第65話 おやすみ、ブリジット
火竜の存在が世間に知れ、冒険者たちはざわついた。まだ、子竜だから心臓を取れば、ペットにも出来る……。心臓は、石化してしまえば、最高金貨で数十枚の価値がある貴重品だった。
追い打ちをかけるように、冒険者ギルドの創始者、パーファー氏が「竜を捕らえた物には、懸賞金をだそう」と言い出したのだ。
これによって、冒険者たちは一気にお祭りモードに突入した。
そんな事も知らず、高い木の上で眠りこけていた、マークウェルとブリジットだったが、風の奥方の守護を持つアドリアンによって現状を知らされ、ナムラ砂漠の砂嵐に隠されたオアシスに辿り着いた。
『ブリ、ドコカ、イクノ!?』
ブリジットは、人型に戻っていた。
マークウェルや、後から来た魔法使いが精霊達と渋い顔をしてブリジットの事を見ている。
ブリジットも不安になってきた。
「ブリジット、聞いてくれ。俺たちは、お前をこれ以上守ってやれない。
このオアシスの外に出れば、冒険者や悪い魔法使いたちに捕まる。そうなれば心臓を盗られて、また人形にされてしまうんだ」
『ソレ、イヤ!!』
「嫌だよな? でも、俺達も他の荒くれ冒険者や、教育を受けて無いはぐれ魔法使いからお前を守るだけのために、同士討ちが出来ないんだ。お前が人間なら、一緒に過去に行って暮らしても良かったが、お前は竜だ。俺には、お前が成人する時までの寿命は無いだろう」
ブリジットの目から、大きな涙がこぼれた。
『ブリ、ドウ、スレバ、イイノ、?』
「このからくり箱の中へ入って、寝ててくれないかな?」
アドリアンが、
『ユウシャサマ、ニハ、モウ、アエナイ、ノ、?』
マークウェルは、頷いた。
ポロポロと涙を流すブリジット。
SSSランクの冒険者のカラクリ箱には、魔法がかかっている。
冒険が長期にわたる場合に備えて、時間が止まるような細工もされているのだ。
アドリアンが、ブリジットの身体くらいにからくり箱を大きくした。
「だが、未来で必ず会えるはずだ!」
マークウェルの言葉に安心して、ブリジットは自分から箱へ入った。
「出来れば、我らの祖神に見つけてもらると良いいな」
アドリアンの言葉は、ブリジットには訳が分からなかったが、頷いた。
やがて、ふたを閉めようとすると、ひょっこりブリジットが顔を出してきた。
「どうしたんだ!?」
優しく声をかけるマークウェル。
『ユウシャサマ、シンゾウヲ、モドシテクレテ、アリガトウ、ダイスキ!!』
ここのオアシスは、砂嵐で人が来ることも稀だ。
今は、ブリジットが話しても大丈夫なように、風の奥方が結界を作ってくれていた。
最後の大好きには、炎が大量に飛び出ていた。
マークウェルにそう言うと、ブリジットは、満足そうに箱の中へ入って行った。
オアシスの泉の近くに2人は、からくり箱を深く埋めた。
何年か後、誰かがからくり箱を見つけてくれることを願って……
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