食べたい

「黄色の膨らんでる、少し長くて文字が赤いやつ」

それがその子の一番食べたい食べ物だった。けれど私はわからない。

「な~に、それはケーキかな?甘い?」

「 知らないよ だって食べたことがないから」と、その子は言う。そうか、 見たことがあるだけなのかと、その子の小さな頭を撫でた。

「じゃあ、この本の中にあるか、 一緒に探してみよう」と、二人で 長椅子に腰をかけた。


「あったあった、これだよ、食べたいの」と、華奢な 人差し指をさした。あっさりと見つかり、「あぁ、これかぁ、よしっ」と、私はエプロンを付けて、早速台所で動きだした。涙が出そうで動くことで誤魔化した。私は泣き虫だから。そんなので良いなら、いつだって作るよ……そう思った瞬間に、泣き虫が発動しそうだったから。

その子は真剣な顔で、作る私の手元を見張っている。時折、唾を飲み込んで 作り終わるのを待っている。

「は~い、できました」と、またその子の頭を撫で、私はオムライスをテーブルに静かに置いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る