第4話 私だってご令嬢よ!
第三皇子が過ぎていけば、そのあとの行列に興味のない見物人たちも満足して散り散りになる。散り散りになる人々の話に耳を傾けると、もっぱらの噂は、第三皇子はどこの令嬢との婚姻か、皇子の側近はどの部署に配属になるのか、今晩の祭りについての噂話があちこちでされていた。婚姻については、他の皇子も未婚なため、そちらにも波及し、どこどこの令嬢がという具体的な名前まで出てくる。その中で、私の名が上がるたびに、「芳家の令嬢か?」と苦笑いされてしまう。その『芳家の令嬢』が皆の話に耳を傾けているというのにだ。
どうやら、私は、皇族へ嫁ぐにはふさわしくないと思われているようで、気持ちが楽になった反面、憤りも感じた。
……私だってご令嬢よ! 山猿とか田舎娘とか言われているのは知っているけど、そんなに、私が皇族へ嫁ぐことはありえないのかしら?
頬を膨らませてみても、誰も私のことを気にかけるものもいない。ここには、『芳家のご令嬢』を知る人がいないからだ。それに、ご令嬢が、行列を見たさに、こんな場所まで出向いているとは、誰も思わないだろう。
私も屋敷へ戻ろうと元来た道を振り返る。とぼとぼと歩き始めると、列の最後尾で私を追いかけてきた侍女の連珠と幼馴染の怜冬嵐が冷ややかな表情で私の戻りを待っていた。
「お嬢様、あれほど待ってくださいと言ったではありませんか!」
顔を真っ赤にして、腕組みをしている連珠に、肩を項垂れて謝るしかない。それが演技だったとしても、連珠は許してくれるだろう。
「ごめん、ごめんね? 連珠」
「今日こそは、許しませんからね!」
「そんな……連珠、ねぇ? 許してよ? 冬嵐もなんとか言ってよ!」
私は連珠に縋るように、服の袖を引っ張ってみたが、相当、怒っているようでとりつく島もない。チラッと隣にいる冬嵐を見たが、扇を広げてふわふわを仰ぎながら、にっこり笑いかけてきた。この表情は、私を助ける気がないのだと悟った。
幼馴染である冬嵐は、私のことを本当によく知っている。その代わり、私も同じくらい冬嵐のことを知っていた。次に返ってくる言葉は想像できたが、言ってみることにする。
「「桜妃が悪いな。僕も放っていくんだから!」」
声真似をして、冬嵐と同じ言葉を言うと、目を見開いて広げていた扇を閉じてしまった。そのあとは、私を睨みつけるだけだ。
「ごめんってば! 第三皇子の話してあげるから……ねぇ? 二人とも機嫌を直して?」
縋るように冬嵐の袖を掴んで「ねっ?」と覗き込むと、手に持っていた扇子をバサっと広げて「知らない」とすげなくされてしまう。二人とも取りつく島もなく肩を落とす。不機嫌なままの二人を伴い、私はまた来た道へとゆっくりと戻っていく。
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