2.罪状確定
妹のご所望はわたしの予想にはなかった「逮捕ごっご」なのですが、そこは小6ですので、遊びのレパートリーが予想外でもそこそこ対応は可能だと思いました。
「いいよ、家についたやろうか」
「やった!」
「で、わたしは何の罪で逮捕されるの?」
わたしは罪状を先に聞いておいて、ストーリーを考えておかないとなりません。どうせ妹の頭の中には逮捕する瞬間だけしかイメージがないでしょうから、いかに劇的な逮捕の瞬間になるかの前フリが必要なわけです。わたしがいかに悪者であるのかが重要であり、どうやって妹の清らかな正義感を満たすのかが大事だと考えました。姉として妹が気持ちよく逮捕できる環境を整える。それがわたしに課せられた使命というわけです。
罪状の回答を得る前に車は家に着き、別荘の鍵を開けて入りました。その後、秘書さんは「夕方にご両親を迎えに行くために駅に戻ります」と言って車を出し、わたしたちは家で二人っきりになりました。夕方前には地元のお手伝いさんが夕食を作りにくるので、二時間ばかりは二人でお留守番というわけです。
二人の部屋に荷物を置き、事前にクリーニングされたベッドに寝転ぶと、わたしは再度、妹に問いかけました。
「で、わたしは何で捕まるのかな?」
「それはもう決まっているの」
今度はリュックサックの中を漁ると、妹の拳くらいの大きさがある瓶を出してきました。コルクの蓋がついたほぼ立方体の透明な瓶です。
「これをおねえちゃんが持っているから、逮捕するの」
「へーえ。どれどれ、ちょっと見せてごらん」
わたしは妹からその瓶を受け取り、中身を眺めてみました。
昼間の別荘は照明を点けないのですが、窓からの光でそれがなんであるかよーくわかりました。
「そうかあ、わたし、麻薬をやってるんだね?」
瓶の中身はおそらく小麦粉……いや、麻薬が入っておりました。
それも(犯罪者としては)一般的に使用する量ではなく、売人が持つ量でした。
「オーケー。わたしは取引の為にメキシコからマイアミに来ている売人というわけね。セニョリータ?」
すばやく設定を作ってみせると、妹はどうやら売人という言葉を知らなかったようで、目を輝かせながら「そうバイニン! おねえちゃんはバイニン!」と、静観な別荘地で窓が全開だというのに、大声で叫んで喜ぶのでした。
通報待ったなし!(つづく)
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