妹は麻薬捜査官

犀川 よう

1.妹のご所望は

 子供の頃、毎年夏休みになりますと、伊豆にある別荘に行くのが我が家の恒例行事になっていたのですが、この年は両親が仕事で忙しく、先にわたし(当時小6)が妹(小3)を連れて電車で行くことになりました。姉妹二人だけのささやかな冒険というわけです。

 

 初めて二人だけで長距離の特急に乗って緊張したものの、無事に伊豆のとある駅に着きました。駅を出ると父の秘書さんが黒塗りの車(が乗るような白いカーテンレースのついているセダン)で出迎えてくれまして、わたしはホッとして車に乗り込み、別荘まで連れていってもらいます。


 車が坂道を走っていくなか、別荘についたらすぐに遊ぶ気マンマンと思われる終始ご機嫌な妹が、外の景色を見ているわたしの方をチラチラと見てきます。いわゆる”誘い受け”というやつでして、わたしから「遊んであげようか?」という言葉を待っているのです。今考えるととても微笑ましいのですが、当時は毎日やられていたので少しばかり面倒に感じていました。


 諦めてくれとばかりに無視をしていたのですが、そのチラチラはとまることなく、ついには後部座席の右側に座っているわたしに妹がすり寄って(※当時は後部座席のシートベルトが義務ではなかったのです)きまして、「何して遊びたいか聞いてほしいオーラ」を出してきます。


 この妹ですが、当時はわたしisGodなくらいにわたしに懐いておりまして、わたしを崇拝しているまであったくらいのピュアな子だったのですが、その反面、わたしがなんでもしてくれると思っている節がありまして、遠慮なくねだってきます。神様にもねだる、したたかな妹なのです。


 こうなるともう仕方がないので、わたしは妹の顔を見て、「家(別荘)に着いたら何をしたいの?」と聞いたんです。


 どうせいつものお人形遊びだろうと予想してたのですが、妹は可愛らしいけどパンパンに物が入ったポーチをゴソゴソとあさって何かを取り出し、笑顔でこう言うんですね。


「おねえちゃんを逮捕したいの!」


 実際に妹が手にしていたのは、(おもちゃの)手錠でした。


なんてこと!(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る