【短編】SHOOTING STAR-GATE-0〜熱き焔竜と無欲な願い〜

水定ゆう

第1話 願いを叶えるゲーム

 赤上あかがみヒノワは暗闇の中に立っていた。

 その手にはスマホがあり、バカみたいに強く握られている。


「行くぞ、相棒」

『分かっている、ヒノワ』


 スマホのスピーカー越しに聞こえて来たのは男性のような声。

 しかし画面に映し出されていたのは、真っ赤な色をした武装する竜だった。


 竜の正体は“焔竜ドラグレス”。ヒノワと共に、ここまで戦い抜いて来た相棒だ。

 今はスマホの中でジッとしているが、それも今だけ。

 今日この瞬間、暗闇が開ければ戦いが始まる。もちろん、最後の戦いだ。


「緊張するな、相棒」

『ふん、腕がなる。緊張など当にない』

「全く頼もしい相棒だな。ここまで来たんだ、絶対に勝つぞ」

『無論だ。だがヒノワ、お前はまだ……』


 ドラグレスがヒノワに訊ねる。

 ここまで戦い抜いて勝利して来た意味。

 それこそドラグレスには強者と戦い、血湧き肉躍る結末のすえ、勝利をこの手に掴む。自らのAIの意義存在価値の確立のため、より高みへと至るために必要だからするまでのことだ。


「そんなことはどうでもいいだろ」

『お前らしいな』

「ああ。正直俺だってまだ決まってない。けど、そんなのはどうだっていいんだ。最後の瞬間まで、俺達は一心同体いっしょだ。それで充分だろ?」

『ふん、流石はヒノワだな。何処までも呆れるほどのバカだ』

「言うなって、バカバカって。俺は別に偏差値低くないんだぞ?」

『ふん』


 スマホの中のドラグレスに鼻で笑われてしまった。

 カッとつい苛立ってしまいそうになるヒノワだが、そんなじゃれ合いも止める。

 歪みだらけの真っ暗闇の世界に光が生まれ、目の前の景色がハッキリとして来た。


「ここが今日の舞台フィールドか」


 如何やら最後の舞台は天空の戦闘場。

 初めてくる場所だが、気負いはしない。

 勝つために来たのだから、負けることなんて考えない。


「さて、最後の相手は誰だろうな?」

『誰でもいいが、強者を求める』


 ドラグレスの声がすぐ耳元から聞こえる。

 振り返ると、そこには実体化したドラグレスが居た。

 とはいえ、その実体はあくまでも仮。ここは現実と非現実の間にある、不思議な世界だ。


 巨大な赤い竜。全身に鎧を纏い、腰には剣を装備している。

 雄大で偉大なその姿。何度見てもカッコいい。


「だよな。どうせやるなら熱い奴とだよな……おん?」


 ヒノワとドラグレスの前に現れたのは自分よりも少し若い男性。青年と言っても差し支えない。

 髪色はブリーチを全体に掛けているのか、異様な程に白い。虚な目を向けると、白い肌をして今にも倒れてしまいそうだ。


「おい大丈夫か、お前?」

「問題無い。始めようか」

「始めようかって。顔に血の気がないぞ? 本当にやれるのか?」

「問題無いと言った筈だ。俺には戦うことでしか得られない快感がある。生への実感のため、お前には消えて貰うぞ」


 そう答える青年の後ろには灰色の靄が浮かんでいる。

 何やら生き物の形をしてはいるが、その実体は分からない。

 けれど明らかにヤバそうな、強者の風格を露わにすると、ヒノワも燃えて来た。


「いいぜ、その根性。俺は赤上ヒノワだ。お前は?」

ふせハイト」

「ハイトか。紹介するぜ、こっちは相棒のドラグレス。そっちの靄がお前のか?」

「ああ。前置きはいい、やるぞ。いつまで黙っているつもりで、MC」


 ハイトはか細く弱々しい声で発する。

 すると何処からともなく声が聞こえた。

 シットリとした少女の声だ。


「前談はこのくらいで充分でしょうか?」


 そこに現れたのはこの決闘の見届け人。

 何だか機械のような言葉遣いをする、何処か古いAIのような少女だ。


「ああ、いいぜ!」

「問題無い。早く始めろ」

「わかりました。では決闘開始の宣言を行います。両者前へ」


 少女は右手を前に出した。

 ヒノワとハイトも近付き、互いに目と鼻の先に退治する。

 これは決闘を始める前の宣言。お互いに宣誓を行った。


「「我ら願いの星の袂に生まれし愛子なり。我ら願いを叶えたると誓い星の祝福をその身に宿す。運命を決めるこの地より願うは己が勝者で在らんこと。さすれば我らが祈り届き永遠の願いを叶え賜わん!」」


 お互いに意味不明な文言を交わす。

 これに何の意味があるのかは分からないが、少なくとも宣言は受け取って貰えたらしい。


「両者の願いしかと承った。願い星決闘を執り行う……」


 いよいよ最後の決戦が始まる。

 その前に説明しておくこともある。

 ここは現実と非現実の狭間。何処にあるのかは分からないが、少なくとも電脳世界なのは確かだ。


 今ヒノワとハイトの二人は実体はあるが架空の存在になっている。

 そして隣に立つ相棒、ドラグレス達はホログラムが実態になった存在。

 つまりは偽者。この世界は、世界から隔絶されている。


 如何してヒノワ達が戦うのか。それは“願いを叶えるため”だ。

 数多くの猛者を討ち払い、相棒と切磋琢磨する。

 その最後の舞台がここ。この戦いに勝てばどんな願いでも叶えることができる。


 それこそが“願いを叶えるゲーム”。

 謎に満ちた特殊SNSアプリ:SHOOTING STAR-GATE-の全てだった。

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2024年12月3日 18:05
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【短編】SHOOTING STAR-GATE-0〜熱き焔竜と無欲な願い〜 水定ゆう @mizusadayou

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