【ZAW1期】ZurAnderenWelt〜始まりの物語〜2024年改稿版

風詠溜歌(かざよみるぅか)

プロローグ

 燃えるように赤い髪に引き込まれてしまいそうな深い紫色の瞳。

 元気で活発そうな少年の姿がそこにあった。

 もう少し、もう少しで何かを思い出せそうな気がする……。




 耳をつんざくようなアラーム音で、その光景は消え去った。


 少し悪態をついて止めた時計の画面には夜中をあらわす数字。なんでこんな時間に、と思いながら自分の突っ伏していた机の上に目をやると、書きかけの原稿が広がっていた。

 どうやら書きながら寝てしまっていたみたいで、寝落ちすることを予想してアラームをかけておいたのだ。我ながら用意周到なことだと思って結衣菜は苦笑する。


 齋藤結衣菜とサインの書かれた原稿をまとめると使い込まれた万年筆を筆置きに戻す。

 普段の原稿ならここでやめるのは許されないが、今書いていたのは仕事ではなく、かつて体験した不思議な話についてだ。このまま寝てしまおうがかまわない。

 ……本当はこんな夜中に書くようなものではないのだ。


 それは九年前に遡る。それは、彼女がまだ十四歳の頃で――。



***



 まだ少し大きいセーラー服を身に纏い、二つ結びの姿。少女は高台の少し開けたところにあるフェンスに持たれて景色を眺める。

 そこは自身が通う中高一貫校の裏山に位置していて、日も暮れるころだというのに熱心に部活に勤しんでいる生徒たちの姿を見ることができる。

 高台にはよくある木造りの茶色いベンチと錆びついた有料の望遠鏡が置かれており、その全てが斜陽に照らされていた。

 オレンジに染まってゆく風景を見て、少女は綺麗だな、と小さく漏らした。


 風が彼女の髪を揺らすと、何気なく手をやっていたペンダントに気づく。それはいつもお守りのようにつけているもので、学校に行くときも寝る時も外すことはない。


「お父さん……」


 少し歪な竜の形のペンダント。目の部分に緑色の石がはめ込まれたそのペンダントはどこかの観光地のお土産のような、かといってどこかで手に入りそうにない不思議な魅力を醸し出している。

 それは彼女の父がプレゼントしてくれたもので、薬草に関する研究者であった彼は山菜の研究をすると言って仕事に出たきり行方しれずとなってしまった。

 父は一体どこに行ってしまったのだろうか。


 湧き出るように頭を埋めていく嫌な考えを振り払うように結衣菜はフルフルと首をふると、もう一度ペンダントに手をかける。指に引っかかったその瞬間、鎖がちぎれる嫌な音がした。


 宙を舞うペンダント。加速しながら落下して行くそれを掴もうと手を伸ばした時、錆び付いた金属がひしゃげる音と共に結衣菜の身体を支えていたフェンスが折れた。


 だめかもしれない。


 そんな覚悟をしたその時、彼女の視界を緑色の光が埋め尽くした。そして……。



――意識が遠のいた。

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