37 創作
「それで、カナコはどうやって、問題を解決するの」
「え…と、それは…。実は、まだ考え中なんだよね」
訊ねると、肩がガックリ落ちた。
てへへと、舌を出す。
「そこでアイリに、相談なんだけど。何かいいアイデア、ないかしら」
猫さながらの、どんぐり眼が向けられる。
反射的に、横へ逸らす。別に、深い意味はないけども…。
「アイデア…って、言われても」
「アイリは、HPCなんだし」
「それ、関係あるの」
自慢ではないが、想像力にはまったく自信がない。抽象画よりも写実的な絵、国語よりも数学の方が好き。HPCだからこそ、現実的な思考回路しか持ち合わせていない。
と、勝手に思っている。
ここは物語の、要になるところ。説得力ある解決策に加え、ハッピーエンドの締めくくりが求められる。
「つまり脳の成熟度が、二十歳以上と同等に達していれば、いいっていうことよね。翔太は天才なわけだし、脳の成熟速度も、一般よりは速いっていう設定にするのはどうかしら」
お、我ながら、意外といい案なのでは?
中学生が部活動で描くフィクションの漫画だし、科学的根拠まで気にする必要はないだろう。
「なるほど。いいね。でも、翔太の脳の成熟度は、どうやって測定するの」
「…、成熟度を測定…か」
ごもっとも。裏付けは必要である。設定だけでご都合主義に話を進めたら、おもしろくもなくなってしまう。
脳の成熟度の、測定方法か。結構難題だ。
「…あ、そうだ。だったら、こういうのはどうかな」
妃都絵の瞳が、キラリと輝いた。何か、妙案が浮かんだようだ。
「脳の成熟度を上げるための薬っていうのが、あってね。1カプセルで、一歳みたいな。薬は自衛隊本部で保管されてあって、カナコは翔太のために、取りに向かうの。翔太のイントルーダーは、すでに二十時間近く張り付いているっていうことにして、時間との勝負になる、みたいな」
「薬…。へえ、いいんじゃない」
自衛隊が二十歳未満のターゲットを想定し、脳の成熟度を上げる薬を事前に開発しておくというのは、辻褄も会う。
やっぱり、想像力の高い人はスゴイな。何か一つヒントを与えられるだけで、アイデアがどんどん浮かんで来るみたいだ。羨ましい。
妃都絵と話をしていると、他人のアドバイスの大切さがよくわかる。
「よし。それじゃあ薬の件は、作中の早い段階で、一度触れるとして…。きゃー、やだ、またネームを描き直さなくっちゃ」
甲高い声を上げ、頭を抱えながら、机に顔を突っ伏す。
だけど顔を上げた時の瞳は、やっぱりキラキラ輝いている。難題に直面しても、心から楽しんでいる様子。
きっと創作活動は、紆余曲折も、醍醐味の一つなのだろう。
「ありがとう、アイリ。やっぱりアイリは、頼りになるわ。アイリが、HPCでよかった」
「だからそれ、関係あるの」
「だって、HPCは頭がいいじゃん」
よくわからない理屈。
以前にも、似たようなことを言っていたっけ。頭のいい遺伝子が、どうとか。
こちらから言わせてもらえば、授業に比較的スムーズについて行けるのはたんに、毎晩宿題のほか、予習・復習をしっかりやっているからなんだけどな。
しいて他との違いを上げるとすれば、HPの両親が家庭教師代わりで、理解できるまで丁寧に教えてくれる点くらい。だけど一般の子たちだって、塾へ行っているわけだし、大きな差はないと思う。
要は、ちゃんと事前準備をしているか、いないかだ。
アドバイスついでに、偏見という言葉も教えてあげたい。
「ねえ。それはそうと、さっきからなんか、廊下の方が騒がしくない。誰か、来ているのかな」
妃都絵が不思議そうに、廊下側へ目を向ける。
それにつられるように、目が教室の窓際の席から、廊下側へ向く。
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