第36話 プレゼント


 早朝、サナトリウムの門をくぐると、セラとヴァルが出迎えてくれた。


「ごめんね、母さん、あのね……」


 朝日が昇る静かな冬の海を眺めながら、手を繋いでゆっくりと丘を下っていった。


 疲れ果てていたのか、朝食をとるとそのまま夜までぐっすり眠ってしまった。


「ノルド、起きて! ご飯ができたよ!」


 ほんのり甘い香りと、リコの元気な声で、ようやく目を覚ました。


「リコ、お休み取れたのか?」


「うん、頑張ってお菓子を完売したんだ。看板娘のおかげだよー」


 リコは少し自慢気に言ったが、ノルドにはうまく伝わらず、少し不機嫌そうに見えた。

「あれ、グラシアスさんも来てるの?」


「さすがノルド、そうだよ、さあ起きて」


 ノルドは慌ててリビングに向かう。そこには、祝祭の準備が整っていた。


「どう、ノルド。私の飾りつけは?」


「ああ、すごいよ!まるで祝祭の広場みたいだ」


 リコは孤児院で使って余った装飾品を持ってきて、セラから余った布をもらって飾り付けを施した。


 窓辺には様々な色のガラス細工が並び、ほのかな灯りが冬の寒さを和らげていた。

「へへへ、わかればいいのよ」


「ノルド君、久しぶりだね」商人の声が聞こえた。


「グラシアスさん……」ノルドは、彼に依頼されていた商品のうち、いくつかがまだ完成していないことを思い出し、焦った。


「あ! これから準備しますね」


「大丈夫だよ。祝祭で売る予定だったんだけど、到着が遅れちゃってね。それに、シシルナ島での販売はニコラ様に禁止されちゃったから」


「それじゃ、売れないんじゃ……」


「心配しないで。聖王国で売るよ。シシルナ島の特産品としてね」


「リコ、料理を運んで頂戴。今日はリビングで食べましょう!」セラの声がかかった。


「はーい! ノルド、机の上を片付けて!」

 運ばれてきた料理は、シシルナ島ならではの冬の味覚が並んでいた。


 島で獲れた貝や白身魚が豊かに入ったスープ。島特産の柑橘ソースのかかった焼きたてのチキン。季節のキノコとクリームのパイ包み焼き。


「このスープ、久しぶり……」


 ノルドが感慨深くつぶやくと、セラが微笑んだ。


「冬になると、やっぱりこれが食べたくなるわね」


 ヴァルには特製の骨付き肉がグラシアスより供され、満足そうに耳をぴんと立てながら静かに食事を楽しんでいる。


「エリス神と大精霊に感謝を」


 セラの言葉に続き、みんなが手を合わせる。


 そして、デザートには、モンブランケーキ。

 あっという間にデザートも平らげ、セラは立ち上がり、にこやかに言った。


「それじゃあ、私から皆んなにプレゼントよ。持ってくるわ」


 そう言って、彼女は奥の部屋から荷物を抱えて戻ってきた。


「似合うかしら」


 まず、リコには冬用のコートが手渡された。その場で羽織ったリコは、フードをつまんでかぶると、軽く裾を広げながら嬉しそうにくるりと回った。


「うわ、これ超暖かい! こんなにカッコいいの、呪文とか唱えたくなる! ほら、『光の精霊よ、集まれー!』とか!」


 セラはくすっと笑い、「リコにはぴったりね。寒い冬も、魔法使いみたいにみんなを元気にしてくれそう」と応じた。


 リコは照れながらも満足げにフードを整えた。


 次にノルドにはスーツが手渡された。


「これ、僕に?」


「そうよ! 明日のチャリティ用よ。着てみて!」


 ノルドは渡されたスーツを手に取り、布の感触を確かめるように指先で撫でた。


「うわ、なんか緊張してきた…本当に僕がそんな場に出ていいのかな?」


 自分の胸元を見下ろしながら、戸惑いがその顔に滲む。


 セラは穏やかな微笑みを浮かべ、彼の肩を軽く叩いた。


 「心配しなくても大丈夫よ。ノルドなら、ちゃんとみんなを安心させられるはずだから」


 リコも元気よく声を上げる。


「そうそう! ノルド、ピンと背筋を伸ばして! きっと、めっちゃカッコいいよ!」


 ノルドは小さく頷きながら、スーツを手にして奥の部屋へ向かった。


 着替えを終えた彼が戻ってくると、やや緊張した面持ちながらも、背筋を伸ばして立っていた。その姿を見たセラは満足げに目を細める。


「ほら、似合うじゃない。立派になったわね」


 リコは目を輝かせ、驚いたように手を叩いた。


「ノルド、すごい! なんかいつもの優しい感じも残ってるけど、それでいて超大人っぽい!」


 ノルドは少し照れながらも、スーツの袖を引っ張って整えた。「……そんなに?」


 リコが即座に力強く頷く。「うん! 完璧だよ! 絶対注目される!」


 セラはそのやりとりを見守りながら、柔らかな声で続けた。


「明日は笑顔を忘れず、あなたらしくいればそれで十分よ。リコも私も、ちゃんと見ているからね」


 ノルドはセラの言葉に安心したように深く息を吸い込み、拳をぎゅっと握りしめた。「…うん、頑張ってみるよ」



「それから、グラシアスさんにはこれを」

 セラが手渡したのは、ふわふわのマフラー。


「ありがとうございます。まさかこんなに素敵なものをいただけるとは思っていませんでした」


「冬の行商は寒いですからね」


 聖王国の大商会の会長が赤面して、喜ぶのを見て、リコとノルドはくすくすと笑った。


グラシアスは赤面しながら反撃を開始した。


「じゃあ、俺からもだ!」


 グラシアスは収納魔法で、貴重品を入れている空間から取り出した。


「リコには、料理のレシピ本だ」


「やったぁ」リコは飛び上がって喜んだ。


「ノルド君にも、本だよ」


「え! これは?」


 ノルドに手渡されたものは、中級ポーションの作成手順書だった。


「これは、受け取れませんよ! とても高価な物です」


 セラの顔に焦りが出る程だった。ノルドは、そんな母親を見たことがなかった。


「ははは、これで私の勝ちですね」グラシアスは勝ち誇った。


「いけません。受け取れませんよ」


 セラは拒否していたが、ノルドは既に彼らの会話も耳に入らず、必死に本を読んでいる。


「セラさん、これは、ノルド君への投資です。商人ですから、儲けさせてもらいますよ。それに、彼から本を取り上げれますか?」


ノルドの様子を見て、セラも観念したようだった。


「ノルドには、恩を返すよう努力させます」


「ははは、それと、これは美味しい食事のお礼です」


「これは?」


 グラシアスはセラにネックレスを渡した。

 セラはそれを手に取ると、すぐに気づいた。


「これは…防御魔法がかかっている」


「その通りです」


 グラシアスは静かに頷き、真剣な表情でセラを見た。


「気をつけてください。実は、良くない噂を聞きました。到着が遅れたのも、それが理由です」


「良くない噂?」


「有名な暗殺集団が祝祭を狙っているという話です」



【後がき】


 お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。⭐︎や♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします!  織部

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