ヒトカドくんは八方ふさがり!
阿弥陀乃トンマージ
プロローグ
「はあ……」
横浜にある聖英学院に入学し、二年目の春を迎えた茶髪で短髪の少年、
「……」
一廉の前の席に座る赤縁の眼鏡をかけた黒いロングヘアの女子がプリントを回してくる。
「あ、ありがとう、不二さん……うわっ、新年度早々、実力テストか……」 一廉がプリントの内容を確認し、頭を抱える。
「……負けませんから」
「え?」
一廉が首を捻ると、不二と呼ばれた女子は既にその綺麗な黒髪をひるがえして、前を向いている。
「一廉! 新年度のオレを見くびってもらっちゃあ困るぜ!」
一廉の右斜め前に座っているジャージ姿の青みがかった髪色でショートカットの女子が声をかけてくる。何故かジャージの袖をまくり、右腕の力こぶを見せつけてくる。
「う、うん、三冠さん。別に見くびってはいないけど……」
一廉は首を左右に振りながら、笑顔で応える。
「とどくん、新入生見た? 友達百人できるかな~♪」
一廉の右隣に座る薄い緑色のショートボブの髪型の女子が楽しそうに尋ねてくる。
「四恩さん。下級生とそんなに関わることってあるかな?」
一廉は至極もっともな疑問を返す。
「一廉ちゃん、おはよう~」
一廉の右斜め後ろの席に座った金髪のセミロングでスタイルの良い女子がにこやかに挨拶をしてくる。
「あ、おはよう、大五さん」
一廉も笑顔を返す。
「今日もお弁当作ってきたから味比べしな~い?」
「え、今日は午前中だけじゃなかったっけ……」
一廉が軽く戸惑う。
「HITOKADO、プリント……」
一廉の真後ろの席に座るピンク色でポニーテールの髪型をした女子が気だるそうに話しかけてくる。
「ああ、ごめん、六花さん。はい」
一廉はプリントを回す。六花と呼ばれた女子がプリントに目を通し、悪そうな笑みを浮かべる。
「ふっ、文化祭が楽しみだね……」
「文化祭って、き、気が早くない?」
一廉が困惑する。
「一廉殿、グッドモーニングでござる!」
一廉の左斜め後ろに座る赤髪のツインテールの女子がテンション高く挨拶をしてくる。
「七宝さん、おはようでござる」
一廉は恭しく挨拶を返す。
「一廉君、おはよう、良い朝だね」
一廉の左隣に水色の長髪が特徴的な男子用の制服を着た中性的な雰囲気の女子が座る。
「八神さん、おはよう、すっかり春だね」
一廉も笑顔で返事をする。
「一廉純! 今年度が楽しみだな! 色々と……」
一廉の左斜め前に座る紫がかった髪色とお団子ヘアとチャイナドレスが目立つ女子が声をかけてくる。
「そ、そうだね、九龍さん……」
一廉はプリントの内容を確認しようと視線を落とす。
「…」
「……」
「………」
「…………」
「……………」
「………………」
「…………………」
「………………………」
(まただ、八方から強い視線を感じる! 今年度もこれか……)
「はあ……」
一廉は小さくため息をつく。
何でもそつなくこなしてしまうエリートの一廉純は学院内でも一目も二目も置かれている存在である。
学力試験は常にトップ。運動神経もよく、各部活からは助っ人として引っ張りだこ。芸術分野などでも多彩でマルチな才能を発揮する。加えてルックスやスタイルも抜群。かといって、それを鼻にかけない性格の良さも周囲に好印象を与え、大いに人気を集めている。人当たりも良いため、男女問わず生徒たちからの人望も厚く、教職員からの信頼も高い。さらに、保護者や学院の近所の人々、他校の生徒などからの評判も上々。まさしく〝ヒトカド〟の人物である。
共学化によって、聖英学院に現れたこの少年の存在は大きなインパクトを与えると同時に、一部の女子たちのプライドを強く刺激した。
一廉の前の席に座っている黒髪ロングヘアで赤縁眼鏡をかけている女子が
一廉の右斜め前の席に座っている青みがかったショートカットの女の子が
一廉の右隣の席に座っている薄緑色のショートボブの髪型をした女の子が
一廉の右斜め後ろに座っている金髪のセミロングでスタイル抜群の女子が
一廉の真後ろの席に座っているピンク色のポニーテールが目立つ女の子が
一廉の左斜め後ろの席に座っている赤髪ツインテールが目印である女子が
一廉の左隣の席に座っている水色の長髪をたなびかせ、男子用の制服をきている美少女が
一廉の左斜め前の席に座っている紫がかった長髪にお団子ヘアがトレードマークの女子が
……以上の女子生徒らがプライドを強く刺激された人物たちである。何故なら中等部までは、各々がそれぞれの分野でナンバー1だったからである。その状況が一廉の登場によって一変、彼女たちはナンバー2に甘んじることになったからだ。そのような状況は彼女たちのアイデンティティーを大きく揺さぶることであった。
一廉と彼女たちは1年生時から同じクラスであり、教室の席順も中央に座る一廉のちょうど八方を囲むように座っている(何故か)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます