【ZAW1期】ZurAnderenWelt〜始まりの物語〜2024年改稿版

第1話 目を開けるとそこは

　目を開けると、そこは知らない世界だった――。

　辺りを見回すと、腰程の高さがある黄色いイソギンチャクのような形をした草のような物が一面に広がっており、所々に青々とした背の高い木が生えている。

　ただ立ち尽くした少女は、茫然自失した顔で辺りを見回した。オレンジ色に辺りを染める斜陽は変わらない。けれど、それ以外の全てが、先ほどまでいた場所と異なっていた。

　夕陽に照らされた黄色の植物が光を受けて金色に輝いている。

　普通の人なら綺麗だと感じるのかもしれないその美しさに理由のない恐怖を覚えた。

　得体のしれない草原にしゃがみ込み、頭を抱えると、ネズミの容姿をした、しかし明らかにそれではない不思議な色の生き物が足元をかけて行った。

「どうしよう……」

　すぐ近くで草が揺れる音がした。大きな犬のような生き物が走ってきていた。近づいてくるにつれ、だんだんとその正体が顕になる以前見たのは動物園の中だった。けれど間違いない。

　あれは……狼だ。

　結衣菜が走り出そうと後ろを向くと、いつのまにか彼女の背後には何十匹もの狼が近づいてきていた。

　なす術もなく、少女はあっという間に狼達の輪に取り囲まれていく。もうダメだ、とおもった瞬間、彼女の表情は驚愕の色に包まれる。

　突然狼達が煙に包まれた。……かと思うと、彼等の姿はなくなり、代わりに人間が立っていたのだ。いや、狼達が人間に変化したというべきか。

　全員が黒と緑をベースにした制服のようなものを纏っている。その目の瞳孔は人間のそれとは違い、縦に長く見えた。驚嘆で固まった結衣菜に、男のうちの一人が口を開いた。

「ここをジェダン国の領地としっての侵入か。ディクライットの連中はつくづく頭が悪い」

「え……あたし、しらない……」

「知らないとはどういうつもりだ！　その瞳を見ればわかる！　自分の種族を忘れたとはいわせないぞ！」

　男は粗暴で、おそらくキレやすい性分なのだろう。怒声を浴びせながら結衣菜の腕をつかみ、何処かへ連れて行こうとする。

「いや！　離して！」

　結衣菜は腕をよじって抵抗したが、少女が敵うような相手ではない。得体の知れない屈強な男たちに取り囲まれている状況だ。

　見知らぬ場所での理不尽な死。それを予感したとき、後方にいた男達のほうから悲鳴のような声が聞こえた。その場にいた者全員が注目した。

　再び悲鳴が聞こえた。それは近づいている、と認識したその時、それは目の前に飛び込んできた。

　金色の毛並みの犬……いや、狼だ。

　驚きで結衣菜の手を掴んでいた男の手が外れる。少年の声があたりに響いた。

「今だ逃げるぞっ！」

　声の主だろう。結衣菜よりも少し大きい手が彼女の腕を掴む。

　男たちの罵声が聞こえたが、二人は止まらなかった。

　見知らぬ世界で、少女は彼の手に導かれるまま、駆け出して行ったのだった。