第17話

その先には確かに葵葉の姿が。

慌てた様子で社へ向かって走って行く葵葉。




「?何かあったんですかね。何だか慌ててましたけど」



「さぁ~な」



「神耶、行ってあげなくて良いのですか?」



「何で俺が。奴から身を隠す為にここにいるのに。……て、師匠? 俺がここにいるって事は絶対奴には内緒にしろよ!」



「お~い、葵葉さ~ん」



「っておい! 何大声出して呼んでんだよ。内緒にしてくれって、今お願いしたばっかだろ」



「葵葉さ~ん!!」



「だから、頼むから俺を平穏無事に過ごさせてくれ。な? 今日一日良いだろ? ……って、何笑ってんだよ師匠」



「だって、こんな離れた場所から呼んだって、人間の葵葉さんには聞こえるわけないのに、そんな必死になって」



「……あ」



我ながら恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じていると、葵葉の後ろからもう一人見知らぬ男が葵葉追いかけ走って行く姿があった。



「……誰だった、あの男?」



「さぁ? でももしかして葵葉さん、あの男から逃げているのではないでしょうか? だからあんなに焦っているのでは? だとしたら大変ですよ神耶。早く葵葉さんを助けに行かないと!」




いつも穏やかな師匠が、珍しく焦った様子で俺を追い立てる。



だが、突然の事に俺の頭はついて行かず、一瞬動く事が出来なかった。




「…………」



「神耶っ!」




「あ、あぁ……」






師匠の声に急かされて、そこで初めてはっと我に返った俺は、慌てて桜の大木から飛び降りると、疾風の如く急ぎ神社までの道を引き返す。




『神耶君、何処にいるの? 神耶君……』




その間、俺の頭の中に響いてくる声。

必死に俺の名前を呼ぶあいつの――




「っくそ!」




どうして俺は、今日に限ってあいつから逃げようとしてしまったのだろう。



自分の浅はかな行動を後悔しては、きつく唇を噛み締め俺は走った。

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