第50話 薬師 アリアの過去と世界の謎

 アキラの元に、やって来た薬師アリアは、このゲーム世界のキーマンだ。


 アリアは、世界を旅している。彼女は王国の西隣に位置する共和国で、ジプシーの子として生まれ育った。町の学校を卒業後、共和国の学校から推薦を受け、無償で授業を受けられる上、生活も保証される立場を得ることができた。


 町の学校では、高学年になると全員が年に一度、職業の鑑定を受けることが義務付けられている。国は、子供のレアリティ変更を早期に確認し、レアスキルを持つ人材を見出して、国の発展と防衛力の強化に役立てることを目指している。


 この制度はどの国でも行われており、そのため学校は国民の義務として重要視されている。

 

もちろん、個人差がある。子供のレベルがMAXになり、職業が発現するタイミングには早い人もいれば、遅い人もいるし、自覚の有無もさまざまだ。


 アリアは、2つの職業を同時に発現した。彼女の職業は薬師と探究者でありとても珍しかった。職業は家庭環境や生活環境に大きく影響される。たとえば、農家で手伝いをしていれば自然と農民になるようなものだ。


 アリアは、ジプシーの母親のように酒場で踊るダンサーになることを嫌い、代わりに学校の図書館にこもり、もっぱら聖書を読みながら知識を深める日々を送っていた。また、生活費を稼ぐために薬草を求めて森に入ることも多かった。


 聖書を、信仰としてで無く、世界の構造の物語として彼女は読んでいたのだ。


「あなた、2つの職業を持っていますね?、私はサブの職業も見れるんですよ。メインのジョブと入れ替えしてますね。ランクが違いますよ」その年、派遣されてきた年老いた国の鑑定員は極めて優秀で、事情を見抜き、そう告げると笑った。


「はい」アリアは、俯いた。探究者という職業がわからず恥ずかしかったからだ。


「恥ずべき、職業ではありません。国を超える仕事です。頑張りなさい」


 背を押されて彼女は、探究者として、国を超え、薬師として、村を回り、自分に与えられた職業を全うしている。


 ジプシーの母親は、アリアの特待生として支給される入学準備奨学金を手に入れると、男と駆け落ちして行方しれずとなった。彼女を責める気は無かった。手切れ金くらいに考えて苦笑いをするしか無かった。


 アリアは共和国から、更に教育レベルの高い王国の大学校に短期留学する事になった。そこで、ある教授に出会った。急に廊下で話かけられて、研究室に招待された。今にして思えば、話す機会を見計らっていたのだろうとも思う。


「アリア、君は探究者にして薬師らしいね。この世界の真実を知りたいのかい?」金髪長髪で、顔を隠し、丸い眼鏡をかけて、いつも長いコートに身を包んだ陰気な雰囲気の漂う男であった。


「はい、クロガミ教授」彼は世界史、神話学、魔物学幾つもの専門を持つ有名な教授だった。ただ、出身、年齢等不明でも知られていた。


 研究室には、山のような資料があったが、殆どが魔物についてのもののようだ。世界史や神話についての資料は見当たらなかった。


「あー、ごめん。世界史や神話は記憶していてね。勿論、魔物もだけど、魔物は描いた方が美しいからね」そういうと黒板に代表的な魔物を描いて説明を始めた。


「興味なかったかな。騎士や冒険者達には好評なんだがね」まるで昆虫博士のように、情熱を持って話をしていた。


「それで世界の真実を知るとは?」アリアはじれて質問を切り出した。


「そうだね。神の存在について、どう考えてる?」


「二柱の神の事ですか?」


「極論を言うと、彼女達も又、世界の一部なのさ、僕と同じでね。より上位の存在、神界の調停者、管理者かな。まあ、あの人が手を出すことは無いけどね」


「よくわかりません」


「そうだね。僕と旅に出よう。君はとても優秀で放置して置けないからね」


「考えさせて下さい」アリアは即答を避けた。


「なるべく早く回答を頼むよ」強い言葉と共に鋭い目が光った。


 教授からの誘いをどうすれば良いのか、彼女は研究室を逃げるように駆け出すと、長い廊下で、女性とぶつかった。勢いよくぶつかって、アリアは持っていた本をばら撒き転んでしまった。各地域の聖書だった。


「ごめんなさい。大丈夫かしら」とても高貴で美しい女性が手を差し伸べてきた。


「はい。アストリア王妃様」大聖女にして、第2王妃。彼女が数十人の騎士団を従えて立っていた。


「クロガミ教授の研究室から出て来ましたか?教授はいらっしゃいましたか?」


「はい」


「そう。フェニックス、彼女の保護を。残り全員で、クロガミを拿捕します!」言うが早いか、フェニックスだろう美男子を残して、全員が黒上教授の研究室に突入した。フェニックスは、アリアを体の後ろに隠して剣を構えた。


 部屋は騎士団が踏み込むと、部屋は煙幕で覆われた。


「早いね。全くアイリスは遊びを知らない」煙幕は麻痺系の毒のようで騎士団のメンバーが次々に倒れていく。


「ディヴァイン・ヒーリング」大聖女は瞬時に神聖治癒魔法をかける。騎士団が、瞬時で効果が出ているらしく再び立ち上がると、彼を取り囲んだ。既に、クロガミの斬りかかっているが、黒いコートに弾かれて、全く効いていないようだ。


「わかった、わかった、降参、降参。」そう言うと、クロガミ教授は、手を打った。

「ホーリーシールド」大聖女は、魔法の完全無効魔法を唱える。


「へー、やるねー。アイリスの入れ知恵かな」クロガミは笑った。


「あなたが、精神系魔法を無演唱で使える事は調査済みです」


 魔物の捕獲用の道具を持った騎士団が、クロガミを取り囲んだ。


「あー面倒だ。アバター作り苦手なのに。アイリスに仕込みは済んだから楽しんでね。と伝えてね」そう言うと、クロガミは体だけを残して去っていった。


 その後、クロガミは投獄されたが、彼は既に廃人となっていた。アリアも簡単な取り調べを受けたが、アストリアのおかげもありすぐに解放された。


 アリアは、アストリアの強い要望で、しばらく彼女の屋敷に寝泊まりして大学に通う事になった。理由は、クロガミに狙われているという事らしい。


 アストリアの屋敷には、彼女が拾ってきた人達が多くいた。その中で、アリアと話があい、妹のように可愛がっていたのが、ノワールという訳ありのメイドであった。


「アリア、教師をやってくれないかしら?」


「いったい何を教えれば?」


「何でもいいわ。そうね、薬学とかかな。」


アリアは先生として、屋敷の人達を相手に教育を行った。


 その後、次第に魔物の動きが急激に活発になった。アストリアやフェニックス、そして彼女迄もがアストリアとパーティを組んで直接の戦闘をする事やダンジョンを潜る事もあった。

 この様な時の為に、優遇しているのだと言わんばかりの国々の態度には呆れていたが、彼女は粛々と仕事をこなした。


 1年ほどして、魔物の活動が一斉に停滞期に入り世界が落ち着きを戻した頃、アリアは世界を廻る旅に出る事にした。


 アストリアと下僕達。いや彼女の仲間達とは、共に戦い、共に遊び、共に笑い、共に泣いた。このままでは、ずっとこの場にいてしまう。


「寂しいわね。でも仕方ないわね。あなたの役目で業だものね」アストリアは知っていたかのように、アリアを見つめた。


「はい。又お会いしましょう」アリアは将来の再会を口にした。


「それは叶わないかも。一つだけお願いを聞いてくれないかしら?」朗らかで嘘偽りが無く率直な彼女が、珍しい言い回しをした。


「何でしょう?何なりと。」アリアは驚きながら了解した。


「将来、私の子供に会ったら、助けてあげて欲しいの」

 

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