フライパン
いもタルト
第1話
フライパンって、ほんっとすごい。
そんな言い方じゃあ、彼のすごさを表現しきれないほど、すごい。
今、私は彼って言ったけど、本当は彼女かもしれない。
でも私の性的指向はゴリゴリのストレートだし、愛する存在のことを女性だとは思えない。
私には8歳になる息子と6歳の娘がいるけど、下の娘が足元にまとわりついてくると、正直鬱陶しさを感じてしまう。
いや、鬱陶しさという表現は違うと思う。それはなるたけ世間一般のお母さんの価値観に寄せた表現だ。
私が感じているものを私の乏しいボキャブラリーの中で出来るだけ正確に表現するならば、多分それはおぞましさというほうが適当だと思う。
今は幼児だからまだいいけど、これから彼女が女らしくなっていったら、私はどうなるのだろう?
こういうと、自分の娘なのになんて母親だと、世間一般の正義を振りかざして批判する人たちがいるかもしれない。きっといる。そういう社会だから。
でも私はゴリゴリのストレート、スーパーストレート、稲尾和久ぐらいのまっすぐなストレートの持ち主だから、たとえ自分の娘であっても、自分以外の他の女の人の体が肌に接触するのは気持ち悪いのだ。
世間ではLGBTだなんだって、彼等の権利を認めろだ差別するななんて騒いでいるけど、スーパーストレートの気持ちなんて誰もわかってくれないのだ。
ストレートはマジョリティだけど、マジョリティも極ればマイノリティになる。
スーパーマイノリティだ。
マイノリティはマイノリティのときは揶揄われ差別され、ある程度マジョリティになると権力闘争の舞台に上がってくる。
でもスーパーマイノリティは誰もわかってくれない。
私は共学の公立小学校を出て公立中学校を出た。
そんで公立高校を出て、大学は私立だったけど、みんな共学で、普通のマジョリティ的な可も無く不可もない学生生活を送ってきたと思うけど、私と似たような性的指向の持ち主は一人もいなかったと思う。
私は普通に目立たないほうの女子グループにいたし、その中でそこそこ普通を演じてこれたと思う。
肌と肌が触れ合うのが嫌だから、夏でも長袖を着ていたけど、あの地味なグループの子たちはそんなに女子同士でベタベタしないから、なんとか私でも生き抜いてこれた。
結婚したら、もう一年に2回くらいしか顔を合わせないから嬉しい。
特に最近はリモートが主流。テクノロジーの進化に乾杯!
こんなに進歩的な世界に住んでいるのだから、早く世間的正義を嘘発見器にかけよう。
これだけ性的指向がまっすぐに男性に向いているとなると、さぞかし淫乱な女なのだとお思いの方もおられよう。
きっと美人でなくてもいいから、もう少し男好きのする顔をしていたら、それなりに華やかな10代を過ごせたかもしれない。
でも私は思春期を通じて、それはそれはもう貞淑に、貞淑に過ごした。
スーパー貞淑だ。ゴリゴリの貞淑だ。
ウルトラのウルトラも、それはもうウルトラの母のように貞淑だった。浮ついた話など一切なかった。
そしてそれは大学を卒業して、都内の一般企業に就職した後も続いていた。
完全に地に足が生えすぎて根が張っていた。
根が張りすぎて、地球の裏側にまで届いていた。
ブラジルの人たちが畑を耕すのに苦労したぐらいだ。
私はファゼンダで働くコロノの人たちを相当悩ませたと思う。
でも、彼らが一生懸命私の足の裏を引っ掻いて、ラテンの魂を注入してくれたおかげで、30手前で結婚することができた。
その辺の馴れ初めについては、語るに足らない。語ってはいけないことだと思っている。
いわゆる恋バナというのだろうか。
よくみんなそんなことで盛り上がっているようだが、あんなのは気色の悪いだけだ。
不細工な女と不細工な男がいんぐりもんぐりしている話を聞かされたって、落語の落ちにしかならない。
ああいう話は、郷ひろみと松田聖子ぐらいの、おとぎ話の王子様お姫様でないと人に公開してはいけないと思う。
だから世間一般の非郷ひろみ及び非松田聖子諸君は、緊急事態宣言の有無にかかわらず、重々自粛してほしい。
さもなければ You drive me nuts!
善良なだけが取り柄の一般市民を狂わせてしまうから。
そうして奇跡的に巡ってきたチャンスをものにして手に入れた旦那は、ゴリゴリに超兄貴みたいな男である。
進化の過程で男性フェロモンだけを発達させたような超兄貴である。
あるいは進化に取り残されて、個人に残ってしまった男性フェロモンなのかもしれない。
男女関係は陰と陽だという。
これだけ男性フェロモンを充当された男性には、対称的に女性フェロモンを高度成長期の工場煤煙のように撒き散らしている女性がくっつくものだとお思いのあなた、そこの君。残念でした。
私はただの地味なおばさんです。人混みがあれば簡単に紛れてしまう、特徴のない顔のおばさんです。
まさに事実は想像より奇なり。
天と地との間にはお前の数学では計算できないことで満ちているのだ、という格言と一緒に、ハムレット&チーズサンドでも食べてなさい。
さて前置きが長くなっちゃったけど、私が言いたいのは彼を彼と呼ぶこと。
私が手にとって気持ちよくなるっていうことはフライパンは彼だってことなのだ。
いや、気持ちよくなるっていうのでは、私が彼から受けている恩恵を全て言い表わしたことにはならない。
でもボキャブラリーの問題があるから、きっとそんな表現では彼は不満だろうけど、精一杯の誠意と愛情を込めて灰色の脳細胞を動かしてみるので、足らないところがあっても勘弁してください。
とにかくフライパンはすごいのだ。私の一日はいつもフライパンから始まるのだ。
旦那のお弁当に入れるスクランブルエッグを炒めて、タコさんウインナーを炒めて、子供たちの朝食の目玉焼きを焼いて。
それから今度はバターを引いて、ベーコンを細かく刻んだやつとほうれん草をざっくり刻んだやつを炒める。
フライパンがなかったら、この主婦の仕事というやつを果たしてうまくできていただろうか、そもそも取り掛かることが出来ていただろうか、それすら自信がない。
主婦の私を主婦たらしめているものは、このフッ素加工が施された、26センチのフライパンのおかげである。
フライパンが活躍するのはそれだけではない。
私の昼食のチャーハンを作るときにも、フライパンが必須だ。
もちろん中華鍋なんてものが自宅にあれば話は別なのだが、うちにはそんな本格派気取りの主婦はいないから、台所に中華鍋を装備させていないのだ。
仮にあったとしても、チャーハンぐらいしか作らないのに中華鍋に働かせるというのは、適材適所の法則に反しているようで忍びない。
たまにはエビチリとか青椒肉絲とかやることもあるけど、たかがクックドゥごときで中華鍋を振るうのは、人として間違っているような気がする。
それに、あんなに重いもので冷や飯を炒めていたら、すぐに晩年の稲尾和久のように肩肘を痛めてしまうだろう。
私の手に馴染むものは、やっぱりフライパンしかないのだ。
この歴史上いつ発明されたかも定かではない、おそらく人類が二足歩行を始めたときから人類と共にあるであろう万能調理器具は、21世紀の日本で似非中華とマリアージュしても、抜群の効能を見せるのである。
もはや地面を掴まなくなったホモ・サピエンスの手のひらが代わりに掴んだものは、フライパンの柄であったのだ。
そんな壮大な背景を知らずとも、子供たちが学校から帰ってきてからもフライパンは大活躍する。
フレンチトーストかポップコーンさえ作っておけば、ウチの怪獣たちは大人しくなる。
たまに愚図るときがあるけど、そんなときにはホットケーキの出番だ。
ふっくら焼き上げたホットケーキに蜂蜜をかけて、ヒーローが悪者をやっつける動画を見れば、今のうちは一応大人しくしている。
でも私にとって本当のヒーローはフライパンだ。
どうして誰もイケメン俳優がフライパンに変身して敵をやっつける番組を作らないのだろう。
フライパンレッドはステーキ肉をじゅうじゅう言わせ、フライパンブルーは鯖の皮をチリチリさせる。
フライパングリーンの手にかかれば芯のあるキャベツ魔人だってしんなりしてしまうし、フライパンイエローはみんな大好き食いしん坊の卵好きだ。
フライパンピンクは、できればこれも男の人であってほしいけど、恥ずかしがりのサーモンをいい色に染める。
万能戦隊フライパンジャーだ。
ジャーだと炊飯器っぽいから、フライパンマンにしようか。
それだとまた別の話っぽい。どっちでもいいや。
私はフライパンを手にしているとき、全能感を感じる。もはや向かうところ敵なし、なんでもこいという気になる。
中華でもフレンチでもなんでもこいだ。
カレーだって、具材を煮るところまでは鍋でやるけど、私はルーは食べる直前に入れたい派だから、具はタッパーに入れて冷凍しておいて、食べる分だけフライパンで温めてルーを入れて作る。
鍋には肉と野菜の匂いしかついていないが、フライパンにはもう、カレーとかソースとか醤油とかオイスターソースとか、この世のありとあらゆる具材と調味料の匂いが染み込んでいる。
まさに浮世の酸いも甘いも噛み分けた、経験豊富な大人の男性なのだ。
これがミルクパンだったらそうはいかない。あの坊やは乳臭いだけだから。
こんな頼もしいパートナーがいれば、なんだってできるような気がしてくる。
フライパンを装備した私は最強だ。もし泥棒が入ってきても、フライパンでやっつけてやる。
男の子は剣とか鉄砲とかに憧れるけど、女の子の最強装備はフライパンなんだ。
鉄のフライパン・2500ゴールド。消費税が10%かかります。ディスカウントショップならもうちょっと安い。
でも弱点はゴキブリです。叩けば潰せるけど、自分で戦わずに旦那を呼ぶのコマンドを実行します。
子どもたちが寝静まったあと、私は一日に溜まった垢を落とすようにフライパンを磨く。
表面はフッ素加工を傷つけないようにスポンジで優しく、裏側は金だわしでゴシゴシやると綺麗になる。
でもあんまり綺麗にはしすぎない。フライパンの裏にぼんやりと映った自分の顔が好きだから。
特徴のない顔でよかった。
ぼんやり映った特徴のない顔は、まるで水面に浮かべたお月様のように綺麗だ。
こんな風に自分を好きになるなんて、フライパンと出会わなかったら考えられないこと。
愛しているフライパン。感謝しているフライパン。
私はこの気持ちを形にしたくて、何かしようと思った。
どうしよう?ピンクのリボンでもかけようか。それともカーネーションに手紙を添えて贈ろうか?
それじゃ母の日だし、ボキャブラリーの貧弱な私じゃ、感動するような手紙をうまく書けるかどうか自信がない。
だから考えたあげく、ナイフで側面に文字を刻むことにした。
何年日本人を続けても、国語の成績が優にならない私が刻んだ言葉は、たった一言「ありがとう」。
カリグラフィーの観点から見ても丙か丁にしかならないその不細工な文字は、まるで甲骨文字のよう。
いつか私が死んだら、棺桶にフライパンも一緒に入れてもらおう。
私の体が燃えたって彼は残るだろうけど、刻み込まれた真心は消えないだろう。
ところが、そんな黄金時代は突如として終わりを迎えたのである。
ある日、家に空き巣が入ったのだ。帰ったら玄関の鍵が壊されていた。
高校時代の友人と久しぶりに会う約束をして、渋谷でランチをした帰りだった。
私みたいな地味なおばさんは、普段渋谷になんていかない。
久しぶりに見る都会は、こんな地味顔のおばさんの目も移ろわせるほど、刺激に満ちていた。
やっぱり私は東京都民なのだと、大都会を歩く自分に酔っていた。
でも同時に渋谷を歩く年齢は卒業したのだという事実を、強く私に認識させるものでもあった。
バチが当たったんだ、と瞬間的に思った。
こんな地味おばさんが渋谷なんかに行ったから、バチが当たったんだと思った。
恐る恐る家の中に入る。まだ泥棒がいたらどうしよう。
子どもたちが学校に行っている時間でよかった。なんて月並みなことを考える。
でもそれは本心だろうか?
灰色の脳細胞の中でオレキシンが大運動会をしているものだから、恐怖で思考がうまくまとまらない。
一瞬チラッと頭に浮かんだ母にあるまじき思考のマイノリティは、国家道徳的なマジョリティによって音もなく押しつぶされた。それはもうサイレントに。
このとき私の脳細胞を支配していた思考は、ただただこの手にフライパンを握っていたいということだった。
もしかして泥棒が潜んでいるかもしれない状況で、フライパンがない。
そんな恐怖が自分の身に起きようとは、想像だにしていなかった。
いっそのこと、空から地球上にある核ミサイルの全てが降ってきて、全存在ごと消し去ってしまえばいいのに、とすら思った。
私にとってフライパンとは、それだけの生命を与えてくれる存在だったのだ。
玄関には土足の跡が残っていた。
その跡が双方向を向いていることで、少し肩の緊張がほぐれた。
中は荒らされていた。タンスの引き出しは全て床に投げ出され、クローゼットの服は落ちていた。
震える手で様子を探る。
まず確認したのは通帳だ。よかった、無事だった。雑多なものの陰に隠れて見つけられなかったらしい。別の場所に保管していた印鑑も無事だった。
そのことが確認できたら、私のコチコチに固まった脳細胞にも血液が回るようになった。
先に警察に連絡するべきだったかもしれない。でも犯人と鉢合わせするような危険はないだろう。もう少し自分の目で被害を確認してからでもいい。
しばらく確認してわかったことは、奇妙な事実だった。
家の中は、まさしく空き巣の後といったように見事に荒らされていたが、盗られたものが見当たらなかった。
そりゃ盗られていたら見当たらないのももっともだが、そんな言葉の綾で遊んでいる場合ではない。犯人は何が目的で侵入したのだろう?
金目のものが見つからなかったわけではあるまい。現に家計用の財布は引き出しから乱暴に投げ出されて床に転がっていた。
開けてみると、いつも残額を覚えているわけではないけれど、減っているような様子はなかった。一万円札も、ちゃんと残っていた。
そのほか、ほんの僅かある宝石類、結婚指輪、保険証券などなど、価値のありそうなものはちゃんと残っていた。
子どもの貯金箱も、勉強机の上にそのままだった。
どうやら犯人は金目のものには手をつけていかなかったらしい。
はて?となると何が目的だったのだろう?
子どもたちは学校だ。旦那は会社に行っている。うちに骨董品の類はない。
荒らしだけが目的の愉快犯なのか、それともなんらかの理由があって急いで逃げ出したのか。
でも、何も盗られたものがないとわかってからも、私の不安は消えなかった。
なんか薄ら寒い感じがする。
空き巣に入られたショックという心理的な要因からだけではないような、なんだか本当にそこにあった太陽がなくなってしまったような、そんな落ち着かない気持ちが私を支配していた。
あっ…。まさか…!
ありえない。ありえない。誰かそうでないと言ってくれ!ああ、神様、仏様、稲尾様!
バタバタと大きな足音を立てて台所に駆け込んだ私の悪い予感は悲しくも的中した。
なんて目利きの空き巣なんだろう!
この家で最も価値のあるものだけ持っていってしまったのだ。
ああ、なんてこと!
私は散らかった床に崩れ落ちた。
ポキリという、人生を支えていたなにかが折れる音が聞こえたような気がした。
どうしてこんなことが起こるのかしら!渋谷に行ったから?いえいえ、高校時代の友達になんて会っていたから!もう友達なんていらない。
ペタペタという軽い音が聞こえて、ミルクくさい手がそっと私の肩に置かれた。
「ママ、泣いてるの?」
娘が帰ってきたのだ。幼い彼女は、家の中の状況をいまいち理解できないのだろう。
帰ってきたらいつもより掃除が必要で、母親が台所にうずくまって泣いていたというわけだ。
私は背筋にゾクっとしたものを感じて、ブルリと震えた。
ああ、どうしよう、どうしよう。
フライパンなしで、この怪獣をこれから育てていかなくてはならないなんて!
その後、警察の人を呼んだ。
ベテランの男の警官は、不幸中の幸いでしたね、というなんの慰めにもならない言葉を口にして、とにかく人身に被害がなくてよかったと続けた。
この人は何を言っているのだろう?何十年も生きてきて、そんな陳腐なボキャブラリーしか持ち合わせていないのだろうか。
それとも、世間一般の主婦というのは、そんな言葉で慰めを受けるものなのだろうか?
私はフライパンを盗られたことを説明した。
警官は最初首をひねっていた。フライパンだけ盗んでいく泥棒なんてねえ…。どこかになくしちゃってるんじゃないですかね。ひょっと出てきたとしても、フライパンなんてどこにでもありますからねぇ。
私は必死で、それがどれだけ大切なフライパンだったのかを訴えた。
おまわりさん、必ず取り戻してください。側面に「ありがとう」という文字が入っています。私のだってすぐにわかります。あれがないと、あれがないと…。生きていけないんです、と言おうとして、咄嗟に不便なんです、と変えた。頭のおかしな女の狂言だと思われかねなかったからだ。
警官は一応、被害届けは出しておきますけど…、と歯切れの悪そうな顔で言った。
それ以来、私は不安な日々を送っている。
警察からは結局、いつまでたってもフライパンが見つかったという連絡はなかった。
うちにはあのあとすぐ主人が買ってくれた中華鍋がある。
主人は新しいフライパンを買ってやろうかなんて言ってくれたけど、私はそんな気にはなれなかった。
自傷行為というのだろうか。重い中華鍋を振って、肩肘を痛めてやりたい気分だった。
私は相変わらず卵を炒め、タコさんウインナーを炒める。
目玉焼きは反り返るようになり、かえって子どもたちには評判がよかった。
主人は青椒肉絲が美味しくなったとか言うけど、クックドゥの味が変わったわけではない。
ちっとも美味しくなっていやしないのだ。
でも真実を見るよりも自分の脳内の幻想を見ていたい人にとっては、青椒肉絲は中華鍋で作るべきものなのだろう。
子どもたちのおやつは出来合いのお菓子に変わった。
もうママの特製フレンチトーストも、愛情はじけるポップコーンも、プーさんもびっくりホットケーキも存在しない。
それらはフライパンとともに歴史の彼方に消え去ったのだ。
娘はだんだんと女らしくなっていく。これからどうこの子と向き合っていけばいいのか自信がない。
娘には、愛情をうまくかけてやれないだろう。でもそれがどうしたというのだ。
悠久の歴史に比べれば、人の人生などたかだか百年にも満たないではないか。
私はすぐに消える。娘だって同じだ。すぐに歴史の塵となる。それでもフライパンは残るだろう。
ああ、彼は今どこで何をしているのか。目利きの盗賊の家で、7人の子どもにカラスの肉でも炒めてやっているのだろうか?
もはや私が知る由もない。宝物を手に入れた盗賊は有頂天だろう。せいぜい今のうちに楽しむと良い。
どうせフライパンに比べれば瞬きするほどの命。やがてそいつも滅びるだろう。人類なんてみんな滅びるのだ。
でもフライパンは残る。何千年も経って、時の考古学者によって21世紀の地層から掘り出されるのだ。
そのとき彼は、ロクなもののない21世紀文明にも、感謝の意を表わす言葉だけはあったことを知るのである。
フライパン いもタルト @warabizenzai
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