えていたのだという。


 嫌われ者は影どころか夜を人の形に切り取ったように視えていたのだという。


 ただ、当時は彼もそれがおかしな事だと分かっていなかった。ただなんとなく影の濃い人が居るなくらいに思っていた。


 彼が小学生の頃、幾人かのクラスメイトの持ち物が壊されるという事件があった。その時はクラスが不穏になったのだが、問題はそれが解決した後だと言う。


 大きなトラブルだったのだが、教師陣が張り込みをして犯人を見つけた。普段から素行の悪いやつだったそうだが、そのクラスメイトは翌日教師に促され朝礼で泣きながら謝罪をした。


 表面上はそれで解決したのだが、彼はそれから犯人だったクラスメイトが黒い穴のように真っ暗な人型に視えた。おそらくクラスメイトは全く許してなど居ないのだろうと思ったそうだ。


 表面上は解決したのだが、そこまで恨みを買ってしまっている以上、該当の生徒はほどなくして転校となった。一応お別れの会を開いてクラスメイトが一人ずつお別れのプレゼントをあげるというものだったのだが、みんな悲しそうな表情をしているのに転校する生徒は真っ暗なままだった。


 全く許されていないんだなと分かりやすく、その生徒が転校していった後教師がいなくなったところでソイツの悪口大会が始まったのだという。中には『清々した』とまで言いきるものも居た。


 しかし何より恐ろしいのは誰もがそれなりに影を持っていて、どんなに外面の良いものでも多少の恨みは買っているという事実だった。自分自身が恨まれているかは視えなかったが、多分視えていたら嫌な気分になるだけだっただろうと言う。


 恨みを買っているのは生徒だけに留まらず、教師陣も結構な恨みを買っていた。その時に思ったのが、体罰をする教師よりも依怙贔屓をする教師の方が恨みが濃いことだった。その時のことから平等に厳しい教師よりも、人によって対応を変える教師の方が恨みを買うのだと知ったらしい。


 環境が環境のため、人を簡単には信頼できなかった。自分がどこで恨みを買っているか分からないと思うと怖くなり、半強制的に素行の良い生徒になったのだという。


 その体質は中学に上がるときに無くなり、視えなくなってしまったそうだが、卒業式で最悪の思い出を残してしまった。


 卒業式ということで校長が話をしていたが、その時視えた校長は、まるで暗い穴のようにぽっかりと暗闇になっていた。


 校長ということで生徒と関わりは無い。そこで少し考えたのだが、となると校長に恨みを抱くのは教師陣で有ろう事が予想でき、小学生には大の大人がえらい人相手にそこまでの恨みを抱くということが衝撃だったらしい。


「中学に入ってから視えなくなったのでホッとしたんですけどね、未だにあの力がまた戻るんじゃないかと思うと気が気じゃないんですよ。出来ることなら墓に入るまであの力は持ちたくないですね」


 木下さんは未だに人に恨みを出来るだけ買わないように人間関係には気をつかっているそうだ。

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