第2話 アバターリンク

「初め!」


 少女の掛け声と共に、最終決戦の火蓋が切って落とされた。

 先に仕掛けるのはヒノワで、いきなり本気で行く。


「行くぜ、相棒」

『分かっている、ヒノワ』


 早速このゲーム最大の特徴を発揮する。

 SHOOTING STAR-GATE-で執り行われる決闘のルールは単純だ。


 まず基本的に一対一で執り行われる。実際、ヒノワは一対一しか経験していない。

 それから戦うのは基本的に自分が契約している相棒、エネミーと呼ばれる存在で、ヒノワの場合はドラグレス。

 自分自身はプレイヤーとしてエネミーに指示を出し、相手のエネミーと戦い、プレイヤーを攻撃する。もし攻撃が当たれば、痛覚を通じてとんでもない痛みが全身を駆け巡る。本気で戦っているみたいに感じるから、攻撃は喰らいたくない。


「行けっ、ドラグレス!」

「ドラァァァァァ!」


 だからまずは先制攻撃を仕掛ける。

 ヒノワはドラグレスに指示を出し、ハイトを攻撃させた。

 このゲーム、エネミーを倒しても勝利にならない。勝利するには相手プレイヤーを倒すか、どちらかが降参してくれるか、そのどちらかしかありえない。


「ふん。打ち負かせ、ミストグラス」


 ハイトは自分が契約しているエネミーに命令を出す。

 名前はミストグラス。灰色ではあるが、まるでてんのような姿をした二足歩行の頼れる相棒。靄の中から姿を現わし、霧を纏った状態で姿を現わす。


『シュァァァァァ!』

『ドラァァァァァ!』


 ドラグレスは腰に携えていた剣を取り出す。

 肩に掛けミストグラスに叩き付けようとした。

 けれどミストグラスは細い指先で剣身をガッチリ掴むと、衝撃波が巻き起こった。


「うっ、なんだよこのパワ―」

「……」


 ドラグレスとミストグラスの衝突したエネルギーに当てられた。

 離れた場所に立っていた筈のヒノワとハイトは衝撃波を浴びる。

 頭上に表示されていた緑色のHPバーが削れると、負けに近付いてしまう。


 この決闘、相棒であるエネミーにはHPは存在しないが、代わりにプレイヤーの頭上にHPバーが表示され、物理攻撃を受けたり何らかの精神攻撃を受ける度に削れてしまう。

 これが先にゼロになった方が負け。エネミーの攻撃が無ければまともにダメージも与えられない。だからこそ、現時点では変化はほとんど無い。


「大丈夫か、ドラグレス!

『ああ、大丈夫だ。だがなヒノワ、コイツは強いぞ。強者の風格だ』

「だろうな。俺も燃えて来たぜ」


 ドラグレスはピンピンしていた。

 一度ヒノワの元に戻ると、剣を構えたまま会話を挟む。

 正直決勝の相手は強ければ強いほどよかった。おまけにその願いは叶ってくれた。


「どうだ、ミストグラス」

『シャァァァァァァ』

「言葉を交わすまでも無いか」


 一方ハイトとミストグラスには舐められたものだった。

 まともな会話を挟むことも無く、ましてやお互いに冷め切っている。

 ただ戦うべき相手だから戦うのみ。それ以外に目的は存在しない。


「ハイト、お前は強いな」

「当り前だ」

「ありがとな。決勝まで来たんだ。どうせなら派手にやりたい」

「派手か。興味無いな」

「だろうな。お前、そう言うの嫌いだろ。だから俺達が盛り上げてやる!」


 ハイトは冷たい眼差しを送り、ジッとヒノワを観察する。

 そこに感情花一切無いのが伝わるが、ヒノワは臆したりしない。

 ニヤッと笑みを浮かべると、拳を握り締めた。


「行くぜ、相棒!」

『やるんだな』

「当り前だろ。いつも通り、熱く行くぜ!」


 ヒノワはドラグレスと手を合わせる。

 するとヒノワとドラグレスの間をDNAの羅列のような形をした紐が結び付く。

 体が混ざり合うと、目の前からヒノワが消えた。代わりにドラグレスが荒々しく叫ぶと、生き生きとし始めた。


「ドラァァァァァァァァァァァァァァァ、燃えて来たぁ!」


 ドラグレスの声だが、口調はヒノワだ。

 これぞこのゲームの醍醐味、アバターリンク。

 契約しているアバターエネミーと一つになることで、より洗練された動きと無防備から解放された。


「アバターリンクか」

「そうだぜ。けどなハイト、まだまだ止まらないぜ!」


 ヒノワは生き生きとしていた。ドラグレスの体を使い、剣を振り上げる。

 分厚い剣身が震え出し、真っ赤な炎が焔となって纏わり付く。

 今にも破裂してしまいそうな剣だったが、これぞドラグレスの持つ能力。そう、エネミーにはアバターでも通常エネミーでも大抵能力を持っている。それが時に状況を一変させるので、使い所が大事だった。


「喰らえ、ハイト。これが俺達の能力だ。全てを焼き払い、我が道を生み出せ—焔竜剣・衝波!」


 技の名称を発しながら能力を行使した。

 すると体からエネルギーが大量に奪われる。特殊な能力を発動するには、エナジーと呼ばれる時間経過で回復するエネルギーを消費しないといけない。しかも今回は大量と来た。つまり、とてつもないい技が繰り出される。


「くっ、おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 腹の底から声を上げ、自分に負けないように剣を振り下ろす。

剣を振り下ろした瞬間、衝撃波を伴って焔がハイトに迫る。

 これぞ焔竜剣・衝波。刃状に放たれた衝撃波がハイトのことを狙ったものの、ハイトは何故だか余裕そうで一切動じない。


「おいおいまさか避けないのか?」

「……」

「無視すんなよ。これで終わりなんて許さないぞ!」

「ふん、な訳ない」


 ハイトの体は焔に包まれる。

 しかし全身が不可解な霧に包まれると、何故かほくそ笑んでいた。

 姿形が焔に包まれた一瞬、霧の中から長い指が現れてハイトのことを包み込む。それ以外に映るものは無く、ハイトの姿はヒノワの目からは見えなくなった。

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