夢から覚めると
淡い記憶を纏った「心地の良い」夢から、私は目覚めた。私がどれだけ競馬に詳しくて、どれだけトキメキの事が好きで、とれだけ未来のことを大切にしていたのか。それらを神様が再確認させてくれたかの様な、優しい夢から。
リビングに行くと、母が食器を洗っていた。
「私、昼寝しちゃったみたい」
「あら、おはよう。病院に戻るために、お父さんが車出してくれるって」
そうだった。私は朝、入院している病院の部屋から「脱走」したのだ。今思えば、いい大人がすることでは、絶対にない。突然自宅の電話が鳴った。きっと青井先生だろう。実は今日、彼女は休日で病院に居なかった。
「そりゃ、怒ってる」
電話口で先生に言われた。いつも無表情がデフォである彼女が言うんだから、余計に怖かった。ただ、彼女は不思議と、それ以上深く追求してくる事をしなかった。更に言えば「呆れた」様な雰囲気ではなく「優しさ」の内包されたスルーでもあったと思うのだが…。
不安定さを薄っすら滲ませていた私のメンタル。そしてそれは、先ほど青井先生が見せた「変な優しさ」をトリガーとして、このタイミングで何故か突然爆発してしまう。
「全部知りたいよ…!先生!」
行き場を失っていた不安と不満を、青井先生にぶちまける。勢いは止まらず、遂には薄々勘づいていた、絶対に触れてはいけない筈の内容すらも、私は吐き出してしまう。
「私さ…コインランドリーで、知らない男の人に襲われたんだよね?」
諦めざるを得ない「氷のような冷たい空気」が、私のいるリビングと、通話中の回線の中で同時に流れた。母は唇を噛み、窓の外を見るしかない。冷静な青井先生ですら、受話器の向こう側で、どうやら拳を机にドン!と叩きつけている様だ。その一瞬に限れば、いわゆる「地獄絵図」と言っても、全く大袈裟ではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます