小さな僕は、でっかくてウブなギャルたちの景品になりました~タイマンゲームに負ければ勝者の言いなりのようです~

佐橋博打@ハーレムばかり書く奴🥰

第1話 でっかくなってたあの子

 高校二年の春。

 桜が舞っている、見たこともない真っ青な花びらをつけて。


 見慣れぬ校門をくぐり、斜め下を向きながら廊下を歩く。


 今日は僕がこの学校に転入する記念すべき日。

 ……のはずなのに、どうも浮かない顔をしてしまう。


 手に持った紙には、僕が目指すべき教室の場所が書かれている。


 そしてその教室のドアの前にたどり着くと、指定されていた時間が来るのを待つ。


「落ち着け……なんとかなる。こんなときこそ笑顔で……切り抜けるんだ!」


 時間になり深呼吸をすると、僕は重たいドアを開いた。


 前を見る余裕はなく、まだ下を向いたまま。

 横から突き刺さる視線が見なくてもわかってしまう。


 先生が立っている教壇の隣で足を止める。


 そして目線は上げられないものの、身体をクラスメイトになるみんなのほうへ向けた。


「は、はじめまして! 今日からこの学校でお世話になります……羽黒 青霄はぐろ せいしゅうです。……よ、よろしくお願いします!」


 道すがら練習したとおりに自己紹介をやり切り、この勢いならばと顔を上げる。


 少し曇った僕のメガネ越しに映ったのは、一面のギャルたちであった。


「……えぇ!?」


 その迫力に思わず後ずさりして、黒板にぶち当たってしまう。


「あいたっ……!」


 情けない声を出してしまい、ギャルたちにクスクスと笑われる。


 僕の真っ黒な髪とは違う、金や銀、茶色などの色とりどりな髪を持つ彼女ら。

 制服も大胆に着崩し、胸元まで見えてしまっている。

 ピアス、ネックレス、指輪……もうなんでもありだ。


 というか座っていてもわかるぐらいにデカい。

 身長も態度も……他も色々と。

 僕が小さいだけで気のせいってことはないだろう。


 全員、女子。

 全員、ギャル。


 ニヤニヤしてる人、嫌そうにしている人、興味なさそうな人。

 それぞれの表情が僕の心に重くのしかかってくる。


 本当にとんでもないところへ来てしまったみたいだ。


 でも、こういうときにこそ先生に頼ればいい。

 普通はね……。


「……なーに? わーしに何か用ー?」


 自分のことを『わーし』なんて呼んでいるは、たぶん先生。


 僕も身長は低いけど、さらに小さい。

 僕の半分もないぐらいの背で、ネコの柄をした大きなスリッパを履いている。

 服も小さい子が着てそうなプリントTシャツだし、あんまり同い年や年上では見ないツインテールをしている。

 体型も凹凸のない寸胴でぺっちゃんこ。

 でも髪は黒に赤のグラデーションをかけているから、やっぱり大人なんだろうか。


「言いたいことがあんならハッキリ言いなさーい? 弱っちいヘナヘナボイスじゃ聞こえないよー? あんた男の子でしょー、頑張んなさーい! ニュヒヒッ」

「あの……自己紹介終わったので。どうしたらいいのかなーっと思って……」

「えっ!? あれだけでいいのー? もっとアピールしときなさいよー。初めての男子なんだよ? わーしも初めて見たー」

「大丈夫です……あはは」


 ちょっと人を小馬鹿にするような物言いの先生だが、悪い人ではないような気もする。

 常にドヤ顔なのはどうしてなんだろう。

 でも笑ったときに見える八重歯はちょっと可愛いと思う。


 それよりギャルたちの注目の視線から早く退散したい。

 まぁどこへ行っても同じだとは思うけど。


「えーっとねぇ、羽黒ちゃんの席はー……」


 ……今決めるの!?


 こういうのは事前に決まっているものと思っていたので意外だ。


 後ろのほうならいいなぁ、なんて思っているとバッと手が挙がる。


「はいはいはーい! ウチの隣来なよ~!! うぉ~い!」


 僕に元気よく大きく手を振っていたのは、まったく見覚えのないギャル。


 クルクルと巻かれた金髪にピンクと青のメッシュが入っており、他の生徒と同じように着崩しているせいで谷間まで露出している。

 そしてやっぱりデッカい。

 カラコンを入れているのか、目が少し青かった。


 間違いなく僕にはそんな友だちはおろか、知り合いはいない。


 困惑した表情をしていると、先生がひょっこりと顔を出してくる。


「あれー? 南島なしまちゃんと知り合いー?」


 その名前を耳にして驚愕し、僕はギャルのほうを勢いよく振り向く。


「も、もしかして南島って……芽那めなちゃん!?」

「そうだよー!! せいちん、おっひさー! きゃははっ!」


 ありえない。

 僕の知っている南島 芽那なしま めなとは似ても似つかない。


 芽那ちゃんは僕が小学生のときにできた……友だち、だったと思う。

 親の都合でやって来て、親の都合で去っていった子。


 あの頃の彼女は髪も黒かったし、僕よりも背が小さかった。

 性格も大人しい感じで、いつも僕の後ろに隠れてくっついてきた。


 何もかも、まるで違う。


 でも、僕を『せいちん』なんて呼ぶのは芽那ちゃんだけなんだ。


 僕は彼女に気付けなかった。

 色々と変わってしまっていたから。


 でも彼女は僕にすぐさま気づいた。

 何も変わっていなかったから?


 なんだか嬉しいような悔しいような、そんな気持ちが湧いてきてしまう。


 僕は芽那ちゃんの声に応えて小さく手を振り返すが、周りからの視線がすごい。

 さしずめ、人里に降りてきた猿を見るような気分なんだろう。


「そんじゃ、羽黒ちゃんの席は南島ちゃんの隣でけってーい! みんな~、拍手しなさーい!」


 まばらな拍手の中、何度も会釈をしながら芽那ちゃんの隣の席に座る。


 近くで見ると、ギャル感がさらに増す。

 ネイルも綺麗にしているし、長かったまつ毛も健在だ。

 目鼻立ちが成長したからか、前よりも遥かにハッキリしている。 


 スカートは短くてむちむちの太ももが出てる上に、机におっきな胸が乗っかっていた。

 あと香水なのかわからないけど、ものすごくいい匂いもする。


 見惚れているのがバレるのが恥ずかしくて、僕から挨拶をした。


「……よ、よろしくね」

「よろしくー! てか、なんかよそよそしくなーい? ウチら結構仲よかったでしょ?」

「そ、そうだけど……まだちょっと慣れなくて」

「そっかそっか! ま、ゆっくり仲良くなってこー! おー!」


 芽那ちゃんが腕を上げると、胸がたゆんっと揺れる。


 まずい、眩しすぎる。


 僕にも友だちがいるにはいるが、このタイプの子はいない。

 底抜けに明るく、コミュニケーション能力が怪物級に高いタイプが。


 どう反応すればいいのかがわからない。


 昔は芽那ちゃんとどうやって話してたんだっけ。


 そう思っていると、先生が手をパンパンと叩く。


「ちゅうもくー! 今日は学園長ちゃんからお話があるんだってー! よーく聞くのよー!」


 すると教室の壁についているスピーカーから、キーンとしたマイクのノイズが聞こえてくる。


「あー、ハローハロー! 諸君、元気かなー?」


 その酷く聞き覚えのある高い声に、僕は顔を青くする。


「……え? この声って――」

「こちら、学園長の京蓮寺きょうれんじキュウだ~!」


 京蓮寺キュウ。


 僕がかつてプロゲーマーだった頃のスポンサーだった人。


 そして彼女こそ、僕をこの学園に張本人だ。


 聞きたいことは山ほどある。

 でもスピーカーから一方的に話されるのでは、僕の声は届かない。


「今日は転入生が来てるよね~? ちっちゃくて可愛い、羽黒青霄ク~ン!」


 京蓮寺さんの言葉を聞いて、クラスのみんなが一斉に僕のほうを見る。

 それは芽那ちゃんも同じ。

 こっちはなんかニコニコしてるけど。


「よっ! 我が校で唯一の男子! ということで、彼にはキミたちの景品になってもらいま~す!」

「……け、景品!?」


 何を言っているのか、てんでわからない。


「青霄クンにタイマンを仕掛けて勝った子には、彼のすべてを自由にする権利を与えちゃうぞ~! イェーイ!!」

「京蓮寺さん!? な、何を言って――」

「彼をゲットしたい子は今すぐにタイマンするんだ! 早いもの勝ちだよ! いっそげー! そんじゃ、チャオ~!」


 そこで放送の声はぷつりと切れた。


「……じょ、冗談じゃないっ!!」


 僕が困惑のあまり立ち上がると、クラスのみんなもこちらを見てヨロヨロと立ち上がる。


 その目は興味、嫌悪、色欲、狂気に満ちていた。


「ちょっと待って!? 待ってよ! た、タイマンって何!? 物騒なことは……やめようよ!?」


 まるで映画に出てくるゾンビのように、彼女らは僕に迫ってくる。


 そうだ、先生!

 先生に助けを求めよう。


「せ、先生!! 見てないで、みんなを止めてくださいよ!! って、ちょっと……先生!?」

「ほほーん、今日は『魔法少女もちもちプリンセス』の6話ねー! ニュヒヒッ」


 ダメだ、まったく聞いていない。

 スマホをポチポチして、聞いたこともないアニメか何かの話をしている。


 そのあいだにもみんなからは距離を詰められ、教室の隅に追いやられる。


 これじゃあ、タイマンじゃなくてリンチ待ったなしだ。


 にっちもさっちもいかなくなったとき、不意に手を握られる。


 身に覚えのある温かい感触に、顔を上げた。


「せいちん! こっち!」

「芽那ちゃん!?」


 僕は彼女に手を引かれ、間一髪のところでクラスのみんなの手から逃れる。


 そして頼もしくなった彼女の背中を見ながら、僕らは教室を飛び出したのだった。


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完結まで毎日更新予定です!

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