第41話 シシルナ島 真実
※※
ローカンは警備の警笛を吹き、彼らの到着をヴァルと待っていた。
「ヴァル、どこに行くんだい?」
耳を立てたヴァルが血相を変え、疾風のごとく屋敷に向かって、いきなり駆け出した。
「褒美をあげようと思ったのに……」
英雄たちに蹴られた暗殺者たちは、全く動けなくなり、地面に転がっている。
「まあ、喋れんと困るし、息もできんとな。気を使ってやったんだ。まあ、一年もすれば起きれるだろう」
老人たちの言葉を思い出しながら、ローカンは一人で笑った。彼らとゲームをしても、勝って怒らせたりしないぞ、と思いながら。
※
セラを安静にするため、部屋にはサルサ医師とカノン、そしてノルドだけが残っていた。
刺青女の薬が効き、セラの呼吸は次第に安定してきた。
「教えてくれ、どんな毒なんだ?」
「ふふふ、面白い子ね。どこまでいっても薬師なのね。この島にいる毒魔物は?」
「蛇、蛙、蜂、蜘蛛だ」
「そうね、だから、それ以外だわ。だって、彼らは一流の暗殺者よ。簡単に解毒薬が手に入るものを使うわけがない」
「それ以外でも種類が多い……」
「貴方の母さんは、きっと北方出身だわ。牙狼族がそうだもの。上級冒険者は、その地域の毒耐性を必ず持っているものよ」
「南方の海月の毒だ。この毒は、周りが速く、致死率が高い」サルサがセラの様子を見ながら答えた。
「正確ね。さすが、高名なお医者様」
「馬鹿にするな。悪名だ」サルサが不愉快そうな顔をした。
その時、ヴァルが飛び込んできて、セラに飛びついた。
「だめだ、ヴァル、大人しくしてろ」
小狼は両目から涙を流し、セラの側に蹲った。
「カノンだったな、別室で話がある」島主が冷たい声で部屋に入ってきた。
「わかったわ。拷問はなしよ」
「ああ」
結局、司祭から有力な情報は得られなかった。口が固く、何も話さなかった。
「お前たちの一味は、全員捕まえたぞ。ちなみに、しばらく動けない体だ。逃げられない」
「そう」興味なさげに、カノンは答えた。
「どこでも好きなところに行け。だが、この島で新たな犯罪を犯したら、すぐに捕まえるからな」島主は怒りを抑えながら言った。
「わかったわ。でも、明後日まではここにいるわ。セラが心配だからね」
「嘘をつくな!」
ノルドは彼らの会話が全て聞いていた。カノンの言葉には、又、半分だけ真実が入っているように聞こえた。
「ノルド、ヒールポーションはあるか?」サルサが尋ねた。
「はい、こちらに」ノルドは常備していたポシェットから薬を取り出した。
「水で薄めて、ゆっくりと飲ませてくれ。この薬も混ぜてな」ノシロから受け取った薬を渡しながら言った。
ノルドは薬を混ぜ、スプーンでセラの口に運んだ。
「ノルド、この前の話の続きをしよう。セラの病、いや、違う、呪いについてだ」
「はい」
「このままの生活を続けていたら、長くは持たない。呪いは、今ある薬では消えない。彼女の命を少しずつ削っている。普通の人間なら、もうとっくに……」
「どうすれば、呪いは消えますか?」
「呪いをかけた者がいなくなるか、呪いを消す薬を作るかだ」
「わかりました。僕がなんとかします」
「お前なら、いつか薬を作れるかもしれないな。でも……」
サルサは少し休むと言って、寝室から出て行った。
「様子はどうだ? ノルド」グラシアスが入れ替わりに部屋に入ってきた。
「はい、眠っています」
「そうか。ノルド、お前に大切な話がある」グラシアスはセラの様子を見ながら、話しにくそうに口を開いた。
「お前の母さんなんだが、お前の母は……」
「グラシアスさん、その話は、あなたの口から聞きたくありません。私の母は、ここにいます」ノルドは彼の話を遮った。
「そうだな、すまん」
「強くて、厳しくて、優しい。頭が良くて、服が作れて、料理が上手い」
「ああ、そうだな」
「でも、そんなこと、どうでも良いんです。僕を育ててくれた、側にいてくれた、愛してくれた、たった一人の人なんです」
「こんな時に、悪かった」グラシアスはノルドの肩をぽんと叩くと、部屋を出て行った。
『本当にごめんなさい』ノルドは心の中でグラシアスに謝った。セラがぽつりと話す昔話の断片から、理解していたからだ。そう、彼の献身を。
※
真夜中になった。誰もが寝静まる夜。
「起きてる?」
「うん」リコの忍び足が近づいてくるのがわかった。寝衣にセラから貰ったコートを羽織っている。
「少し、散歩しよう、ノルド」
「でも」
「じゃあ、ヴァル、お留守番ね」
ヴァルは、小さく頷いた。彼の目には、セラを守る使命が宿っていた。
孤児院の庭からは、一面に広がる海が見える。満月が海面に映り、押し寄せる波がその形を揺らす。
暗い海も、遠くの大陸も、月明かりに照らされ、輪郭が鮮明に浮かび上がる。彼らには、夜の闇を感じさせることなく、すべてがはっきりと見えている。
ノルドは、最初の記憶を思い出す。彼女に抱かれて、この島に来た日のこと。その記憶が、まるで昨日のように鮮明に蘇る。
ずっと考えていた思いを、ついに口にした。
「リコ、助けてくれ!」
「その言葉を待ってたわ」彼女は頷いた。
「他の人にも頼もうよ」
「でも、迷惑じゃないかな」
リコは首を振った。
「迷惑をかけたのは、私等じゃ。恩を返させてくれ」
振り返ると、いつの間にかニコラが立っていた。
「全く気がつきませんでした」
「ははは、これくらいの隠密は出来るさ。手伝わせてくれるか?」
「お願いします」ノルドは頭を下げた。
「ああ、シシルナ島の本当の姿を見せてやるよ」
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