遺産迷宮攻略課~極楽浄土と伝説の霊鳥~
桜月零歌
第1話 凸凹コンビはどこであろうとも喧嘩する
曇天の空の中、俺は数十メートル先に見える朱色の建物へ走っていた。砂利の音が辺りに響くと同時に隣から荒い呼吸音も一緒に聞こえてきた。隣をふと見ると赤毛のポニーテールが揺れている。パンツスーツ姿の彼女――
「なんで今日に限って電車遅延すんねん!」
「知るかそんなもん。というか、お前が道に迷わなかったら、遅延に引っかかることもなかったんだろーが」
「あー、もう! うっさいな!」
大変走りにくい砂利道を爆走しながら言い合っていると、朱色の建物――平等院の本堂に到着した。平等院は世界遺産に登録されている建物の1つで、日本でも有数の観光地。目の前にそびえ立つ平等院は教科書などに乗っている豪華絢爛といった感じではなく、どんよりとした邪の空気を醸し出している。
俺と織部はお互い、鍵穴の着いた本堂の扉に軽く触れた。すると、見るからに重そうな朱色の扉がゴゴゴッ! と音を立てながらひとりでに動いた。俺は腰に差している刀の柄を持ち、中から引き抜く。織部も腰につけているホルスターから2丁の拳銃を抜いて、引き金に指を添えた。
扉が開くと同時に次々と松明が灯され、お堂ではなく、よく古代遺跡などでありそうな土レンガの通路が現れる。そう、まるでダンジョンの中のような空間が広がっていた。いや、まるでと言ったがこの中は正真正銘のダンジョンなのである。
「ほなさっさとあの人らと合流しよか」
「くれぐれも道に迷うなよ」
「分かっとるわそんなこと」
「ハハッ……どうだか」
俺と織部は躊躇することなく、慣れたようにダンジョンの中に突っ込んでいく。何故こんなことになったのか。それは2時間前まで遡る。
◆◇◆◇
京都中の世界遺産がダンジョンと化してから早2年。ダンジョン攻略専門の部署――遺産迷宮攻略課が観光・文化省に誕生して1年半が立とうとしていた。ほんの3年前まで、平凡な日々を送っていたというのに、何故こうなったのか未だに分からない。
世界遺産がダンジョンになってしまったのか原因不明のまま、攻略に必要なアイテムや武器が量産され、今では日本国民の半分がダンジョン攻略に乗り出す始末。
俺も攻略課へ配属になり、ダンジョンに行っては湧き出てくるモンスターを倒している。そしてたった今、俺と織部は攻略課の課長に呼び出されていた。
「急に呼び出してすまないね。
「で、課長。用件ってなんです?」
「実は、君たちに頼みたいことがあってね。4カ月前、君たちに事前調査に行ってもらった平等院、覚えてるだろう? あそこの攻略が間もなく終わる。君たちにはいつも通り最前線ギルドと合流し、共にボスを討伐。その後、ダンジョンの封印を行ってもらいたい」
俺たち攻略課は、ダンジョンを攻略するとともにダンジョンとなった世界遺産を元に戻すことが役目だ。でないと、いつまで経っても文化財の継承ができない。
だが、ダンジョンの攻略をするにしても人手がいる。そこで、ある程度の事前調査を攻略課で行い、ダンジョンマップを民衆に向けて発行。民衆たちにもパーティーやギルドを組んでダンジョンを攻略してもらうことになった。
ダンジョンを元に戻すためには、入口の鍵穴に鍵を掛ける必要があるのだ。その鍵はボスを討伐することで手に入る。
課長の話によれば、同じ攻略課のメンバーが率いる最前線ギルドがボス部屋の一歩手前で待機しているらしい。討伐時刻は15時ちょうど。討伐まで後、4時間しかない。平等院へはここから徒歩と電車で2時間はかかる。入り口からボス部屋へ向かうまで最短で1時間半はかかるだろう。
俺と織部は急いで準備をするために、課長室を出た。
◆◇◆◇
そして今、俺たちは何故か十数体の菩薩像に追いかけられて、部屋の中を走り回っている。雲に乗ったそいつらは執拗に俺たち目掛けて矢を放ったり、矛や剣を振り回していた。そう一言で言うなら罠にかかってしまったのだ。
「お前なぁ! あれほど先々進むなって言ったのに、何やってんだよ!」
「はぁ!? はよ合流せなあかんねやからしゃーないやろ!」
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