秋の中山競馬場
夏競馬が終わり、中央競馬会も9月を迎えた。とはいってもまだまだ気温は高く「秋の中山」開幕日は30度を超える年もあったりする。
そんな残暑厳しい9月の1週目。中山競馬場では伝統の重賞レースである、京成杯オータムハンデキャップが行われる。
ハンデ戦とは、ハンデキャッパーといわれる関係者達が「どの馬が勝ってもおかしくない」ように、斤量=「騎手+騎手が体に巻く重り」の重さをうまい具合に調節し、そのレースにおいて発揮できる能力の均等化を測る競走の事だ。
このレースでは、成績を残して来た馬には重いハンデが科されることが多い。そうなると実力通りに決まる確率が減り、馬券における配当が上がるという馬券ファンにも嬉しいメリットが存在するため、根強いファンも多いように感じる。
そんなレースにトキメキは挑む。ここ何戦かは全く振るわないものの、タイトルホルダーである彼は出走馬中、最も重いハンデを背負う事になった。
だが私を含むトキメキの関係者は、トキメキが一変し好走する、もしくは最低でも好走の足がかりを掴むことを、早々に予見していた。
それはどういうことか…。私が例の北海道訪問から、帰路に立つ日の朝。彼との最後の抱擁の際、とある異変に気付いた事が、そのきっかけであった。
トキメキはすぐには気を許さない。ほかのサラブレッドより、それはもう一層だ。だからこそ基本的には、常に警戒モードで毎日を過ごしている。その警戒モードの中では、彼は恐らくとても強がる。
人間もそうだ。大切なプレゼンの本番や、命運をかけた商談など緊張する場面では、おおよそ心を許してる相手に見せる仕草とは違う「律した自分」が、どこからともなく登場する。その律した姿においては、いつもの弱さを決して見せないようにするものであろう。
私と再会したトキメキは、久しぶりに「超リラックス状態」にあったのだと思う。
「トキメキ…なんか息の仕方…変じゃない?」
緊張のとけたトキメキが私に見せたのは「ノド鳴り」の初期症状であった。ここ数週間、他の馬では気付けている状況もあったと思うが、トキメキの心のフィルターは文字通り「鉄壁」で、自分の弱みが外に漏れ出すのを許さなかったのだろう。
だからこそ、「トキメキは変わる」と、私達はそれを信じて疑わなかった。
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