第14話 オーガ


「それじゃあ、案内してくれるかい!」


 グラシアスが促すと、ノルドは少し緊張した面持ちで答えた。


「はい。着替えてまいりますので、少々お待ちください」


 そう言うと、ノルドは自室へと姿を消した。


「分かった」


 グラシアスは短く応じると、空間魔法で武器を取り出した。


 彼の空間には多くのものは入っておらず、貴重品だけが収められている。彼の空間は、それほど大きくないからだ。


 その手に握られていたのは、彼の穏やかな雰囲気に似合わない、無骨な剣だった。


 盗賊に襲われた時に活躍する、長く愛用している丈夫な剣である。


 やがて、ノルドが戻ってきた。さっきまでの白衣から一転し、冒険者らしい装いに身を包んでいる。


「お待たせしました」


「ほう、似合っているじゃないか。セラ様の手作りかい?」


 グラシアスはノルドの服装が頑丈に作られていることに気づいた。


 腰回りにはナイフやダーツが備えられ、ポケットからは小さな瓶がちらりと見え隠れしている。


「はい。母さんが、森に行く時は必ず着なさいって言ってました」ノルドは照れくさそうに赤面し、下を向いた。


「ははは、羨ましいよ!」グラシアスは思わず笑いながら、商人らしく「誰に売れるかな?この服装はいくらで売れるかな?」と考えてしまった。


 しかし、すぐに気持ちを切り替えて行動を開始する。


「では、行こうか!」とヴァルが先頭に立ち、一行は森へと足を踏み入れた。


 小狼は元気よく跳ねながら、森の奥へと進んでいく。


「どちらへ向かいましょうか?」とノルドが少し困ったように尋ねると、グラシアスは少し考えて、「そうだな、ノルド君は普段、森で何をしているんだい?」と問いかけた。


「そうですね。薬草を集めたり、魔物を狩ったりしています」


「それなら、僕も手伝わせてもらうよ!」


「わかりました」


 一行は森の途中にある小屋に立ち寄り、罠を運び出す。


「へえ、面白いな。こんな罠があるのか!」


 グラシアスは興味津々で、罠を担いで運ぶことにした。


 ノルドは次々に罠を仕掛けていく。


「どうして、この場所に仕掛けるのだ?」


「ここが通り道だからですよ。あ?なんだ、オークじゃないのか」


 ノルドが何かに気づいたように足を止めた。


 グラシアスはノルドの表情に気づき、周囲の様子をうかがったが、特に異変は感じられなかった。


 しかし、索敵魔法を発動すると、何者かがこちらに向かってくる反応が映し出された。


「来ます。オーガです。数匹いるようです」


「おう、任せておけ!」グラシアスは自信たっぷりに剣を抜いた。


 オーガたちは隠れることもなく、周囲の草木を薙ぎ倒しながら堂々とこちらへ迫ってくる。


 その姿が見えてくると、敵の視線が自分たちに集まっているのがわかった。


 こちらはたった2人と1匹。それに、1人と1匹はどう見ても子供だ。


 ノルドは、手袋をはめると腰のポケットから丸玉を取り出し、オーガ達に向かって投げた。


 シューッ…パシャッ、バシャッ。見下して、避けようともしないオーガ達の顔や体に玉が次々と直撃する。


 玉は弾け、中の薬が撒き散らされる。催涙玉だ。オーガ達は敵を前にしながらも、思わず目をこすり、痒みでしゃがみ込んでしまった。


「どうだい?効果抜群だろう?」ノルドがヴァルに向けて得意げに話すと、ヴァルは酷く嫌な顔をして顔を背けた。


 催涙玉の開発で嫌というほど味わった経験があるからだ。


「おいおい、坊主、余裕だな。行くぞ!」


 グラシアスは普段とは違う機敏な動作で一匹のオーガに近づいていく。


「はい」ここでオーガ達が逃げてくれれば無駄な殺生は避けられるのだが、敵はまだ戦意は失っていない。


 ノルドは腰からダーツを取り出しひゅっと投げる。指に挟まれた3本のダーツが、オーガの足にすぱっ、すぱっと刺さる。


 一匹、もう一匹と次々に刺された箇所が変色し、オーガの顔には苦悶の表情が浮かぶ。


「どうだい?煮詰めた魔蜘蛛の毒は?」


 オーガ達がダーツを引き抜こうとすると、簡単にすぽっと抜けたが、先端の針の部分だけは体に残ったままだ。


「わざと簡単に取れるようにしてるんだ。取ろうとする力で、針先から体に毒が流れる仕掛けさ。あ、針には返しがついてるからね!」


 ノルドのダーツは、彼の手で改造され、非道な武器へと変化していた。


 ヴァルは露骨に嫌な顔をしている。


 小狼は青ざめているオーガ達の死角に回り、爪で傷をつけながら、どんどんと体力を奪っていく。


 ノルドは冷静にオーガ達の様子を伺い、ダガーナイフを手に取った。オーガは食糧にも金にもならず、皮膚も思ったより硬くない。


「これでどうだ!トドメだ!」ノルドが持つ軽く輝くダガーナイフを連続して投げる。


 ナイフは狙い通りオーガの体に当たるが、簡単に貫通してしまう。


「しまった。ヴァル!」


 セラからダガーナイフは消耗品だと言われ、プレゼントされたものだが、ノルドにとっては大切な宝物だ。


 彼は知らなかったが、そのダガーナイフはミスリル製で、1本数百ゴールドの高価な品だったのだ。


 ヴァルはナイフの持ち手を咥えて回収し、ノルドの元に運んだ。


「ありがとう!」ノルドは手袋を外し、満面の笑みでヴァルを撫でた。


 オーガの3体の死体が目の前に横たわっている。


 グラシアスはまだその群れのボスと斬り合いを続けていた。


 最初こそ余裕でノルドを横目で見る余裕があったが、途中からオーガの様子が変わり、力や速さが最初の倍近くになり、防戦一方に追い込まれている。


 オーガの目が赤く光り、何らかのスキルを発動しているようだ。ニヤリと笑い、戦いを楽しむ表情をしている。


「それじゃ、こっちも本気で行こうか!」


 グラシアスはスキルを発動し、剣を振りかざす。剣に魔力が通されたのがわかる。


「剣技!」「剣技!」「剣技!」


 やがてオーガの持つ棍棒が折れ、勝負がついた。


 逃げ出そうとしたオーガは、ノルドのダガーナイフに刺され、ばたりと顔から地面に崩れ落ちた。


「はぁはぁ」グラシアスは肩で息を整え、ノルドを見た。彼は何事もなかったかのように投げた武器を回収している。


「恐るべき子供だ」グラシアスは剣を綺麗に拭き、空間にしまった。



「はーい、お疲れ様!ご飯できたよ!」リコの声が森に響き、隣にはセラの姿があった。


【後がき】


 お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。⭐︎や♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします!  織部

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