八百万の神々に愛されし少女は天帝遣也

中太賢歩

第一章

始まり

神之原祈音の憂鬱①

「姫様、朝ですよ。お目覚めになられてくださいませ」

「ん……、ばあや……?」

「はい、そうですよ。若君様がお待ちになられております」

寝起きで頭が働かなかったけれど、ばあやのその一言で一気に目が覚めた。

「ばあや、今何時!?」

「巳の刻にございます」

「つまり午前10時頃ね!?」

「姫様、若君様が大変お怒りのご様子ですよ」

「終わった…」

御兄様、怒ると怖いのよね……。

「姫様、本日はこちらのお召し物を」

「うん。ありがとう、椿」

神之原一族の本家、神之原家に仕える従者の1人が、椿。

他にも夕顔、朝顔、菖蒲といった従者達がいる。


早歩きでとても長い廊下を歩き、御兄様の居る部屋へと向かう。

大広間の襖に着き、私は身なりを整える。

無論、正座だ。

そして、声を掛けた。

「御兄様、神之原祈音ねねで御座います。部屋に入っても宜しいでしょうか」

「お入り、祈音」

……御兄様、相当御立腹のようですね……。

「失礼致します」

スーッ…と襖を開ける。

「さぁ、祈音。僕の所においで」

「御意」

御兄様の元へ歩いている時、なるべく私は反対側を向かないようにしていた。

だって、だって……!!


「わぁ〜、可愛らしい女の子だぁ〜」

「ハッ、オレの妻に相応しいかどうかだな」

「おやおや、智溟ちうみはんは凄い自信家どすなぁ。ふふ…あの子ぉ、凄い霊力の持ち主どすなぁ……。」

兄様あにさまの妻に相応しい御人でしょうか…?僕、不安です…」

たのの妻に相応しい子か、私が見極めなくてはね」

弥華みかが彼女を攻撃しなければ良いんだけど…」


すっごいイケメンが不穏な会話しつつ、私を見つめてるから……!!

「皆様、大変お待たせ致しました。こちら、私の妹である神之原祈音です」

「お初にお目に掛かります、神之原祈音と申します。以後、お見知り置きを」

「では早速、私達神之原一族について改めて説明を。随時、質問を受け付けております」

御兄様のこの言葉により、ピリッと空気が変わった。

「まず、神之原一族についてですね。神之原一族は代々、日本国ひのもとのくにの天帝、基に御神子様おみこさま方に遣えてきました。人々は、私達神之原一族を『天帝遣てんていのつかい』と呼んでいます」

日本国は、私達が暮らす国のこと。天帝は、日本国を創った、八百万の神々を産み落とされた祖神なのだ。

御神子様は、天帝の子孫。

天帝遣は、そんな天帝達に遣える私達の呼び名である。

「良い、続けろ」

黒と赤が入り交じった髪色の、すごく怖そうな人が言う。

「神之原一族には数々のしきたりが存在します。その中の一つが、今回皆様方にお集まり頂いた理由となります」

そうそう、沢山のしきたりがあるのよね。

多すぎて私、覚えるの諦めたもん。

「そのしきたりが、僕達に関係があるのかい?」

「はい」

なんだっけ…?覚えてないから分からない……。

「神之原一族しきたり第205条…『16歳の女子おなごは、三柱以上の神と夫婦めおとの契りを結ばせよ』…です」

「……え?」

思わず声が出てしまった。

なにそれ、初耳…。

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