02

 二年前まで、わたしは『ボク』だなんて言わなかったし、男の恰好をしたこともなかったし、ましてや、ディアンなんて名乗らなかった。


 二年前のわたしは、ジュダネラル王国の王城聖女で、聖女の制服を来て、ペルアディアという名前で生活していたのだ。

 ――そして、聖女であると同時に、王族の婚約者でもあった。有望な聖女をジュダネラル王国にしばりつけるため、王族が結婚するというしきたりがあり、わたしの相手はアグラルド様だったのだ。


 皆がそれぞれマグラルド様と自己紹介しているのを、どこか現実感がないと思いながら、わたしは眺める。

 リリリュビさんが安堵の溜息を吐いた。


「マグラルドくんはジュダネラル王国出身らしくて。人工地生まれだから、腕っぷしは期待できるよー」


 マグラルド様の紹介を済ませたリリリュビさんは、「出会いに乾杯」といって、カップを持つ。食事処に集まってマグラルド様の紹介をしたということは、そのまま歓迎会をするつもりなんだろう。

 ……というか、マグラルド様、ジュダネラル出身だって隠してないの? 王子だってバレることが怖くないのだろうか。


 いやまあ、王子がこんなところで冒険者をやっている、なんて誰が思うんだ、っていう話ではあるんだけど。ましてやジュダネラル王国は長子が国を継ぐとは決まっていない国である。第三王子とはいえ、人望と実力があれば国王にだってなれるのだ。

 隣国に留学、どころではないことをしているので、逆に気がつかれないのかもしれない。


「人工地って大変だよなあ。しかもジュダネラルって今、聖女がいないんだろ? お前、国から逃げてきたのか?」


 食事の雰囲気になって一番に肉料理へ手を伸ばした青年――ザフィールがマグラルド様に問う。


 聖女、という言葉に一瞬反応してしまったけれど、皆マグラルド様の方を見ているから気が付かれていない。はず。大丈夫、大丈夫。

 わたしが、そのいなくなった聖女、というのはバレていない。

 

というか、マグラルド様が王子だと見抜かれていないのだから、わたしだって大丈夫だろう。マグラルド様だけ警戒していればいいのだ。


「ああ、聖女が足りていないのは事実だ。しかし、いないのは王城聖女のみ。各領地には領地聖女がいるし、一人、王城に来ることになっている。すぐに安定するはずだ」


 ……ふうん、そういうことになってるんだ。わたしがいなくなった後のこと、何にも情報が入ってこないから、知らなかった。


 ジュダネラル王国は、土地が悪い。『聖女』という肩書を持つ女の魔法がなければ、日々を安心して生きられないのである。

 本来ならば、神から与えられた土地に住むのが自然であるはずなのに、増えすぎた人類は土地を求め、魔法で新たな土地を作った。その数ある人工地の一つがジュダネラル王国。


 そのため、定期的に生じる『障り』を排除しないとならない。神の土地だと『障り』は勝手に浄化されるが、人間の魔法によって作られた人工地は聖女の魔法によって浄化しないと永遠に溜まり続ける一方なのだ。


 だからこそ、人工地にある国では聖女という存在が何より大事なのである。


 ――まあ、わたしは追い出されたんだけどね!

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