燻る

 奈古さんは昔、人の悪意に気づくことができたのだと言う。


「あんまり気分の良いものじゃないですけど、人に害意があるかはその人の魂を見れば分かるんですよ」


 彼女はそう言う。ただ、そのおかげで危険を回避したことは確かにあるのだが嫌なことも多かったという。


 なんて言うかね……敵対心を持った人の魂は煙が出てるんですよ。大抵そういう人は距離を置くだけで解決するんですが……問題は自分に対してしか分からないんです。


 そのせいで彼女はいろいろと無くしてしまったものもあると言う。


 小学校では私に悪意を持っている人が分かったんですけどね……女子が五人くらい私に気さくに話しかけてきたときに『あっ……』って気づいちゃったんですよ。それで私はその場を離れたんですが、その時は友人も一緒だったんです。


 そいつらは退屈しのぎにいじめの標的を探していたようですが、逃げた私を追わなかったんですが、友人が残っちゃったので一人でいじめられ始めたんです。そうなると逃げた私を恨んだんでしょう、彼女の魂から煙が燻りだしたときには泣きそうになりました。


 それと嫌だったのは六年生の時の教師でした。はじめに担任の発表が合ったときに見ていたんですが、はじめからその担任の体から煙が出ているのが分かるほど曇っていたんですよ。魂が見えるのは説明しづらいですけど、とにかく私が気に食わないんだろうなとは分かりました。


 予想通り小学校最後の年は最悪の一言でしたよ。担任にいびられるのがあそこまで辛いとは思いませんでした。しかもクラスメイト程度ならともかく、担任だと逃げようが無いですしね。


 気分の悪い目には何回もあったんですが、教師なのによくまああそこまで依怙贔屓できるものだと思いましたよ。私は向こうが気に食わないんだろうなと分かっていたので『またか』くらいに思ってたんですが、それがまた気に食わなかったんでしょうね、時折体罰までやってましたよ、時代というのを考えても気に食わない相手でした。


 深く語ったところで楽しい話ではないので小学校のことは諦めてますけど、中学に入ったときにはすっかり人の悪意なんて分からなくなっていたんですよ。どうして小学生の頃だけ分かったのかは原因不明ですけど、無くなったよかったような気もするんですよね……


 少なくとも中学ではいじめで不登校になる生徒もいましたが、いじめをする生徒がたくさんいるなんて分からないにこしたことはないですよ、分かったところで人の心が変えられるわけでもなし、逃げられても後味は悪いものでしたからねえ。


 そう言って彼女はうんざりしたような表情をした。今は表面上平和な職場で働いているらしい。ただ、人が心の奥で何を考えているかなんて分からなくなったので表面上のことだそうだが、それで十分だと考えているそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る