怪族

ゴルゴンゾーラ三国

01

 楽しくない。

 何もかもが楽しくない。


 世の中の奴らの大半は労働に追われ、心身を削って対価に金を得ている。SNSを見れば、やれ残業だの、休日出勤だの、仕事の愚痴であふれ返っている。

 高校中退し、ニートという、どこにでもいるような転落人生を歩んでいる僕は、そんな奴らと違って時間だけは腐るほどあるはずなのに。


「――あぁ、クソッ」


 小学生の頃からやっている、コンシューマーの対戦ゲーム。今の僕の年齢を考えると、レトロゲーに分類されるのかもしれないが、ずっと現役で遊んでいるので、その実感は薄かった。

 こうして、小学生から遊んでいるゲームに本気になれる辺り、あの頃の僕から何も成長していない。


「あー、だる。知らね」


 僕はコントローラーを適当に投げ捨て、寄りかかっていたベッドにそのまま寝そべった。積み上げていた漫画に当たったのか、バサバサと、本が落ちる音がした。

 ゲームに負けたことより、子供の頃から悪い意味で変わっていない自分に気が付いたことへ、気分が下がる。


 ――コンコンコン。


 ひと眠りするか、と思っていたところに、ドアが叩かれる。階段を上る音もしないで聞こえてきたので、少しばかり、肩を跳ねさせてしまった。そんなことが気恥ずかしくて、ごまかすように舌打ちをした。


 ドアの下の方を、三回。このノックの仕方は、母さんが一階から食事を運んで来てくれたときのもの。階段を上がり切らないで、階段横すぐの僕の部屋の扉をノックするものだから、こんな位置を叩いてくる。


 スマホで時間を確認すると、朝の五時半だった。おおかた、父さんの弁当の仕込みついでに、僕の朝食も用意した、というところだろう。ニートに朝も夜もないが。

 ふて寝しようとしたのをやめ、僕は扉を開けて料理を取る。盆の上に載っているのは、白米と味噌汁、卵焼きときんぴらに塩じゃけ、あとはたくあん。メニューだけ見れば豪勢だが、白米と味噌汁以外は、いかにも父さんの弁当のあまりを適当に一皿に持った、と言わんばかりのものだった。

 まあ、トイレ以外で部屋を出ないのだ。この程度でも、ぜんぜん足りる。部屋でも大したことはしないので、カロリーを全然消費しないのだ。


 僕は出来立ての朝食を雑に食べ、食器を再び廊下に戻す。そのまま、布団にもぐって、目をつぶった。

 ご飯を食べて、寝て。起きたら気まぐれに、小学生の頃からラインナップがあまり変化しないゲームをし、漫画を読み、ネットサーフィンをする。


 そんなクソつまらない生活を、僕はもう、二十年近く続けていた。

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