怪異譚集「魂源」

スカイレイク

穴二つ

 いや、私にこんなことを言う資格があるのかは分かりませんがね、人っていうのは怖いなーって思うことがあるんですよ。


 あれは中学の夏の日のことでした。当時の中学、まあまあ治安が悪かったのでいじめたりいじめられたリが日常茶飯事に入れ替わっているような中学でした。


 その日は帰りに農道を使って帰っていました。良くは無いんでしょうが結構な近道になるんですよね。それで、そこを歩いていると向こうの方に、当時いじめられていたXくんがいるんです。


 別に正義感があるわけじゃないですが、変に避けるのも失礼だろうと思い彼の横を普通に通り過ぎたんです。真横を通るときにちらりと彼の方を見て後悔しました。


 彼、ペットボトルにその辺で捕まえたであろう虫を次々に入れているんです。当時は知らなかったんですが、蠱毒ってやつになるんでしょうね。憎しみに満ちた顔をしながら一匹一匹捕まえては、大きさが合わなければ足をもいだり押し込んだりしてその中身を満たそうとしていました。


 未だに見なきゃ良かったと思うんですがね、そのペットボトル、紙でラベルが貼ってあったんです。見えちゃったから気になって通り過ぎるときに見たんですが、その紙にはいじめっ子の名前が書いてありました。


 ゾクッとして早足に逃げ去りましたよ、人はあんなことが出来るんだなあと帰宅してから妙に感心するほどでしたよ。


 次の日が来るといじめっ子は登校していないんですね。なんでも急病だそうですが、面会には行くなと釘を刺されました。多分見られるような状態ではなかったんでしょう。


 その翌日、今度は普通に国道を歩いていたんですが、なんというか、縁でもあるのか、彼が道ばたで路肩のグレーチングを外し、その汚水をペットボトルに汲んでいました。何本もあったのでそっとその名前をうかがうと、彼にいじめをしたグループ全員の名前が書いてありました。そして中にはどうやって入れたのか分からない藁人形も入っています。


 それをドブの水に付けて恍惚としている様は恐ろしいことこの上ないので、私は足早に帰宅をしました。


 その翌日、彼をいじめた全員が体調不良で休みました。その時Xくんはニタニタと笑って、気のせいかも知れませんが『ざまあみろ』という顔をしていたのだと思いました。


 それから彼は教室で避けられるようになり、いじめられることはないのですが、どうしても必要なとき以外話しかけられなくなりました。しかし、そのあと少しして、また彼を見ました。当時は平気で使われていた焼却炉の前に立って、中で燃えているのを眺めているようでした。


 気にしない方がいいのでしょうがどうにも気になって、こっそり彼を観察すると、手に一枚の紙を持っているようでした。よく見るとそれは中学の時の初めて撮影したクラスの集合写真でした。


 関わらない方がいいとは思ったのですが、結局彼が燃えている焼却炉に写真を入れているのを最後まで見てしまいました。


 それから一目散に逃げていって、彼には関わらないでおこうと思いました。


 それで、その翌日何が起きたかというと……Xくんが来なかったんです。なんでも担任によると、少し重い病気になったので寝込んでいる、負担になるから見舞いには行くなと言っていました。クラスの多くが頼まれたっていかないと思っていたと思います。


 結局、Xくんは卒業式にも出てきませんでした。人を呪わば穴二つとは言いますが、数人ならともかく、数十人を一度に代償無しで呪うなんて都合の良いことは出来ないんでしょうねえ……


 中学時代のあまり良くない思い出ですよ。

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