第3話 食えたもんじゃない

「酸ってスキルを持ってたし、早めに決めないと不味いよな」


動きが鈍いスライムだが、それでも攻撃対象を溶かす酸を武器に戦うので、あまり雑魚キャラと嘗めてかかると、痛い目に合う。


「えっと……こんな感じか」


ユウゴはウィンドアローの魔法陣を展開し、風矢をスライム目掛けて放った。


しっかりと狙って放ったつもりのウィンドアローだが、モンスターの第二の命……スライムにとっては命のそのものである魔石にはギリギリ当たらない。


ただ……ユウゴにはオートエイムといったチートスキルがあり、多少狙った位置からズレていたとしても、直ぐに修正される。


そしてスライムはユウゴのウィンドアローに為す術もなく、魔石を貫かれて力なく崩れた。


「……勝ったん、だよな?」


初めてモンスターを倒し、戦いの童貞を捨てたユウゴ。


だが、あまりにもあっさりと勝ったため、モンスターを相手に勝ったという自覚がない。


(まぁ、普通のスライムっぽかったし、レベルも二だったか? そこら辺を考えれば魔法一発で倒せてもおかしくないか)


なんて思いながらも、初めてモンスターを倒したことに達成感を感じていた。

ただ……スライムは食事可能なモンスターではないので、食料ゲットとはならなかった。


「……次は食えそうなモンスターと遭遇したいな。やっぱり、鳥とか豚……牛か?」


以前までの食生活を考えれば、確かにその辺りのモンスターが食事のターゲットとしては妥当。


妥当だが、鳥や豚に牛といった類のモンスターのランクは大抵……最低でもEはある。

先程ユウゴが倒したスライムのランクはFであり、最低ランクのモンスター。


戦いに精通していない素人でも倒そうと思えば倒せる。

だが、Eランクのモンスターになると、そう簡単には倒せない。


確かにユウゴはチート級のスキルを多く持っているが、まだ扱いには全然慣れていない。


「兎とか熊も食えるんだよな……いや、熊なんて巨体なモンスターに襲われたら、いくらチートスキルを持ってる俺でも、まだ倒せないか」


ユウゴの判断は正しい。

正しいが……空腹を満たすためには、食えるモンスターを狩らなければならない。


幸いにもベスが気を利かせて解体のスキルをユウゴに与え、更には火魔法のスキルを持っているので生で食べずに済む。


「ん? 今度は……ゴブリンってやつか」


体は緑色で、体長は小学生低学年程しかない。

ただ、それでもユウゴの目の前に現れた生物がモンスターということに変わりはなく、数が三体と多い。


(ランクは……さっきのスライムより上のEか。それにレベルが全員四……棍棒とか持ってるし、迂闊に近寄らないほうが身の為か?)


既に三体のゴブリンはユウゴをロックオンしているので、逃がすつもりはなく……ユウゴも簡単に逃げ切れるとは思っていない。


思っていないが、それでも今の自身の状況が絶体絶命だとは思っていない。


「ギギギィ」


「ギギャッ!!!」


一体のゴブリンが突撃する合図を行い、三体が一斉にユウゴ目掛けてダッシュ。


(中身はそんなに上等じゃないみたいだな)


自分を囲ってから攻撃してこなかったゴブリンの馬鹿さに感謝し、ユウゴは再びウィンドアローの魔法陣を展開し……今度は三つ同時に風矢を放った。


通常であれば、三体の敵に三本の魔法矢を同時に当てるのは難しいが、ユウゴにはそれを可能にするチートスキルがある。


「ッ!?」


「ギャ!?」


「グギャ!!」


「おぉ~~~~~。見事に三本とも脳に刺さったな」


ユウゴが放った風矢は一寸もズレずにゴブリンの頭部に向かい、ゴブリンは風矢の速さに対応することが出来ず、あっさりあの世にとばされた。


「オートエイム……やっぱりチートだな」


ベスから貰ったチートスキルに感謝しながらも、ユウゴはもう一度魔眼でゴブリンを調べ……食べられるのか否かを確認。


「……焼いても調味料を使ってもクソ不味い、と。はぁ~~~。そりゃそうだよな」


予備知識があった訳ではないが、始めてみた時からあまり美味そうには思えなかった。


ユウゴの直感は正しく、ゴブリンは基本的に食用の肉ではない。

気合や根性でなんとか飲み込めなくもないが……心の底から後悔するのがオチ。


本当に何も食べる物がなくなった非常事態であれば、仕方なく食べる……かもしれない。

そんなレベルの味なので、一般人は基本的に食べることはない。


「倒したのに食える肉じゃないって解ると、余計に腹が減ってきたな」


次に遭遇するモンスターこそ、食べられるモンスターであってほしい。

そう思って足を進めようとした時、先程戦ったスライムの体にあった核と思われる存在を思い出した。


「そういえば、あれって魔石? って素材だったよな……が、頑張って解体してみるか」


前世では一度も獣の解体をしたことがなく、魚を捌いたことすらない。

だが、今のユウゴには解体というスキルがある。


手頃なナイフは持っていないので風の魔力でナイフの形を作り、人生初めての解体を行い……ゴブリンの内臓を見たユウゴはきっちりオロオロオロ~~~っと吐いた。


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